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第75話 何だこいつ……

 










 教皇国大魔導。

 教皇国において、もっともすぐれた魔導士数名に与えられる称号。


 それぞれ特化した魔法を操り、攻撃に特化したものは、戦場を更地にするほどの魔法を行使できると言う。

 現在、魔王軍に捕らえられているカエサルは、その一人。


 レミアの戦いで魔王軍の部隊をいくつも消滅させた、強大な魔導士である。


「本来であれば、さっさと殺されておったじゃろう。とくに、魔力を使い果たした状態で捕まったから、幾分リンチされていての。妾が止めなければ、間違いなく命を落としていたじゃろう」

「まあ、ボコボコにやられたもんな、俺たち」


 カエサルに痛い目にあわされた魔族は非常に多い。

 そんな怨敵が無力な状態でいれば、報復に走る者がいて当然。


 レナーテが介入するまでに、カエサルはそれなりに痛めつけられていた。

 戦場ではよくわかることだ。


 むしろ、レナーテが助けたことが異例である。

 相手の捕虜を丁重に扱うことは、ほとんどない。


「お前様の部隊は、一切被害を受けていなかったじゃろう? お前様のおかげでな」

「逃げていただけさ」


 そう謙遜しているが、ラモンに指揮された魔族が続々とラモン派に入っているのだから、彼の力が示されている。

 ちなみに、彼自身は自分の派閥があるなんてわかっていないらしい。


 内緒にしておいたら面白そうだと、レナーテはそのことについてむっつりと黙り込んでいた。

 そんな会話をしながら、二人は歩いている。


 暗く、湿った冷たい牢獄の中を。


「というわけで、妾はおぬしの命の恩人というわけじゃ。協力してもらえんかの、カエサル」


 一つの牢の前で止まる。

 その中にいるのは、最低限の手当てだけされた男。


 教皇国大魔導の一人、カエサルがいた。


「……魔族の姫が私の恩人ですか。何ともまあ……不思議なことですね」


 弱弱しい声だった。

 魔族のことごとくを消滅させてきたとは思えない。


 だが、その理知的な目の光は、彼が只者ではないことを示している。


「あなたは……【赤鬼】ですね。人類史上最悪の裏切り者」


 カエサルの目は、ラモンを捉えた。

 特徴的な赤い髪。


 そして、重要人物であるレナーテと行動していることから、すぐに何者かを当てた。

 もちろん、隠すつもりもないので、ラモンも頷く。


「そう言われているみたいだな」

「……不思議です。あなたには、一般的な裏切り者に見られる欲などが見当たらない。どうして裏切ったのか……」

「教皇国の人間には分からないと思う。俺が何を言っても」

「さて、尋問タイムじゃ。妾たちに、これから聞くことを教えてくれ」


 意図していない方向に話が進まないよう、レナーテが修正する。

 天使メルファを殺し、自分では感情に折り合いをつけているつもりのようだが、まだ教皇国が関与していると硬くなる。


 レナーテがそれをうまく抑制していた。


「内容によりますね。まあ、ほとんどお話しすることはないでしょうが。私の趣味くらいなら構いませんよ?」

「【鏖殺の聖勇者】について、聞きたい」

「何を? 弱点? そんなもの、少なくとも私が見た限りではありません。人類のため、教皇国のため、彼女は滅私奉公、忠実に任務をこなし続けています。私が彼女の敵だったとしても、対応策は見つかりません」


 ありきたりな尋問だと、カエサルは笑った。

 敵の弱みを探ろうとするのは、よくあることだ。


 逆に、魔族を捕らえた人類も、同じことをしている。

 だが、仲間を売るつもりは毛頭なかった。


 カエサルは、いわゆる善良な人間である。

 保身のために仲間を売るのは、善とは到底言えない。


 すなわち、カエサルがそうすることはありえなかった。


「俺は彼女の幼なじみだった。突然、神託とやらで連れ去られて、久しぶりに会ったら彼女に殺されかけた」

「あなたが裏切ったからでしょう」

「アオイが俺を殺しに来たのは、操られたからだと思っている」


 聖勇者が操られたという言葉に、カエサルは多少の興味を示す。

 もしそれが本当なら、人類最強の戦力が誰かの恣意的な意思の元に動かされているということ。


 つまり、彼女を操る者がその気になれば、人類が一気に瓦解することだってありうる。


「誰に? 言って置きますが、我々はそんな非人道的なことはしません」

「あんたはそうかもしれないが、他の連中もそうなのか?」

「…………」


 カエサルは言葉を返せない。

 心当たりはある。


 そもそも、世界はきれいごとだけで成り立っていない。

 それに、悪人と呼称されるべきものは、人類だけでなく魔族にも当然いる。


 簡単にいないと答えることはできなかった。


「別に、あんたたちを恨んでいるわけじゃない。もう元凶には死んでもらったしな。だから、俺はあいつを助けたいだけだ」

「話が見えません」

「アオイが連れて行かれた元凶は殺した。でも、アオイはまだ聖勇者として戦い続けている。……誰かが継続して彼女をこき使っている。それが誰か知りたい」


 多くの人間と会って話をしてきたから分かる。

 カエサルは、ラモンが心の底から聖勇者のことを思っているのだと。


 彼女を助けたいと、彼女を使用している者が許せないと。

 それは、カエサルの鉄壁の心を、ほんの少し動かした。


「……私は、あなたのことを信用していません。どのような理由があろうと、現在人類に牙を向けているのは事実ですし、そもそも敵の言葉を信じる理由がありません」


 重々しくラモンも頷く。

 しかし、カエサルの言葉には続きがあった。


「ですが、聖勇者が突然連れられてきたことは事実です。どこの人間かも教えられることはなく、厳しい訓練に従事し、最前線へ。……仮にあなたの言っていることが本当だとしたら、それは……」


 首を横に振るカエサル。

 彼の良識では、到底受け入れることはできない。


 だが、人類のため、天使のため、そして自分のために。

 このような非人道的なことをして、しかもすることができる能力を持つ者を、彼は一人だけ知っていた。


「聖勇者は仲間の意見も聞きません。力がある者は気難しい者が多いから、そうだとは思っていますが。しかし、彼女が唯一命令を聞く者がいます」

「誰だ?」


 ラモンの言葉に、カエサルは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて言った。


「私と同じく教皇大魔導の一人、ゴルゴールです。性格に難のある、ね」











 ◆



 今までの三人との会話を振り返って、偽者をあぶりださなければならないわけだが……。

 マズイ。全員本物に見える。


 偽者、本当に混じっているのか?

 俺はそう思ってチラリとオフェリアを見る。


「僕は疑心暗鬼になってギスギスしているラモンたちを見たかったんですが……。どうしてイチャイチャしているんですかねぇ……?」


 訳の分からないことを呟きながら怒っていた。

 何だこいつ……。




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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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