第24話「リヴェール孤児院」
グレアが案内する形でやってきたリヴェール孤児院は、まるで大貴族の邸宅だ。広い前庭があって、建物もどれだけ多くの人間が暮らせるだろうと数えているうちに分からなくなりそうなほど大きい。背の高い格子門の向こうでは、年齢のばらばらな子供たちが楽しそうに甲高い声を歌のように響かせながら追いかけっこをして遊んでいる。
庭師などはいないが、手入れが行き届いた庭は美しく、花がきれいに咲いている。マリオンは唖然と見つめるだけだった。
「……なんだい、こりゃあ。これが孤児院? 本当に?」
「ハハ、無理もない。ここが一番の支援を受けてるからね」
どの町の孤児院にも多くの支援が集まるが、王都にあるリヴェール孤児院は直接的な支援を受けやすく、改築なども頻繁に行われた。というのも、当然のように人数が増えていくからで、そのぶん働き手がいささか少ないのも問題視はされたが。
「行こう。ここで棒立ちしていても時間が過ぎるだけだ」
「お、おう……。なんか無駄に緊張しちまうぜ」
「この見た目じゃあ、そうもなるよ」
門を押し開け、敷地に足を踏み入れると、すぐ年長らしい子供の一人が気付いて遊ぶのをやめて立ち止まる。だが、グレアを見るなり途端に柔らかな表情を浮かべて「お姉さん! 久しぶり!」と駆け寄った。
「やあ、テオ。シルヴィおばさんと話がしたいんだけど」
「それならちょうど休憩中なんだ。案内するよ」
テオと呼ばれた少年は嬉しそうにグレアの手を握る。
「ねえ、そっちのお姉さんは?」
「彼女は私の友達。マリオンって言うんだ」
紹介されたマリオンがニカッと笑う。
「マリオン・ウィンターだ。よろしくな、坊や」
「うん、よろしく。僕はテオ・ブランシュって名前だよ」
柔和な少年の明るい表情はとても幸せそうだった。
彼の案内で孤児院の中に入ってすぐ、一人の老齢の女性が気付いて歩み寄ってくる。穏やかな声がグレアたちを優しく迎えた。
「まあ、グレアお嬢様。お久しぶりです!」
「シルヴィおばさん。相変わらず元気そうだね」
軽い握手と抱擁を交わす。シルヴィ・ヴァレンティナは御年八十歳で、現在は孤児院の管理人だ。グレアを幼い頃からよく知る友人でもある。彼女は挨拶を終えたらすぐにマリオンへ視線を向けた。
「そちらはグレアお嬢様のお友達かしら?」
「うん。マリオン・ウィンター、私の親友だよ」
紹介されたマリオンが胸に手を当てて小さくお辞儀する。
「とても綺麗な人ね。シルヴィです、よろしくお願いします」
「マリオンです。こちらこそよろしくお願いします」
見目にがさつな雰囲気のあるマリオンだが、ウィンター家の人間として基本的な礼節はわきまえている。そんな彼女の振る舞いを見て、シルヴィもすぐに気に入ってくれたのか「こっちへいらっしゃって。ゆっくりお話ししましょう」と、孤児院の中を案内してくれた。
長い廊下を歩きながら、彼女は初めて来たマリオンに、リヴェール孤児院がどんな場所かをニコニコと話し始める。
「今から三十年ほど前に建てられた孤児院は、当初はソフィア・スケアクロウズ様が魔女の代理として貯蓄された資産を用いて運営されました。たくさんの子供たちに囲まれて、あの頃は私も体力に任せて無理をしたものです。当時は子供たちも今ほど笑顔がなくて、心を開くのには大変な苦労がありました」
昔のヴェルディブルグは王都であっても貧しい人々ばかりが集まる貧民街と呼ばれる場所もあり、大人から子供まで盗みや暴力が当たり前。教育など受けたことはなく、劣悪な環境を憂う女王の努力もむなしく、改善は見られなかった。
そこで解決に名乗りをあげたのが、ソフィア・スケアクロウズ。『魔女の代理人』として世界的に有名で、二十年も前なら知らない人など誰もいなかったほど精力的な活動家の一人であった。彼女が表立った活動を初めてから孤児院は数を増やし、親のいない子供たちが将来を安心して生きられるようにと各地を巡りもした。
当時は教育も進んでいないので、話しても理解を得るのが難しく、子供たちは孤児院に行くと言えば奴隷になるか、憲兵に突き出されるのだと恐れて中々に上手くいかなかった。創設初期から働き手として来ていたシルヴィも懸命になったのを思い出し、彼女はほろりと涙を流す。
「ああ、ごめんなさいね。この歳になると涙もろくなってしまって」
「いやいや、貴重な話が聞けてオレも嬉しいです。ところで……」
興味深い話だったのは紛れもない。マリオンにとって、これ以上ない情報。
「そのソフィア・スケアクロウズって人が魔女の代理人ってのは?」




