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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第一部 レディ・グレアと始まりの旅

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第52話「意外な事実」

 結局、行くあてもなく所持金もないので宿も探せず、ローズがどこからか手にした地図に印をつけてもらい、ある人物の家を訪ねることになった。相手はテルフィ・バーナム。ヴェルディブルグの大貴族であり、少々癖の強い男だ。


 とはいえ王都の人々からは根強い支持を受け、ときどき公の場で堂々と買い物を楽しんで帰るほど庶民によく馴染んでいる。ローズやシャルルとも交友関係を持ち、普段は自身のアトリエに籠って、ひたすら絵を描いているという。


「この一年、お前がどう過ごすかは自由だ。しかし、過去でお前が自分と偶然にも出会う……といった事故は避けたい。何が起きるか分からないから、そのあいだはテルフィのところで世話になるといい。それからシャルル、お前も」


「わかった。女の子だもんね、任せて。ボクがサポートするよ」


 ぐっ、と胸のあたりで拳を作って自信に満ちた笑みをみせる。テルフィは男で、屋敷には雇われたメイドが常駐していない。彼が嫌がって追い出すからで、自由に出入りできるのは認められている者だけ。女性に対して特別理解があるわけでもない普通の男なため、世話をするといっても最低限になるだろう。


 そこで、依頼はローズひとりでこなし、一年間はシャルルがつきっきりで困りごとがあれば助けられるよう傍にいると言うのだ。申し訳なさに「大丈夫ですよ、私は」と断ろうとしたが、テルフィのためでもあると説得された。


 善は急げといったんローズとは別れ、シャルルに案内されてバーナム邸へ向かう。ヴェルディブルグを自分が絶対にうろついていないとも限らないので、念のため魔法を使って髪の色を白く変えてもらって堂々と歩くことになった。一年も前になると記憶もおぼろげだし、そもそも当時にマリオンがどこにいたかも分からないので、まだ出会いたくはなかったから。


「それにしても、未来から来たなんて驚いたよ。あの洞窟にあった扉、本当に過去に戻れるんだね。誰も通ったことないから確かめようもなくてさ」


「アハハ……。自分でもびっくりでしたよ」


 シャルルの話を聞いて、ふうん、と意外に感じた。


(あの洞窟、試しに通った人がいたって聞いてたけど、もしかしてつい最近のことだったのかな? 勝手にずっと前をイメージしてたかも)


 自分が扉を通るよりも前に誰かが通ってくれていて良かった、と安堵する。でなければ、とても賭けに近いようなことはできなかっただろう。いったい、どんな人物が通ったのかだけが気になった。


「あ、ほら。着いたよ、たぶんいると思うんだけど……」


 門前にいる警備の男が大あくびをする。シャルルが近づくと、ぱっと顔を明るくしてひょこひょこと小さく手を振って挨拶をした。


「シャルル嬢~! お変わりなく!」


「バンダムさん。今日も暇そうだね?」


 警備の男、バンダムはいかにもな紳士風な顔立ちで、手入れのされたふわっとした口髭を撫でてコクコクと何度も頷く。


「バーナム邸は王都でいちばん誰も訪ねませんからねえ。とはいえ賊に入られても困るって言うので、こうしてわたくしが雇われてるんですが……見ての通りです。暇すぎてあくびばかりが出てしまいますよ。それで、ご用件は?」


 隣にいるグレアをまじまじと見て、首を傾げる。何か事情があるのは分かっているのか、深くは聞こうとしない。シャルルが「この子といっしょにしばらくテルフィのおうちに泊まりたいんだけど。一年くらい」と平然と言われて目を丸くしたものの、彼は門を開けて案内を申し出た。


「どうぞ、こちらへ。旦那様にお尋ねになってみてください。たぶん問題ないと言うでしょうけれど、わたくしの一存でお返事はできませんから」


 彼のあとをついていきながら、グレアは「このおじさん、何者なんですか」と尋ねる。テルフィについてよく知っているどころか、ある程度は意思の代理も行っていそうだと思ったからだ。するとシャルルはぴんと指を立てて──。


「バンダムさんはテルフィが赤ん坊の頃からここで仕えてる執事だよ。今年で五十二歳になるんだ、ボクよりずっと年下だね」


「へえ、そうなんですか……えっ、年下!? おじさんの方が!?」


 あまりの衝撃につい大声を出して口を両手で押さえる。シャルルは少し恥ずかしそうに、ぽりぽりと頬を掻きながら。


「だってボクも、君と同じ不老不死の呪いを受けてるからね。違うとしたら、ボクがローズといっしょにいたくて本を開かせてもらったんだけどさ」

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