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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第三部 レディ・グレアと原初の魔女

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第15話「ドッペルゲンガーの正体」

────意気込んだ二人の計画は想像よりもずっと楽に進んだ。さほど難しいものでもなく、手先の器用な二人は綺麗な丸い団子を作って、ひとまず何もつけずに食べてみて「悪くない」と、納得のいく出来になった。


「うん……、食感も書いてある通りだね」


「こりゃ完成が楽しみになってきた。お祭りの出店は安心だな」


「きっとみんなに喜んでもらえる。あとはソースだけだ」


 材料は揃っていないが、料理に慣れていればレシピを見て大方の味の想像はつく。自分たちが出展する当日まではゆっくり過ごせそうだと分かり、一日目をめいっぱい楽しもうと明るい表情を向き合わせた。


「ところでお祭りの初日はどんな風に回ろうか」


「おお、それも大事だなあ。食べて歩くのもいいが────」


 お祭りの醍醐味といえば、何をして初めて、何をして終わるかという計画を立てる事にもある。行き当たりばったりで楽しむのもいいが、二人は自分たちの決めた順番通りに進みながら、その間にハプニングでもあればそれも良いと期待した。


「……じゃあ、当日はそんな感じであとは適当に」


「いいねえ。帝都も退屈ばっかじゃねえな」


「美味しい料理は少ないけど、お祭りの日は別だよ」


 コーヒーをゆっくり飲みながら時間を潰す。もうすべき事は終わって、当日の予定も立てたらすっかり暇を持て余してしまった。


「そーいやあ、お祭りの事に浮かれて忘れかかってたけどよ。お前が会ったっていうもう一人のオレの事、いまさらだがアレってドッペルゲンガーじゃなくて、オレに化けたウィルゼマンだったって可能性はねえのかな」


 話題に尽きた頃、ふとマリオンが言った。


「……ハハ、そんなのあり得ないだろう。姿を変えるだなんて」


「魔法にはなかったのかよ、そういう外見を変える奴」


 うーん、と顎に手を添えてじっくり考えるが────。


「あくまで見目を多少いじれる(・・・・)ようなものはある。だけど、何もかもまったくの別人になるなんて可能だったかどうか……。そもそも性別が違うし、そんな事が可能なのか、シトリンさんでもいれば聞けるんだけどな」


 悪魔の事は悪魔に聞くのが早い。だがシトリンはローズに仕えているし、なにより神出鬼没だ。相手がタンジーであったと仮定するにしても、事実を確かめるのには時間が掛かり過ぎる。その間に嵐がやってこないとも限らず、彼女たちはどうしたものかと思案する。答えなど出ないに等しく、グレアは仕方なくクッキーをつまもうとして────。


「……あれ。ちょっと、マリオン。まさか全部食べたの?」


「馬鹿言うなよ。コーヒーのお供だぜ、オレだって飲み終わってない」


 勘弁してくれとでも言いたげな眼差しに首を傾げたとき、ボリボリと咀嚼恩が聞こえてきてふと顔を上げた。


「あ、すみません。甘そうなチョコチップでしたので、つい」


 美しい金色の髪と真紅の瞳が二人を一瞥する。彼女の手にはクッキーの乗った皿があり、紛れもなく独り占めするために掠め取っていた。


「ど、ど、どっから現れやがった!?」


「どこからでも現れるんだよ、多分」


 コクコクと頷いてシトリンは口のクッキーくずを指で払って皿に落とす。


「まあ、私は悪魔ですからどこへなりとも行けますし、どこへなりとも現れます。ローズ様から多少の自由も頂いてますし、あなた方が本当に必要な時は手を貸すようにも仰せつかっております。……クッキーの礼にひとつくらいは手伝いましょうか」


 勝手に食べておいて、お礼という言葉で濁すのにはいささかの疑問を覚えつつも、グレアは「では私たちの悩みに答えてもらえたりとか」と尋ねる。彼女はそれくらいは朝飯前だとばかりの表情で、空っぽになった皿をテーブルにそっと置く。


「あなたが見たという、もう一人のマリオン・ウィンター。その正体がタンジー・ウィルゼマンであったかどうかですよね。さきほどからずっとクッキーを狙っ……いえ、話を聞かせて頂いてましたから、分かっていますとも」


 こほんと小さく咳払いをしてから、彼女はスパッと答えた。


「────私たち悪魔にとっては当然の事です」

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