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第94話 空気が読めない妖精

 










「人が住まなくなった家の劣化は早いって言うしね。まあ、想定内よ」


 アオイは淡々と言った。

 廃墟らしい廃墟という風貌ではないが、人が住んでいないだろうと推察できる程度に朽ちていた。


 俺と彼女が暮らしていたのはそれほど大きな家ではない。

 二人でも自然と身体が近くなってしまうような、そんなこじんまりとした家だった。


「ちょっと中を見てみましょう」

「そうだな」


 外から見ているだけだと味気ない。

 昔なら危険だから入らなかったが、俺もアオイも身体能力は比べものにならないくらい成長している。


 たとえ、崩れても平気だ。


「ふむ、では妾たちはここで待っているとしようかの」


 姫さんは俺たちに配慮して、そんなことを言ってくれる。

 自由気ままな彼女だが、割と気遣いできる人なのだ。


「は? どうしてですか?」

「え? どうしてです?」

「ん? どうしてですの?」

「こやつら……」


 頭を抱える姫さんに苦笑いしつつ、俺とアオイは家の中へと入って行った。

 多少埃っぽくなっているが、あの当時とほとんど変わらない姿で、まだ残っていた。


 まるで、俺たちが戻ってくるのを待ってくれていたかのように。


「天井に穴とかは開いていないわね」

「そうみたいだな。というか……」

「手入れ、されているみたいね」


 天井に穴もなければ、壁にもない。

 それどころか、手入れされていた形跡すら見受けられた。


 確かに、一切手を付けられていなかったら、千年も時間が流れたら壊れているだろう。

 最近はされていないみたいだが、少なくとも俺たちがこの家を後にしてからも、手入れをしてくれた人がいるらしい。


 パッと思い浮かぶのは、当時の村の人たち。

 アオイを助けられず、最前線に向かう俺も止められなかった人たち。


 恨みも怒りも抱いていないが、彼らがそのことに罪悪感を抱いて、家の手入れをしてくれていたのだとしたら……。


「どういう理由かは知らないけど、ありがたいことだわ。ほら、いつもみたいに座りなさいよ」

「ああ」


 アオイに促され、ソファーに座る。

 ここも埃っぽいが……まあ、許容範囲内だ。


 俺は当時の村の人たちがしてくれたと思っているが、それが確実かもわからない。

 アオイのように気にしないで、ありがたがるのが正解か。


 そんなことを考えていると、アオイが横にぽすっとお尻を下ろす。

 ……このソファー、小さいんだよな。


 二人で座るのは難しい。

 だから、よくこうして引っ付いて座ったものだ。


 それぞれ、ここに座って好きなことをしていたな。


「……俺たちからしても久しぶりな感じがするな」

「ええ」

「実際には千年ぶりだもんな」

「そうね。もう二度と、ここに戻ってこられるとは思っていなかったから」


 肩にアオイの頭が乗る。

 これも、いつものことだった。


 そのまま寝ていたこともあったくらいだ。


「あなたが頑張ったおかげよ」


 じっと大きな目で俺を見上げてくるアオイ。

 俺が頑張った、か。


 言われたことなかったな、そんなこと。


「……そうかな。俺だけだったらどうしようもなかった」

「誰の力を借りようと、私を取り戻してくれたのはあなたよ」

「……もっと言えば、あの時アオイが俺を殺すことを躊躇してくれたから、今があるんだよな」


 思い出されるのは、アオイと俺が引き離されて、それから初めて再会した時。

 ダーインスレイヴを持っておらず、聖勇者として覚醒していた彼女が本気で殺しにかかってきていたら、俺はとっくに死んでいた。


【赤鬼】なんてすごい二つ名で呼ばれることもなかったから、こうして生き返らせることもなかっただろう。

 すると、冷たい目で見上げられる。


「浮気するような男だと分かっていたら、殺していたわ」

「えぇ……」


 うわ、浮気?

 別におかしなことは何もしていないし……。


「今、生き返ったことも不思議よね。あなたは敵対していた天使に、私は操られていたゴルゴールに。どっちも嫌いな奴から呼び戻されて」


 確かにそうだ。

 不倶戴天の仇と言っていい存在から、生き返らせてもらえるとは。


 望んでいなかったこと、しかも相手もそれぞれ思惑があったとはいえ、不思議なことだ。


「最後の最後に報いてくれたと思えばなんとか……」

「それでも、ゴルゴールはいつか処すわ」


 アオイのゴルゴールに対する殺意はすさまじい。

 俺も嫌いだから、諫めるつもりは毛頭ないが。


 アオイはさらに俺に体重をかけてくる。

 軽いから何とも思わないが、この温かい人肌が久しぶりで、俺も安心する。


「こうしてゆっくり生きて行けたらよかったのにね」

「……望んでいなかったとはいえ、結果的に二人とも生き返ったんだ。これからその生活を取り戻すっていうのは、ダメかな?」

「……別に、悪くないんじゃない?」


 見つめ合って、クスクスと笑う。

 穏やかで、退屈ではない時間。


 ずっとこのまま時間が流れていけばいいのに、とさえ思っていると……。


「イチャイチャしている場合じゃありませんわー!」

「ナイアド?」


 ぴゅーっと飛んできたのはナイアドである。

 俺の顔面にへばりつき、がなり立てる。


 い、息……息ができない……!


「……空気が読めない妖精はいらないかしら」

「ぴぃっ!? ち、違いますわ! 邪魔をしようとしたんじゃなくて!」


 わたわたと慌てるナイアド。

 そんな時、姫さんもやってくる。


「すまんすまん。さすがの妾も止めることができんくてな」

「姫さん、何かあったのか?」


 申し訳なさそうに、姫さんは苦笑いして言った。


「教皇国軍のお出ましじゃ」




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