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第93話 故郷

 










「聖勇者としての力を持ちつつ、しかも洗脳状態は完全に解けておると。なんじゃ、その強くてニューゲームは」

「姫さんが言っていることはいまいちよく分からないけど、確かに凄いご都合主義だな」


 姫さんは呆れたようにアオイを見る。

 確かに、今のアオイはハイパーアオイちゃんだ。


 聖勇者の強大な力を持ちつつ、意識もしっかりとしている。

 ……いや、そもそも洗脳されている状態というのがおかしいんだけれども。


「よくよく考えたら、私が聖勇者の力を持っていなかったらゴルゴールとしては生き返らせる意味がないから、保持しているというのは理解できるわ。あいつにとって予想外だったのは、洗脳が解けていたことでしょうね」


 聖勇者として覚醒している状態のアオイを生き返らせれば、その時洗脳状態だったこともあり、今回もそうなって戻ってくると思ったのだろう。

 確かに、それはありえない話ではないから、ゴルゴールの考えが誤っていたとは言わない。


 ただ、甘いだけだ。


「洗脳も、私が聖勇者の膨大な力を持て余していた隙にされたことだったから、今更かかることもないわね」


 覚醒状態のアオイに精神的な攻撃を仕掛けても、おそらく無力化されるだろう。

 聖勇者は、それほど強大な力を持っている。


 ……あれ? ゴルゴール、詰んでないか?


「……なるほど、それは理解できました。理解できないのは、今のあなたです。ラモンにべったりしすぎではありませんか?」


 そう言って、シルフィはジトッと俺を……というより、背中にへばりついているアオイを見た。

 かつて、呪いで身体を動かせなくなっていた姫さんにしていたように、俺は彼女をおんぶしていた。


 なんでこんなことになったんだろうなあ……。

 柔らかいから反応に困るんだが。


「幼馴染だから、仕方ないわよ」

「理由になっていませんが」

「本来あったはずの二人の時間を、取り戻したいってラモンが言うから仕方ないわ」


 え? 何それ初耳なんだけど……。


「え? 俺、そんなこと言って……」

「は?」

「なんでもありません」

「弱いですわ。本当に弱いですわ」


 呆れた目を向けてくるナイアド。

 馬鹿やろう、アオイに逆らったらろくでもないことになるんだぞ。


 具体的には、飯がとてつもなく不味くなったり、洗濯ものがものすごく臭くなったり……。


「それで、これからどうするのじゃ? 目的は聖勇者を取り返すことじゃったが、本人の方からこっちに来たぞ」


 姫さんが尋ねてくる。

 事あるごとに、アオイに代わるよう言っているのは聞き流されている。


 俺の背中に何を求めているんだ、君たちは……。

 しかし、目的か。


 俺たちはアオイをゴルゴールから解放することを目的にしていたわけだが、姫さんの言う通り、アオイの方からこっちに来てくれた。

 つまり、ゴルゴールのところに喫緊で向かう理由はなくなったのである。


「うーん……じゃあ、適当に旅でもするか」

「私、一度故郷に戻ってみたいわ」

「ああ、それもいいかもな」


 アオイはともかく、俺は故郷の人たちに隔意はない。

 確かに、彼らはアオイが連れ去られるとき、それを助けようとしなかった。


 しかし、助けようと思っても助けられるものではない。

 彼女を連れて行くのは国軍だし、これが国家の命令なのだとしたら、抗えるはずもない。


 しかも、あれは天使の神託もあった。

 天使を強く信仰する教皇国で、それに歯向かうというのは、文字通り死を意味する。


 俺が最前線に出ると告げた時も、村長は強く引き留めてくれた。

 だから、報復しようとか恨みとかは持っていない。


 声のトーンを聞く限り、アオイもそうみたいだ。


「えええええええええええええええええ!?」


 直後、オフェリアの絶叫が響き渡る。

 うるさい。


「ちょっとちょっと! 本気で言っているですか!? お前らの頭は馬鹿ですか!?」


 へばりついてくるオフェリア。

 柔らかい胸が押し付けられているのだが、うるさすぎてまったくときめかない。


 うん、本当にうるさい。

 アオイも眉をひそめている。


「……なに、このうるさい物体は」

「天使」

「ぶっ殺し対象ですね」

「おっほう。ラモンほどじゃないですが、なかなかいい殺気。僕のおもちゃに相応しいです……!」


 ビクビクと身体を震わせるオフェリア。

 こいつ、本当にいろいろと凄いな。


 聖勇者の殺気を向けられて歓喜する奴が、他にどれほどいるだろうか?

 いたとしても、出会いたくないものだ。


「止めとけ。こいつ、魂のストックを何個も持っているから、殺しても殺しきれない」

「ふーん。私がガチったら殺せそうな気もするけど」

「……ガチは止めていただいてよろしいですか?」


 今度は顔を青ざめさせるオフェリア。

 聖勇者の力を、俺もすべて経験したわけではないから、アオイの底は知れない。


 魂のストックをいくつも持つオフェリアを殺すことができる力があるのだろうか?

 ちなみに、俺……というよりダーインスレイヴもガチれば殺せそうな気がする。


 エンドレス吸魂すればいいだけだろうし。


「というか、さっきの発言はマジですか!? ちょっと十円ハゲができすぎて気にしているミカエルと約束していたじゃないですか!」


 ……あんなイケメンなのに、十円ハゲに悩まされているのか。

 なんでそんな繊細な奴がクソ自己中しかいない天使の頭をやっているんだ。


「でも、その主目的のアオイがここにいるし……」

「ほら、あなたたちを引き裂いたゴルゴールもまだ生きているですよ! ぶっ殺しに行きましょう!」


 めちゃくちゃ扇動してくるオフェリア。

 どれだけ俺たちに殺人をさせたがっているんだ、こいつは。


「いつか殺したいとは思っているけど、あなたに誘導されてやるのは嫌だわ」

「俺も」

「この似た者幼なじみめ……!」


 天使の思惑通りに動いてロクな目にあったことがない。

 できる限り彼らの意に反することをするのが、俺たちにとって幸せになると信じている。


「というか、あなたはどうして二人に突っ込ませようとしているんですか」

「だって、そっちの方が面白いじゃないですか! 教皇国の教皇と敵対するんですよ!? そりゃもうドキドキワクワクの展開がですねぇ……!」


 シルフィの問いかけに、オフェリアは悩ましい肢体をくねくねさせながら答える。

 俺たちをおもちゃにする気満々だな、この馬鹿天使。


 今の発言を聞いて、誰が彼女の言う通りに動こうとするのだろうか。


「私、誰かに指示されて動くのが凄く嫌なの。聖勇者の時のこともあるし」

「ということで、却下で」

「嫌あああああああああああ!!」


 満場一致で決まったことについて、オフェリアは絶望の声を上げるのであった。











 ◆



「暇……と思っていたですけど、割と楽しいですね」


 先日のことを思い出す。

 地面に転がってジタバタと。


 身体中に汚れがつくこともまったくいとわずにダダをこねていたオフェリア。

 彼女はけろっとして俺たちの後ろをついてきていた。


 今はもぎ取った果実をかじり、ご満悦である。

 何だこいつ……。


「コロッと言うことを変えていますわ……」

「天使に一貫性を求めるほうが間違っているぞ」


 ナイアドも呆れた目だ。

 本当、天使って自分勝手で気ままな連中だ。


 オフェリアはその中でもトップクラスなのだろうな。


「いつになったらお前様の故郷に着くのじゃ?」

「そろそろだと思うけど……」


 姫さんに尋ねられる。

 すでに、俺たちは教皇国にいる。


 もともと、アオイの元へと向かうために教皇国に向かっていたので、そんなに時間はかからなかった。

 故郷を離れて久しいし、ずっと最前線にいたから過去の記憶もだいぶ摩耗してしまっている。


 しかし、村が移動していなければ、おそらくこの辺りだろう。

 そう思いながら歩いていると……。


「ついたわよ」


 先頭を歩いていたアオイが止まった。

 俺の背中にへばりついていた彼女だが、それはすぐに終わった。


 彼女なりの、今という時間を実感するためのものだったのだろう。

 本来であれば、こうして二人で話をしていることもあり得ないし。


 俺たちが止まったのは、少し丘のようになっている高所。

 そこから眼下には、小さな村が広がっていた。


 人の姿もある。

 廃村にはなっていなかったようだ。


「おぉ、ここが二人の故郷ですのね……」

「……あんまり変わってないんだな」

「そうみたいね」


 村の配置もほとんど変わっていない。

 よそ者が流入してくることもないし、流出することもあまりなかったのだろう。


 それはそれで閉鎖的になりそうでダメだと思うが……まあ、村の運営は俺が気にするところではないだろう。


「もう知り合いは誰も生きていないだろうし、挨拶とかはいいでしょう」

「仮に生きていて挨拶に行ったとしても、相手も戸惑うだろうな」


 俺とアオイは、死んでからすぐに蘇った意識である。

 しかし、実際には千年が経過している。


 アイリスのように卓越した魔力を持っていれば話は別だが、人間は普通死ぬ。

 故郷の人たちは普通の人間だったから、知り合いは全員寿命などで亡くなっているだろう。


 それに、彼らもアオイに対して後ろめたさはあったはずだ。

 仮に生きていたとしても、そんな彼女が目の前に現れたら困るだろう。


 俺も、彼らの制止を振り切って最前線に突っ込んだし。

 ……というか、人類史上最悪の裏切り者になっているし。


「私たちの家に行ってみましょう」

「ああ」


 あまり騒ぎにならないうちに、サッと拝見させてもらおう。

 俺たちは村の中を歩く。


 やはり、あまり人が来ないからそれなりに目立っているようだが、俺たちを見て騒ぐ者は誰もいなかった。

 知っている者がいない証拠だ。


 オフェリアは天使の翼が目立ちそうなものだが、収納していた。

 じゃあ、最初からしとけ。


 そんなことを思いながら歩き……俺たちが住んでいた家に、たどり着いた。


「……結構ボロくなったな」




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