第10話「グレアの推察」
二人の計画は、翌日の朝から始まった。宝探しをするより先に教会へ向かい、仮初のお祈りを済ませてから宝探しを再開する。しかし、今日の目的はといえば、情報集めと海賊の呪いについての真偽だ。
ペイテンの目的がリリナのような若い女性を狙っているだけでないのは、島の状況をみれば分かる。なにかしらの利益のみでオクトラス島を根城に選ぶにしては小さすぎるし、贅沢もあまりできない状況で、彼が目当てにやってきた可能性の高い〝海賊の財宝〟は、実際にどこかから仕入れた情報に違いなかった。
「なあ、マリオン。君がこの島に財宝を隠すとしたらどこだい?」
午前中、リリナは宿の片づけを手伝っていて、二人は今のうちだと島を歩き、グレアがそんな話を持ち出した。
「んー。……昨日もあちこち見て回ったけどよ。正直、隠せそうな場所はないよな。せいぜい土の中とかじゃねえか。教会の裏手のどこか、って可能性は?」
「それはないだろうね。もう調べてると思うよ」
教会の場所は、港までを見渡せる高い場所にある。逆に、島の住民たちからは教会が見えるだけで、それ以上は視界を環境に遮られている。グレアは既に確かめていて、宝を隠すには、あまりに単純な場所が過ぎると思った。
「たぶん、あのペイテンとかいう教祖も最初は疑ったはずだ。でも、そんなところに財宝があるのなら彼が島に五年もいる理由はない。彼の当初の目的が財宝だと考えると、リリナは、そのついでみたいなものかもしれないね」
「くだらねえ。そんなに金が欲しいもんなのか」
「そういうものさ。いくらあっても損はしないんだから」
真に神を信じる人間でないかぎり、いや、信じていたとしても、神への捧げものと考える者にとっては、これ以上ないほどいくらあっても足りないだろう。
「……だけど、少なくともペイテンは金の亡者だろう」
リリナがいない間、島民たちに挨拶をして世間話をしながらそれとなく話を聞きだしていたグレアは、それらをまとめて考えると、ペイテンがいかに良い人間であるかを語らせて信者を増やしたに違いないと考えた。
「やはり君の言う通り、島民たちが観光客の宿泊で稼いだ金の多くは、お布施として回収されているようだ。けれど、教会は見たかぎり質素で小さく、とても贅沢をしているようには見えない。どこかに蓄えているんだと思う」
「でもよう。それだったら修繕費とかに使うために置いてる、って普通に考えることもできるんじゃねえの」
マリオンの指摘を受けても、グレアは堂々と否定した。
「五年。五年が、あの男のタイムリミットなんだ」
「……うん? つまりどういうことだよ?」
人気のない林の木陰で休みながら、グレアは汗を腕で拭う。ぽたりとあごから落ちた雫が土に吸われていくのをじっと見つめて、彼女は話を続けた。
「まあ私の推察を聞いてくれよ。……最初から金が目当てなら島自体に用はない。もともと眉唾な財宝の話を聞いて、彼は五年の歳月をかけて探してみることにした。雲を掴むような話だ、彼は保険として、島民たちから金を回収する手段を考える。もともと貴族にはある程度の人気がある高級なリゾート地としても知られるオクトラス島で、君の言うようにお布施として島民から金を回収し、財産として貯蓄することを決めた。そこで利用できそうだったのが、リリナだった。っていう話はどうかな」
マリオンが肩にとまったテントウムシを捕まえ、手に這わせて人差し指を空に高く掲げながら、グレアの問いに答える。
「……悪くねえ。だとしたら、そのあとはどうなる? コイツみたいに、どっかへ飛んで行っちまうのか。あの教祖が、金を抱えて」
「ああ。リリナも連れて島を出るつもりなんじゃないのかな」
目で追っていたテントウムシは、やがて小さくなって、どこへ行ったか見えなくなる。そろそろ行こう、とグレアが立ち上がった。
「呪いのせいで体の弱かった少女を解き放ち、小さな島から連れ出して世界を見せてあげようとした……なんて、心温まるエピソードと一緒にね」
だけど実際は、と彼女は冷たく笑う。
「あっちじゃあ、年頃の娘を端金で買い叩く連中がいる。ここで積みあげた財産だけあれば、邪魔な娘は安値でも売ってしまえばいい。誰にも知られることはなく、幸せな娘の偶像だけが、この島では永遠に生きていくんだから」




