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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第二部 レディ・グレアと小さな島の少女

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第7話「侮辱は許さない」

 宝探しを名目に観光を楽しむ人々も、暑さに負けそうになって日陰で休んだり、彼女たちと目的を同じく、のどを潤すのに店を探している。リリナは、そんな中で迷いなく店を選び、三人分の飲み物をプレートに乗せて待っていた。


「あっ、遅かったね。飲み物、入れてもらったよ」


「ありがとうね、リリナちゃん。お金はあとで返すから」


「いいって、気にしないで。アタシの奢り!」


 せっかく島に来て、自分の宿に泊まってくれた礼だと言って、三人でテーブル席に座って休憩する。昼も過ぎて動き回ったからか、マリオンがお腹をぐうと鳴らすので、三人でげらげらと大笑いした。


「アタシ、何か買ってくるよ。何がいい?」


「私は辛いものがいいな」


「オレは甘いの!……って辛いの食うのか、お前」


 この暑い日差しの中を本気なのかと言いたげに目を細めたマリオンに「それがいいんじゃないか」とジュースを飲みながら、得意げに言う。


 残念ながら、リリナにも理解は得られなかったが。


「じゃあ待っててね。すぐ注文してくる!」


 そう言ってリリナが席を離れ、グレアはぽつりと──。


「あの子、病弱なんてのは嘘かもね」


「……あン? なんで分かるんだよ?」


「別にあの子が嘘ついてるって話じゃないよ」


 グラスの中で氷がからんと崩れる。


「彼女の身体がそれほど強くないのは事実だろう。でも、教祖が言う『呪い』は嘘だ。あの子は華奢だから、他の子に比べて体力がないだけだよ。蝶よ花よと大切にされていただけの可能性は高い。これを使って調べることもできる」


 ネックレスをつまみあげた。


 マリオンが、なるほど、と手を叩く。


「魔法か、そりゃいい。だけど、気付かれねえように確かめるってのも大変そうだよな。こっちが魔法なんか使うってなったら大騒ぎになってバカンスだとか調査だとか言ってられなくなっちまう」


 目立ってしまうのは避けたい二人は、頭を悩ませた。


「……そうだねぇ。何かいい方法があればいいんだけど」


 ぼんやり待っていると、突然、「グレア・レンヒルトじゃないか!?」と声を掛けられる。爽やかに吹く風のように耳を通った声は、グレアには相当不愉快だったのか、露骨に顔をしかめて振り返った。


 立っていたのは、ショートカットの金髪をした男だ。背はグレアよりやや小さく、美しい桃色の瞳が彼女を見つけて嬉しそうに輝いている。


「久しぶりだな、グレア・レンヒルト」


「クート。大きな声で名前を呼ぶのはやめてくれないか」


 クートと呼ばれた男はからから笑った。


「いいじゃないか! 俺とお前との仲なんだから」


「ただの幼馴染だろう。礼儀くらい弁えたまえよ」


 ツンとした態度に、マリオンはずいっと身を乗り出して、テーブルに肘をつきながら牽制するようにクートに向けて鋭い視線を送った。


「おい、兄さん。どこの誰か知らねえが、グレアが嫌だと言ってんだから下がんなよ。迷惑を掛けるのは紳士のやり方じゃねえだろ?」


 彼女の言葉に、喧嘩をふっかけられたと思ったクートは冷たい視線で見下ろす。


「……俺は彼女と付き合いが長いんだよ。よく知りもしないくせに話掛けてくるな、どこの家門の人間だ? 俺はナルヴィック伯爵家の人間だぞ」


「生憎とオレは平民でね、知ったことじゃねえよ」


 売り言葉に買い言葉。突然現れた幼馴染だという男の態度がどうしても気に入らないマリオンは徹底的に彼を排除したがった。グレアも、彼女ほどではないにしろ、周囲の視線も気になったので、ジュースを飲み干して席を立つ。


「彼女はマリオン・ウィンター、私の友人だよ。いっしょに旅行に来てるんだ。他にも待たせてる子がいるから、これで失礼する」


 食事は中止にして、リリナに声を掛けようとする。せっかくの料理が届いても、今の気分では美味しく食べれそうにもなかった。マリオンの手を引いて「行こう」と歩きだした瞬間、クートは何かを思い出したように手を叩く。


「ああ、ウィンター! 知ってるぞ、ヴェルディブルグの没落した家門だろ。うちとも取引があったから覚えてる。なんでも事業に失敗して大損をした末に首を括ったとか。そんな奴がグレアと友人とは、目的が透けて見えるね」


 クートは伯爵家の令息としての振る舞いに忠実だった。なにより彼がそれを望み、そして高慢に育った。身分こそ尊いものだと考える彼の言葉に、マリオンが足を止めた。今にも振り返って怒鳴りつけてやりたいくらい腹が立った。


「やめとけよ、グレア。老婆心ながらに忠告させてもらうが、没落した貴族とつるんだって良いことないぞ。お前のためにならない」


 どれだけ言われてもマリオンは振り返らない。今にも殺してやりたいと思うほど、灼熱のような怒りを胸に滾らせながら、それでもグレアに絶対に迷惑をかけてなるものかと耐えた。冷ややかな言葉を浴びせられて辛くない人間はいない。ましてや愛していた家族を馬鹿にされたのだから。


「……ちっ。たかがナルヴィックの人間風情が」


 グレアがマリオンの手を離す。


「言葉の選び方も知らない、親の躾けも行き届いていない生意気な男に、親切な私が教えてあげよう。今や彼女は私にとって誰より大切な人だ。そのことは既にレンヒルト公爵家にも伝わっていて歓迎もされている。よって──」


 クートの前に立ち、彼の着るシャツの胸倉を掴む。


「彼女への侮辱はレンヒルト家への侮辱とみなす。覚悟しておけ」

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