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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

再会の夏祭り

作者: 夏月七葉

 目の前を黒猫が横切った。驚いた私は立ち止まり、黒猫が突っ込んでいった草むらをじっと見つめる。

 神社に向かう道の途中、遠くに聞こえる祭囃子を聞くともなしに聞きながら、暫し考える。しかし私は、小さな影を追いかけて草履の向きを変えた。

 普段の恰好とは違って浴衣では動き難いが、どうにか草を掻き分けて進む。葉で少しばかり指を切ったが、痛みはあまり感じなかった。

 暫く行くと、不意に視界が開ける。辺りは明るくて、道に沿って屋台が左右に伸びている。祭りの光景に神社の境内に出たのかと何気なく周囲を見回して、私は息を呑んで固まった。

 往来は多く、賑やかな声が響く。楽しげな雰囲気は覚えのあるものだが、そこにある影は、人ではなかった。

 一つ目小僧にろくろ首、河童、小豆洗いと、いつかの絵本で見た妖怪達ばかりがぞろぞろと歩いているのだ。まるで百鬼夜行の中に放り込まれたような状況に、私の脳はすっかり思考停止していた。

 ただただ突っ立っていることしかできない私を、後ろから追い抜いた影が怪訝に振り返る。繁々と見つめてくるのっぺらぼうにようやく頭が危険信号を発し始めたその時、背後から手首を掴まれて飛び上がった。

「こんなところで何してるの!?」

 怒った口調で言ったのは、小さな男の子だった。黒髪に紺の浴衣を着て、まん丸の瞳で私を見上げている。

 その状態に既視感を覚えたのは、異形の中に突然人間の男の子が現れた驚きで錯覚をしたのだろうか。

 呆然とする私に構わず、彼は「こっち」と短く言って腕を引っ張る。抵抗する理由も恐怖もなくて、私は男の子と一緒に走り出した。

 二人は妖怪の間を縫って道を駆け抜け、やがて正面に大きな鳥居が見えてきた。石造りのシンプルな鳥居はどっしりとして、色も付けられていないというのに存在感に圧倒される。

 その手前まで来ると、男の子は急に立ち止まった。急停止できない私は足を縺れさせながら、鳥居を潜る形になる。

「――もう来ちゃダメだよ」

 声と共に、男の子の小さな手が離れる。

 それが惜しくて振り返ろうとした私は――目が覚めた。

 心配そうに周囲に集まっていた人達の話に依ると、私は道の途中で突然倒れたらしい。

 立ち上がる時についた手が痛くて見てみると、小さな切り傷があった。

「クロが助けてくれたのかな」

 私はそう呟いて、口元を綻ばせた。しかしその目に涙が浮かんだのは、まだ先日飼い猫を失ったばかりの傷が癒えていないからなのだろう。

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