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第96話 今更ビビってきた

 










「……あっけない終わりだったな」


 ルードリッヒは遠く離れた場所を魔法で遠視し、短く呟いた。

 教皇ゴルゴールからの命令で、彼はこのような辺境にまで足を運んだ。


 正直、それ自体が嫌だった。

 自分は教皇国大魔導の一人。


 つまり、偉大な存在だ。

 それを、まるでお使いに行かせるかのようなゴルゴールの命令は、少なからず反感を抱かせる。


「いずれ、あの地位も私が……」


 ルードリッヒは野心の強い男だった。

 かつてのゴルゴールと似ているかもしれない。


 さすがに彼ほど強欲ではないが、教皇国のトップ、教皇という地位には強く惹かれていた。


「る、ルードリッヒ様! 聖勇者様も巻き込んだのは、いかがなものかと……」


 慌てて声をかけてくる部下。

 黙って自分のやることを見ていればいいのに、面倒くさいことだ。


 しかし、これが教皇国の国民の一般的な反応だろう。

 天使を強く信仰し、その天使に見いだされた聖勇者もまた畏敬の念を送る対象だ。


 それを攻撃したのだから、声を張り上げるのも当然だろう。

 むしろ、教皇国にいながら、天使や聖勇者に対して強い信仰を持っていないルードリッヒが異例なのである。


 さて、力づくで黙らせても構わないのだが、そうすると後々教皇になる際の足かせとなりかねない。

 言葉で説得するため、彼は話し出す。


「ああ、そんなことか」

「そ、そんなこととは! かつての大戦で人類を勝利に導いた英雄。天使様から直々に神託が下ったお方に、なんということを!」

「はあ。お前たちはこんな簡単なことも分からないのか?」

「はっ?」


 やれやれと首を横に振る。

 後ろめたい様子も、焦っている様子も見せないルードリッヒに、部下たちは困惑する。


 これで、彼の言葉を聞く空気が出来上がった。


「彼女が本当に聖勇者アオイ様ならば、私程度の魔法で死ぬはずがないだろう。つまり、こうして死んだということは……」

「に、偽者……?」


 ニヤリと笑うルードリッヒ。

 ああ、本当に馬鹿な部下たちだ。


 こんな簡単に騙されてくれるとは。


「その可能性が高いだろう。教皇猊下が蘇らせた聖勇者様は、どこか違う場所にいるはずだ。そもそも、かつて殺し合った【赤鬼】の元に向かうのがおかしい」

「た、確かに……」

「だから、これでいいんだ」


 これを、ゴルゴールの失策としよう。

 本物に逃げられたということにしてもいいし、偽者を作り出したとしてもいい。


 どちらにせよ、こちらには知らされていないが、死者蘇生なんてどれほどの犠牲を払ったか。

 そこを追求すれば、ゴルゴールなど簡単に追い落とすことができるだろう。


 ルードリッヒは、まだ火球が炸裂していないにもかかわらず、この後のことを考えていた。


「過去の遺物は、さっさと死ね」


 冷たく見下ろす。

 そして、火球が着弾し、大きな爆発を引き起こす……はずだった。


 その火球を光の奔流が吹き飛ばす。


「…………は?」


 そして、火球は跡形もなく消え去るのであった。











 ◆



 ラモンとアオイは、第四次人魔大戦当時から対極的な立ち位置にいるため、よく対比して見られていた。

【赤鬼】と【鏖殺の聖勇者】。


 魔王軍最強指揮官と人類軍最強戦士。

 そして、魔剣ダーインスレイヴと聖剣クラウ・ソラス。


 武器ですら、対極的なものを使用していた。

 アオイの愛剣は、聖剣クラウ・ソラス。


 光の剣であり、魔を滅ぼす伝説の武器として、教皇国で長らく保管されていたものだ。

 アオイの死後、同じく教皇国にて厳重に保管されていた、まさしく国宝。


 しかし、ダーインスレイヴがラモンを待ち続けていたように、クラウ・ソラスもまたアオイを待ち続けていた。

 そして、そんな彼女が蘇り、再び自分の名を呼んだ。


 それだけで、長距離を瞬間移動して駆けつけるのは、武器として当然だった。


「……おかしいですわね。あの火球が、跡形もなく消し飛ばされたように見えるんですけれど」

「……その通りだぞ」

「久しぶりに見ますが、本当に規格外ですね、この力」


 目をパチパチとさせるナイアド。

 重々しくラモンが頷き、シルフィは冷静に分析していた。


 幸い、先ほどの火球を相殺させた攻撃がすさまじかったせいで、武器が瞬間移動してきたという異常には誰も気づいていなかった。

 多くの者を死に至らしめるほどの威力を、ルードリッヒの魔法は秘めていた。


 実際、ナイアドやレナーテ、村の人々は間違いなく命を落としていただろう。

 そんな恐ろしい攻撃を、たった一振り。


 それで、かき消してしまった。

 聖剣からあふれる、膨大な光によって。


「あの人も、ラモンのダーインスレイヴと似たような力がありますの?」

「いや、彼女……ダーインスレイヴとアオイの持つ力は正反対と言ってもいい」


 ナイアドの言葉に、俺は首を横に振って否定する。

 確かに、よく知らない人から見れば、俺がやることとアオイがやることは同じように見えるかもしれない。


 だが、魔剣ダーインスレイヴと聖剣クラウ・ソラスの効果は、まったく異なる。

 ダーインスレイヴの特徴は、吸収だ。


 生命力すらも吸いとることができ、それを力に変換できる。

 使用者の生命力を吸い取るという代償があったらしいが、俺は今のところそんなことになったことはない。


 一方で、クラウ・ソラスは純粋な攻撃力。

 光を持って、敵対する魔を滅する。


 もちろん、それは教皇国にとって都合のいい伝承であり、魔だけを滅する、もしくは魔にしか効果を発揮しないわけではない。

 純粋な破壊力。


 それこそが、聖剣クラウ・ソラスと聖勇者アオイの恐ろしいところである。

 ……地形を変えられたり、砦を一刀両断されたり。


 うっ、トラウマが……。

 ラモンは頭を抱える。


「聖剣……?」

「聖剣よ。失礼ね」


 ナイアドの独り言に、アオイが冷めた目を向ける。

 悲鳴を上げて胸ポケットに入り込む。


「止めろぉ! 俺が睨まれているみたいになってしまっているだろ!」

「さて、また攻撃されたら鬱陶しいし」


 幸い、アオイはすぐに顔をそらした。

 彼女が見るのは、いまだに動揺を隠しきれていない教皇国軍。


 とくに、魔法を放ったルードリッヒの動揺が大きいようだ。

 そして、アオイの前で硬直するということは、すなわち死を意味する。


 ラモンたち魔王軍が絶対にしてはいけないこととしていた、致命的な隙だった。


「さっさと終わらせましょう」


 アオイの恐ろしいところ。

 それは、あの天変地異さえ想起させる強大な攻撃を、大して時間をとることなく、連発できることである。


 そう、すでに次弾の装填は完了していた。


「はい」


 おざなりな言葉。

 しかし、聖剣から放たれた斬撃は、反比例してすさまじい威力だ。


 巨大な光の奔流は瞬く間に遠く離れた教皇国軍にまで迫る。

 ルードリッヒは慌てて対応しようとするが、もう遅い。


 そして、教皇国大魔導でも持て余すような攻撃を、一般兵たちがどうにかできるはずもない。

 彼らはなすすべなく、何もすることはできず、光に飲まれたのであった。


 後に残るのは、死屍累々。

 村人たちも、いきなり巨大な太陽に焼き殺されそうになったと思えば、それが消し飛ばされ、気が付けば軍隊が再起不能になっているというとんでもない経験をしていた。


「はい、終わったわよ」


 涼しい顔をして言うアオイ。

 生き返ったばかりとは思えない。


 そして、洗脳されていない彼女は、ここまで強いのか。

 ラモンは頬を引きつらせた。


 これ、完全に尻に敷かれるパターンだ、と。


「……あなた、あれと戦ってよく勝てましたわね」

「……色々と思い出して、今更ビビってきた」




過去作『偽・聖剣物語』のコミカライズ最新話が公開されました!

是非下記からご覧ください。

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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


本作のコミカライズです!
書影はこちら
挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
コミカライズ7巻まで発売中!
挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)
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