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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第二部 レディ・グレアと小さな島の少女

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第8話「誰より大切な人」

 強気なグレアにたじろいで、言葉も出てこない。クートは彼女がおっとりした雰囲気の公爵令嬢としての姿しか知らない。勝気な本質を持って、敵意を剥きだしにされたのに、思わず腰が抜けそうだった。


「ああ、それとも。皇太子殿下との婚約が破棄されて、自分にもチャンスがあるとでも思ったかい? 君は昔から、そういう下心の透けて見える人間だった」


「なっ……そ、それは違う! 俺をなんだと思ってるんだ!?」


 ぎろっと睨んでグレアの腕を掴み返す。


「侮辱されたと思って憤りを覚えたのなら、その感情をしっかり胸に刻んでおけ。それが、見ず知らずのマリオンに君が与えたものだ」


 手を振りほどいたグレアは、ふんっと鼻を鳴らして背を向けた。マリオンの手を握り、再び歩きだす。近くの売店で何があったのかと遠巻きに見ていたリリナに小さく微笑みかけたら、「行こう、落ち着かないから」と立ち去ろうとする。


 注目を集めてしまった以上、居心地が悪い。


「あ、じゃあ先に行ってて。ここの売店、持ち帰りもできるんだ」


「悪いよ、君にあれこれ任せてばかりなのは」


「気にしない、気にしない。さあ行った行った!」


 背中を押されて、ひとまず甘えることにした。騒ぎを背にしたままなのは、マリオンもさぞ不愉快だろう、と。


 しばらくの急ぎ足に、宿の近くまできてようやく落ち着いた頃にマリオンが足を止めた。もう苛立ちは胸の中から消え去っていた。


「グレア、もういいって。オレは大丈夫だから」


「あ、ごめん。ずっと手、握ったままだったね」


「おう。……あの、さ。さっきの、ヤバくねえか?」


「え。クートのことだったら気にしなくていいよ」


 所詮は伯爵といっても、レンヒルト公爵家に比べれば大した地位もなく、歴史も浅い。そもそもが魔女の代理人であるマリオンへの強烈な侮辱は、彼女を選んだローズに対する批判と同じだ。相手にする価値もない。グレアはそのつもりで返事をしたが、当の本人はといえば、なぜか頬をうっすら紅くしていた。


「そうじゃなくてよ。さっきオレのことなんて言った?」


「うん、誰より大切な人だと言ったけど。実際、そうだろ」


 間違ってはいない。マリオンもそれが良き友人として、旅の相棒としてだと認識しているが、そう思っていても意識せざるを得なかった。


「……そりゃあそうなんだけど、そうじゃなくて。あれじゃあ、お前、周りに変な目で見られたりしてねえかなって。オレも一瞬、勘違いしちまったし」


 理解するのに数秒を要して、グレアは途端にゆであがったタコもかくやの真っ赤な顔で事態に気付き、慌ててマリオンの肩を掴んだ。


「ちっ、違う! 私が言いたかったのは、けっしてそういう意味じゃなくて、私のずっと傍にいてくれる大切な──ああ、もう! とにかく違うの!」


「そんな全力で否定しなくてもいいじゃねえか」


 悪い気はしていなかったので、マリオンはなんとなく「オレは別にそれでも良かったのに」とグレアを抱き寄せてみる。ちょっとからかってやろう、くらいの気持ちだった。だが、抱き寄せられた彼女はそうではなかった。


 今にも燃え尽きてしまいそうなほど、触れ合った肌の温度が身近に感じられる。グレアは今、まさに思考が真っ白になっていた。


「……おーい、グレア? 大丈夫か?」


「ゆ、許さないからな! 人をからかうのも大概にしろ!」


「アッハッハ! 怒るなって、お前はオレじゃダメか?」


「駄目なわけないだろ……。でなきゃ一緒にいない」


 思わぬ不意打ちに、軽く突き飛ばされたのをからから笑っていたマリオンが、嬉しそうに彼女の肩に腕をまわして、また引き寄せた。


「だよなぁ! オレも、お前じゃなきゃ一緒にいねえよ!」


 そんな二人のやり取りに、戻ってきたリリナがじろっと見つめる。


「あの。うちの玄関でイチャつくのはいいんだけど、中に入ってくれないと。ほら、さっきの料理もらってきたから一緒に食べよう?」


「おお、美味そうな匂いだな! 入ろう、入ろう!」


 解放されたグレアは、ふたりが宿に入っていくのを後から追い、首元をさすりながらため息をつく。良いように遊ばれてしまった、と悔しそうだった。


「ま……いっか。仕返しはまた今度だ」


「あン? なんか言ったかよ、グレア?」


「別に、なーんにも。ほら、それより食事にしよう」

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