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【コミカライズ】人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された  作者: 溝上 良
第4章 構ってちゃん天使編

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第77話 魂

 










 オフェリアは空中に投影された大きな画面を見ていた。

 そこには、第四次人魔大戦のリアルタイムの映像が映し出されている。


 ここには、彼女だけではなく、多くの天使が集まっていた。

 その目的は、ラモン・マークナイト。


 人類最悪の裏切り者にして、天使と正面から激突し、多くの天使を殺害した人間だ。

 彼が率いるごく少数の魔王軍が、大規模な人類軍と激突している。


 のちに言う、ヘルヘイムの戦いである。

 人類圧倒的優位の立場で勃発したこの戦い。


 一日も待たずして人類が勝利すると、多くの天使たちが見込んでいた。

 しかし、戦いは数日と続き、人類も甚大な被害を受けていた。


 魔王軍はほぼ全滅ではあるが、その数十倍、数百倍の死傷者を人類軍は発生させられていた。

 だが、その戦いももう終わる。


 魔王軍最強の戦術指揮官、【赤鬼】ラモン。

 人類軍最強の戦士、【鏖殺の聖勇者】アオイ。


 その両者が直接激突し……倒れた。


「あー……死んじゃった……」


 その光景を見ていたオフェリアは、そう呟いた。

 周りで聞いている者は誰もいなかったが、仮に聞いていた者がいたとしても、そこにどのような感情が込められていたかは、誰もわからなかっただろう。


 それを知るのは、オフェリアだけだ。


「よし! あの悪魔が死んだぞ!」

「天使に逆らった愚かな人間が、ようやく! 聖勇者との相討ちというのはもったいないが……」

「なに、【赤鬼】が死んだ今、魔王軍は烏合の衆に過ぎない。すぐに人間どもが勝利を収めるさ」

「なら、さっさと進軍させないとな。神託の準備を」


 一方で、天使たちの多くは喝采を上げていた。

 それもそうだろう。


 怨敵と言っても過言ではない男が死んだのだ。

 そもそも、天使の多くからそのように思われる存在はラモンが初めてである。


 自分たちの共通の敵が死んで、彼らは大喜びだ。


「生きていてほしかったですねぇ……」

「おい、オフェリア。聞かれないようにしろよ。今の天使の反応を見たらわかるだろうが、【赤鬼】が死んでよかった、って思っている連中しかいないんだからな」


 比較的仲の良い天使が忠告してくる。

 だが、それは余計なお世話だ。


 オフェリアは鼻で笑う。


「……気を遣って自分を殺すくらいなら、好きにするのが天使ですよ」

「本当、天使らしい天使だよ、お前」


 苦笑いする天使。

 他の天使たちの議論が続く。


「とにかく、あの場所に人間を向かわせて、死体を回収しないとな。魔王軍に回収されたら、聖遺物にされかねない」

「魔族でもあいつは嫌われていたらしいから、問題ないだろう?」

「慕う連中は少ないが、その分その忠誠心は高い。いずれにせよ、奴らの利益になることは避けるべきだろう」


 大きな影響力を持っていた者は、死後もその影響力を衰えさせない者がいる。

 ラモンはまさしくその一人だと、天使たちは見込んでいた。


 あまりにも戦果が大きすぎる。

 崇め奉られ、神格化されかねないほどに。


 それはマズイ。

 感情的にも、自分たちに歯向かった人間が敬意をこめて奉られるのは、我慢できない。


「……怒るなよ?」

「別に怒らないですよー。結局、ラモンは負けたわけです。負けた奴が悪い。世の中勝者が決めるものなんですから、敗者はどうなろうと文句は言えないですよ」


 恐る恐る天使がオフェリアを見る。

 しかし、彼女はラモンのためを思って怒る、なんて殊勝で可愛らしいことをするつもりは毛頭なかった。


 なぜなら、彼は負けたのだ。

 敗者に口なし。


 何を言われても、何をされても、文句を言うことはできないのだ。


「……まあ、本当に負けたのか、怪しいところですが」


 勝敗は誰が決めるものだろうか?

 周りが判断することも多い。


 現に、今オフェリアはラモンが負けたと判断した。

 他の天使たちもそうだ。


 彼が死んだことにより、もはや魔王軍は体を為さなくなり、近いうちの人類に完全敗北することだろう。

 これを敗北と言わずしてなんと言う?


 だが、ラモンが命を落とした時。

 彼は、心底満足そうに、安堵したように笑顔を浮かべて死んでいた。


 つまり、彼の目的は果たされたのだ。

 彼にとって、それは勝利ではないのか?


 抗って、人類を裏切って、天使にたてついて、ラモンは勝利したのではないか?

 そう思ってしまった。


「じゃあ、あいつの死体をズタズタに引き裂いてやろうぜ。あいつを慕っているバカな奴を、絶望させて……ぶっ!?」


 オフェリアに視線が集中する。

 ニマニマと笑っていた天使が吹っ飛ばされた。


 その原因は、誰の目から見ても明らかだったからだ。


「……オフェリア? 何のつもりだ?」


 恐る恐る問いかけられると、オフェリアはニッコリと笑った。


「うーん、それは止めた方がいいですよ。僕たちの気は済むかもしれないですが、むしろラモン信奉者たちを怒らせるだけです。今、僕たちもラモンとの戦いで疲弊しているですよね? さらに敵を増やすことなんて愚策中の愚策ですよ。能無ししか考えないことです。さっさと死ね」

「漏れているぞ、本音が!」


 あくまで天使全体のことを考えていますよー。

 前半はそう伝えていたが、後半からイライラが我慢できずに露呈してしまっていた。


「……とはいえ、オフェリアの言うことも一理あるな。すでに奴は死んだ。魂の抜けた肉体を傷つけたところで、こちらにメリットはない」

「じゃあ、こっちはやられっぱなしか? 【赤鬼】と天使の戦争は、人類には知られていないが、魔族の一部では知られている。それが露見すれば、我らに対する求心力が低下する恐れもあるぞ」


 オフェリアの言うことに納得する天使たち。

 一方で、ラモンに煮え湯を味わわせなければ我慢できない天使たち。


 その両者が存在していた。


「……戦後処理の時だ。その時に、【赤鬼】の存在を抹消させる」

「どういうことだ?」

「記録に一切残さないようにするんだ。その男が存在しなかったようにな」

「だが、【赤鬼】のことを知る今の人間はどうだ? 確かに、記録に残らなければ世代交代をするにつれて消えていくだろうが……」

「今でも、我らと奴の間の争いを知る人間はおらん。仮にいたとしても、人間はすぐ死ぬ。記憶はいずれ消えていく。魔族も人類より長命とはいえ、いずれ死ぬ。加えて、魔族は敗戦した。そんな連中が我らを貶めるような発言をしても、真実とは人間は思うまい」


 最も避けなければいけないことは、天使とラモンが激突し、天使が敗北したという事実だ。

 それは、記録にも記憶にも残すわけにはいかない。


 記録にさえ残さなければ、いずれ記憶はすたれていく。

 敗戦した魔族の言うことを、人間はまともに受け取るはずもない。


 ラモンの抹殺は、そうして完成する。


「ともかく、将来にわたって調べれば知られるような存在であってはならない。完全に歴史から抹消する。人類に命令して、魔族側にも徹底させろ」

「魔族の上層部は奴を嫌っていると聞く。案外すんなりいくだろう」


 仮に魔族たちがラモンの存在抹消について激しく抵抗してくれば、難儀していたかもしれない。

 しかし、ラモンは魔族上層部から嫌われており、むしろ嬉々として人類の要求に応じるだろう。


 だが、それだけでは我慢できない者もいた。

 先ほどオフェリアに吹っ飛ばされた天使だ。


「それだけか!? 俺たちは奴に下に見られた……ただの人間に! もっと厳しく苛烈な報復をしなければ……!」

「もう死んだ相手だぞ? 報復なんてできるはずがないだろう」

「存在を抹消されるというのが、最も厳しい報復じゃないか? 俺は嫌だぞ、そんなの」

「俺も」


 生きた証を残せない。

 それは、とても恐ろしいことだ。


 誰にも覚えてもらうことができずに死ぬことは、本当の意味での死だ。

 これほど恐ろしい報復方法はないだろう。


 しかし、男の天使はまだだと首を横に振る。


「それだけじゃねえ。まだ徹底的に痛めつける方法があるだろうが」


 ニヤリと凄惨に笑った。


「魂を捕まえるんだよ」

「それは……禁忌だぞ。いくら天使でも」

「魂の輪廻を止めることは、重罪だぞ」


 ためらう様子を見せる多くの天使たち。

 魂は循環する。


 死ねば、また新たな肉体を手に入れて生きる。

 その流れは誰も阻害することは許されない。


 好き勝手する天使たちですら、それは触れてはいけない禁忌だ。

 それが許されるのは、文字通りすべてを創造した創造主だけである。


 ためらう仲間たちに、男は苛立たし気に怒鳴る。


「俺たちは天使だろうが! そんな禁忌なんてあるわけねえだろ……ぶひゃっ!?」

「お、オフェリア……」


 また男が吹き飛ぶ。

 下手人はオフェリア。


 二度も邪魔され、攻撃された男は、ついに怒りを露わにしてオフェリアを睨みつける。


「テメエ……さっきから何度も俺の邪魔をしやがって……! ぶち殺されてえのか、ああ!?」

「ぶち殺されたいのはお前ですよね? あれは……ラモンはお前なんかが触れていいものじゃねえですよ」


 オフェリアの翼が広がる。

 身体から光があふれる。


 それは、まさに戦闘準備に入った証だった。


「ラモンの魂は僕が貰うです。だから、汚ぇ手で触んじゃねえよ、クズが」


 これも禁忌であるが、平然と言ってのけるオフェリア。

 その内容よりも、天使同士の争いに場は騒然とする。


 超常の存在。

 そのため、多くが寿命で死ぬ。


 だが、同等の存在同士がぶつかり合えば、物理的に命を落とすことも当然ある。

 だから、天使同士がぶつかりそうになれば、両者ともに引くのが暗黙の了解であった。


 それが、今破られそうになっていた。


「ぬわああああ! 天使同士の喧嘩はご法度だぞおお!」

「止めろオフェリアあああ!!」


 激しい天使同士の激突。

 他の天使たちもそれを止めようと、大騒ぎになる。


 その騒ぎのせいで、その間にラモンの死体も魂も消えていたのは、誰も気づかなかったのであった。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


本作のコミカライズです!
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挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
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挿絵(By みてみん)

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