第17話「対抗策」
宿の自室に戻ったあと、扉にもたれかかったマリオンは、誰も部屋に入れないようにしながら耳を澄ませる。もし聞き耳でも立てられたら面倒だ、といつでも周囲の気配を探って、ジッと待っていた。
一方、グレアは一階でもらったペンと紙で、さらさらとローズ宛ての手紙を書き、窓を開け放って、最近覚えた指笛を大きく鳴らす。
「……あ。来たよ、あれじゃない?」
遠くで旋回していた鳥が、窓辺へやってくる。
「わあ、鳶だ。こんなに大きいのが来てくれるなんて。もしかして君も喋れたりするのかい、ねえ?……うーん、話してはくれないか、ちょっと残念」
子供のように無邪気に話しかける姿は、ほとんどの人が見れば、頭がおかしくなったとでも思いそうな光景だった。鳶はまったく淡泊な対応で、興味もなさげに手紙を受け取ったら、すぐさま飛び立ってしまった。
「どこでも呼べば来るとは言ってたけど……これでひとまず安心だ。私たちに何かあっても、ローズさんがそのうち気付いてくれる」
「あとはオレたちで解決まで持っていけたらいいな」
グレアはこくんと頷く。
「まだ大したことは分かってないけど、少なくともペイテンが私たちの思っている通りの人物なのは間違いない。とはいえ、警戒心も強そうだし、もう少し時間を掛けないとね。見張られてる分、動き辛いのが厄介だなあ」
頭を悩ませるのは、島民たちの目だ。多少ならともかく、どこからでも見張られる現状。一緒に遊んで仲良くなったリリナさえ味方ではないのだ。
「警戒されちまった以上、敬虔な信者のふり……ってのも厳しいだろうぜ。のらりくらりとかわせりゃいいが、オレたちがあれこれ介入できる時間は短い。さっさと片付けちまったほうが良さそうだ。手持ちのカードもあるしな」
うーん、とグレアは腕を組んで首を捻った。
「私たちがやるのは絵札遊びじゃないから、もっと慎重になりたいところだけど……問題はペイテンから、どうやって十字架を取り上げるかだよ。ずっと握ってただろ、あれはおそらく警戒心からじゃなくて本当に癖だ。教会の運営をする以上は肌身離さずだから、島民の目を覚ますのも楽じゃない」
ペイテンが何かしらの暗示をかけているのは明白だ。十字架さえ奪ってしまえば、多くのことは解決できてしまうだろう。しかし、その最初の一歩を踏み出すのが難しい。何を切っ掛けに近づくか? それが課題になった。
「君が見つけた財宝は海の中を通らなきゃ、とても見つからない場所だ。ペイテンが、あの身体で優雅に泳ぐ姿なんか想像もできないから、たぶん他の人を行かせるはずだ。協力者の一人でもいれば違ったのに」
ぶうぶうと文句を垂れるグレアをくすくす笑いながら、マリオンは開けっぱなされた窓の外を眺める。
「……ならよお。いっそ教会を見張ってみるってのはどうだ?」
「どうやって。彼の教会に行くには一本しか道がないのに。尾行がいたら、私たちの行動は筒抜けになっちゃうだろ」
マリオンがふっふっ、といやらしさのある笑みを浮かべた。
「そんな教会の近くで島民を煙に巻く良い場所があるんだよなあ。──オレたちだけは、それをよく知ってる。そうだろ、グレア?」
まったく理解できていなかったグレアもハッとする。協会のすぐ裏側、いくらかの山林を登った先にある景色は、いまだ頭に焼き付いていた。
「そうか、リリナと一緒にいったっけ。あのあたりなら、ついてくる人がいれば気付く……あ、いや、待てよ? もしかしたら、もっといい方法があるかも」
すぐさま自身の荷物から魔導書を取り出す。食いつくようにページをめくって目を滑らせ、そのうち、ぴたっと指が止まった。
「おい、何探してんだ? 面白い魔法でも──」
「あった。魔道具に関する項目」
はあ、と大きなため息がでる。
「何度も読んでいて全部頭に叩き込んでいたつもりだったけど、使わないものにはあまり意識を割いてなかったんだよね。思い出して良かった」
マリオンが興味津々に覗き込むと、グレアはニヤリとした。
「ペイテンが使っているのが魔道具だとしたら、私たちにも対抗手段はある。あれは一種の呪いに近いもので──解く方法が、ここには記されてる」
「……ああ、つまりあれかい。尾行をわざと?」
至って単純。ペイテンに気付かれないよう協力者を得ることができる、とグレアはマリオンを肘で小突いて──。
「君のおかげだ、最高の気分だよ。もう一度、教会へ行こう」




