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第74話 尋問

 










「わたくしはセーフ。シルフィもセーフ。となると……」


 チラリとナイアドが目を向ける先には、当然姫さんが。

 しかし、まだ姫さんについては本物かどうかの確認すらしていないのだから、その疑いは早すぎる。


 俺はそうなだめようとしたのだが……。


「偽者が判明しましたね。市中引き回しの上、打ち首獄門にしましょう」

「妾は大罪人か? 何をしたんじゃ、妾?」


 シルフィの即断即決。

 姫さんをボコボコにしたいだけのような気がする。


 姫さんも言っているが、どのような罪を犯せばそれほどの刑罰が科せられるのだろうか。

 執行人はシルフィだろう。


 嬉々としてやっていそうだ。


「待て待て。妾も本物じゃ。確かめもせずに決めつけんでくれ」

「ラモン、聞く耳を持つ必要はありません。たとえ本物でも、何ら問題ありません」

「問題だらけなんじゃよなあ……」


 本物でも姫さんなら殺すと言いかねないシルフィ。

 というか、もう言っていた。


 魔族の姫に向かって、これほど強く当たることができるのは、シルフィくらいだろう。

 俺は無理。


 怖いもん。


「姫さんとのことで、本物にしか分からないことかあ……」

「うむ、あるじゃろ? あるじゃろ?」


 悩んでいると、期待するように俺を見てくる姫さん。

 しかし、その期待には応えられそうにない。


「……姫さんは俺にも隠しているようなことが多すぎて、逆に分からん」

「妾、ミステリアスな女じゃから!」

「人にさらせないようなことしかしていない後ろめたい女なんですね」

「うーむ、言葉で刺されまくっておるのう……」


 何を言ってもシルフィに刺されている。

 ナイアドとシルフィについては、彼女たちが何かを隠そうとするタイプではないので、それで困った。


 ナイアドに関してはまだ秘密があったのだが、シルフィは皆無である。

 一方で、姫さんはその逆。


 ほとんどの情報を発しない。

 秘密主義ともとれるその姿勢のおかげで、二人きりの秘密というのもなかなかない。


 俺が知らないから。


「ほれ、お前様。言ってやれ。妾たちにとって、二人きりのとても大切な思い出があるじゃろう?」


 しかし、姫さんはその内容に目途をつけているようだ。

 俺がそれを話すと、信じている。


 キラキラとした目を向けられていて悪いのだが、さっぱり思いつかない。


「…………」

「ラモンは覚えていないようですが?」

「お前様……嘘じゃろ……?」

「い、いや、悪いけど言葉にしてくれないと俺は分からん」


 愕然と見てくる姫さんに申し訳なく思いつつも、察しろと言われても無理だという思いもある。

 どれほど仲が良くてもあくまでも他人なわけで、言葉で意思疎通しなければわからん。


 俺、察しが悪いし。

 そんな俺に業を煮やしたのか、姫さんは腕を振って大声を上げた。


「妾と一緒に、二人きりで旅行に行ったじゃろうが!」

「旅行!?」

「詳しく聞かせていただきましょうか?」


 姫さんの言葉に、ナイアドとシルフィが反応する。

 シルフィは怖い。


 光のない目で俺を見てくる。

 俺が何をしたと……。


「りょ、旅行……ああ、あれのこと? あれって、旅行って言うのか?」


 ようやく姫さんの言っていることに思い立った俺。

 だが、ナイアドやシルフィが頭の中に浮かばせているような、文字通りの旅行ではなかったと記憶しているのだが。


「二人きりで連れたって、観光しつつ見聞を深めたじゃろう? 旅行じゃ」

「詳しく」


 シルフィの目にどす黒さが生まれる。

 ひぇ……。


 どうしてわざわざ煽るようなことを言うのか、姫さんは。

 とにかく、本物かどうか質問してみることにする。


「……姫さん、俺と旅行に行ったのはいつだ?」

「第四次人魔大戦中。レミアの戦いの後かの」

「俺たちはどこに行った?」

「レミアから後方に数十キロ離れた前線の街じゃ」

「そこで、俺たちは何をした?」

「尋問」


 姫さんからは、逡巡する時間もなく的確な答えが返ってきた。

 これに対し、俺は重々しく頷き……。


「本物だ」

「旅行で何をしていますの、あなたたちは……」


 ……本当だよな。











 ◆



「ほれ、お前様。こっち来い。お前様の欲しがるものを与えてやろう」


 レミアの戦いの後、レナーテはラモンにそう声をかけた。

 あの大規模な戦闘から、数か月が経っていた。


 それだけの期間を空けなければならないほど、ラモンも大きな傷を負っていた。

 両軍数十万の軍勢が激突し、数か月にも及ぶ戦闘は、甚大な被害をもたらした。


 レミアの戦いで、魔族の劣勢は確定的なものとなった。

 人類も大きなダメージを負ったため、まだ大規模な侵攻はない。


 しかし、数に勝る人類はいずれ行動を起こし、レミアから数十キロ離れたこの街も、人類に飲まれることになるだろう。

 その前に、ラモンに伝えなければならないことがあった。


 レナーテは薄い衣装越しに大きな胸を張りながら、鷹揚に話しかけた。


「……なに、その話し方?」

「魔王っぽいじゃろ?」


 いくつか身体に包帯を巻いたラモンが笑う。

 意図的に道化を演じたのだから、こうして笑ってもらえて何よりである。


「俺、魔王と会ったことないから分からないわ」

「小説や絵本でもこんな感じじゃろ? 人間のものだと、だいたい魔王を最後にぶっ殺してハッピーエンドじゃが」

「俺はあんまり本とか読まなかったしなあ……。幼馴染の方が、よく読んでいたよ」


 昔を懐かしむラモン。

 彼女を連れ去った天使は仕留めたものの、いまだ助け出すことはできていない。


 今のラモンにあるのは、それだけだ。

 レナーテはそのことを認識しているし……その意識がアオイにしか向けられていないことが、残念だった。


「その幼馴染のことじゃよ」


 レナーテの言葉を聞いて、ラモンは劇的な反応を見せることはなかった。

 驚くほどに落ち着いている。


 いや、頭の中では、自分がどうすべきなのかを考えているに違いない。

 レナーテはそう思った。


「……そっか。ありがとな、姫さん。俺のためにいろいろと動いてくれて」

「何を言う。お前様が妾を存分に楽しませてくれたお礼じゃ。あの天使共の唖然とした顔……たまらんわ! 千年は枕を高くして眠ることができる!」


 カラカラと笑う。


「じゃから、これは正統な報酬と思えばよい。と言っても、大したことではない。お前様の進むべき方向が見えるというだけじゃろう」


 首を傾げるラモンに、レナーテは言う。


「尋問じゃ」

「尋問……? 相手は?」


 こういう仕事を任されたことはなかったので、ラモンはなおさらよく分からない。

 しかし、レナーテの次の言葉に、表情を変えた。


「教皇国大魔導の一人、カエサルじゃ」




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