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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第一部 レディ・グレアと始まりの旅

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第44話「もっと堂々と」

 邸宅の前で暇そうにあくびをしている兵士の男が、寄ってきた二人に気付いてびしっと背筋をまっすぐに正す。


「すみません、ここがダルマーニャ子爵の邸宅だと伺ったのですが」


「はい! サボってません……じゃなかった、その通りですよ!」


 ごほん、とひとつ咳をして男は二人に何か用があるのかを訪ねる。紹介状を見せられて、今日来るはずだと言い付けられていた魔女の代理人だと分かり、なおさらに真面目そうな顔をして門に手を掛けた。


「あ、あの……暇そうにしてたことは内緒でお願いします」


「気にし過ぎだぜ、あんた。オレたちにはどうでもいいこった」


「すみません、助かります。では中へどうぞ」


 玄関先にいる若いメイドが、やってきた兵士から話を聞いて二人を邸内に招く。二人が想像していたよりも家具が少なく、多少の見栄えを意識しただけで、それほど高い装飾も置いていない。質素という言葉がしっくりくる。


 応接室に通されてしばらく待つことになった。


「少し訪ねるのが早かったみたいだね」


「遅れるより良いんじゃねえの?」


 どっかりソファの背もたれに体を預けてくつろぐ。マリオンのそんな堂々な態度に、グレアは苦笑いを浮かべた。


「相手はローズさんの知り合いなんだから、粗相があってはならないと思ったんだよ。こっちの都合で急がせてしまったら申し訳ないだろ」


「……ん。まあ、お前がそう言うなら仕方ねえな」


 こほん、と小さく咳払いをして姿勢を正す。それと同時に、扉が開いて「いやあ、すみません、遅れてしまって!」と、髭面の小太りな体型の男が入ってくる。二人はすっと席から立ち上がり、胸の前で手を当てて小さくお辞儀する。


「初めまして、ダルマーニャ子爵様。グレア・レンヒルトです。それからこちらが、マリオン・ウィンター。本日は魔女の代理人として……」


「ああ、気兼ねなく。どうぞ座ってください」


 遮って、子爵のほうが頭を下げた。


「こちらこそ遅れてしまい申し訳ありませんでした。私がエドゥレ・オルケス・ド・ダルマーニャです。……憲兵長も兼任しておりまして、毎日、夕刻までは巡回をしておるのです。父の習慣が根付いているもので」


 二人が座ってから、エドゥレは自分の一人掛けのソファに腰を下ろす。


「少ししたら、メイドが御茶菓子も持ってきてくれますので、ごゆるりと。その前に、ひとつだけ申し上げさせてもらってもよろしいですかな」


 依頼の話だと思い、グレアたちが聞きいる姿勢に入ったのを見て、彼は少しだけ申し訳なさそうに、しかし、はっきりとした口調で。


「もっと堂々として頂いても構わないんですよ。魔女様の代理人ともなれば、魔女様自身と違って、付け入る隙を探す方もいらっしゃいますのでね……。差し出がましい言葉にはなってしまいますが、私を練習台だと思ってください」


 魔女ローズといえば王族でさえ頭を下げる相手だが、代理人にもなるとそうではない。特に若い女性であるグレアやマリオンでは、人の良さそうに見える貴族でも、取り込もうとする者は多いはずだと彼は言う。


「んじゃあ、その言葉に甘えるみたいに生意気なことを聞くけどよう、旦那。あんたはそうじゃないって言えんのか?」


 気楽な雰囲気で悪気なく尋ねる彼女に、エドゥレは頷く。


「少なくとも信用してほしいとは思っていませんよ。私はただ依頼をこなしてほしいだけで、それ以上を求めるつもりはないです。魔女様に叱られるのも嫌ですしね。彼女には色々とお世話になってるものですから」


 ばしっと膝を叩いて彼はニヤッとする。


「いいですか、貴族なんてものはみんな、小狡いもんです。なので私を信用なさらなくても結構です。しかし、私はあなた方を信用しましょう」


 先ほどとは打って変わって、エドゥレの強さが瞳に見える。彼がモンストンの憲兵長を担っている理由を感じた。


「わかったよ、エドゥレさん。じゃあ、依頼内容を聞いても?」


「ええ、なにより大事な話ですからね。丁度お茶も来ましたし、」


 うぉっほん、と大きく咳き込んで──。


「まずはこれを受け取って頂きたい」


 懐から取り出したのは薔薇の紋様が刻まれた小さな鉄の箱。鍵がかかっていて、中からは何かが転がる音がする。


「……えっと、なんです? 鍵を開ければいいんですね?」


「ええ。ただ鍵がないんです、どこにも」


「んなもん、こじ開けちまえばいいんじゃねえのか」


 言われてエドゥレが残念そうに首を横に振った。


「絶対に鍵がなければ開かないんです。異様に頑丈な造りで、私の父が場所を知っているそうなんですが、いくら聞いても話さんのです。ですので──お二人にはこれを手段問わず開けていただきたい」

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