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第72話 本物だな

 










「ということで、僕を殺しても無駄だって言うことです。ゲームを楽しんでください。僕は、ただラモンと遊びたいだけなんです」


 ニコニコと笑うオフェリア。

 正直、邪悪さしか感じられない。


 彼女は純粋に俺と遊びたいと思っているようだが、遊び方が問題しかない。

 友達いないだろ、こいつ。


「俺は遊びたくない」

「残念。僕に目をつけられたら、おしまいなんです」

「天災と同じですの?」


 天災はいちいち目をつけて飛び込んでこないから、こっちの方がよっぽど理不尽だ。

 どうして俺はオフェリアに目をつけられてしまったのだろうか。


 心が持たない……。

 しかし、どうするべきか。


 やはり、オフェリアの……天使の思惑通りに動くのは、どうにも嫌だ。


「……ストックがなくなるまで殺し続けるとか」

「ちょ、ちょっと。さすがの僕でもそれはやばいですよ。今、ガチで震えましたです」


 ボソリと吐いた言葉を聞いて、ブルリと震えるオフェリア。

 どうだろうか?


 俺自身の力は大したことはないが、愛剣や仲間の力を借りてストックがなくなるまで殺し続けることはできるだろうか?

 なんだかできる気がしてくる。


「震えたというのは恐怖で?」

「興奮でっ!」


 何だこいつ……。

 胸を張って言う彼女に、呆れた目しか送れない。


 なんで自分の殺害計画を聞いて興奮できるのか。

 俺も魔王軍にいたころは何度も自分の暗殺計画を聞いたことがあるが、ただただ気が滅入っただけだった。


 ……なんで味方に殺されかけていたんだろう、俺。


「まあまあ、こやつの思惑に乗ってやるのもいいのではないか、お前様よ」

「姫さん?」


 あの姫さんが天使の思惑に乗ることに、少なくない衝撃を受ける。

 俺以上に反発すると思っていたのに……。


「そうですね。ぶっちゃけ、ラモン以外が偽者とすり替わっていても問題ありません」

「相変わらず優先劣後がはっきりしていますわ、この女」


 真顔で言うシルフィに、もはやナイアドは呆れた目しか向けない。

 かなりひどいことを言っていると思うんだけど、こういう性格だと分かっているんだろうな。


「……じゃあ、偽者探しをするか」


 ニマニマと笑っているオフェリアがうっとうしくて仕方ないが。

 殺してもまだストックがあるだろうし。


「と言っても、どうやってやるんだ? 正直、今こうして会話をしているけど、全員本物にしか見えないんだが」


 今まで彼女たちを観察していなかったわけではない。

 だが、どれも違和感を覚えるところはなく、俺の知っている仲間たちだった。


 本当に偽者がここに混じっているのか?

 だとしたら、それを演じている偽者も凄いと思う。


「ラモン、あの女が偽者っぽいです」

「おっと。自然と妾を殺しにかかってきたぞ、この女」


 シルフィは助言してくれるが、どうにも私情が混じりまくっている気がする。

 姫さんは苦笑いしつつ、人差し指を立てて話し始める。


「まず、可能性を潰しておくのじゃ。一番この中で偽者でないと断定できるのが、ラモンじゃ」

「え? それでいいのか?」


 自分自身では偽者ではないと分かっていても、彼女たちからすれば、俺も偽者である可能性が捨てきれないはずだ。

 俺だけ除外されるのは、不公平な気もするが。


「あの女はラモンと遊びたいと発言して、ここにいます。だというのに、ラモンを偽者にする理由がありませんからね」

「つまり、妾かウンディーネ、妖精の三人が偽者となる」


 シルフィと姫さんの言葉に、なるほどと納得する。

 オフェリアの目的は俺と遊ぶこと。


 俺を偽者にすれば、遊べなくなる。

 確かにその通りだ。


「彼女は一人が偽者とは言っていませんわ。つまり、複数人偽者が混じっている可能性がありますわ」

「その可能性は低いだろうけど、一応考えていた方がいいだろうな」

「低いんですの?」


 ナイアドの疑問に頷く。


「一人だけならともかく、複数人を取り変えようとしていれば、さすがに誰かが気づく。それに……」


 チラリとシルフィと姫さんを見る。


「この二人が、大人しく取り換えられるはずがない。大暴れしているはずだ」


 そもそも、この中から一人を取り換えたということだけでも驚きなのに、それが複数は無理だろう。

 オフェリアの力がそれほど強いということもであるだろうが……可能性は低いと思う。


「確かに。……だとすると、一番戦闘能力がないわたくしが怪しいんですの!?」

「誘拐しやすそうですものね」

「俺と初めて会った時も誘拐されかけていたしな」

「わたくしは本物ですわー!」


 シルフィと俺の言葉に大騒ぎするナイアド。

 自分で一番怪しいという偽者もいない気がする。


 ……いや、あえてそう思わせるために言っているだけかも?

 ダメだ。


 こういうことは、疑い出したらキリがない。


「今決めるのは早計じゃろう。一度、全員を確認すればよい」

「確認って言ったって、どうやって……」

「まず、本物であることが確実のお前様が仕切れ。妾たちの誰かが動かせば、誘導するかもしれんしな」

「分かった」


 姫さんに対して頷く。

 確かに、偽者がゲーム失格させるために変な方向に誘導する可能性もある。


 一番怪しくない俺が話を動かすのが正解だろう。


「で、確かめる方法じゃが……本物にしか分からないことを、お前様と話しするというのはどうじゃ?」

「話か……」











 ◆



「でも、本物にしか分からない会話って、難しくありませんの?」


 ナイアドに言われて、俺も頷く。


「そうだなあ。ナイアドと出会った時の話も、別に隠しているわけじゃないしなあ」

「そうですわね。あの時は人間に狩られそうになって……あなたに会えなかったら、わたくしはどうなっていたんでしょうね」


 しみじみと語るナイアド。

 なんだか彼女ならうまくやっていそうな気もするけど。


「ラモンが助けたんですよね」

「うむ、妖精が自慢げに話していたからの」

「……ナイアドのせいで広まっているんじゃないか」

「ぴゅふー」


 ジト目を向ければ、へたくそな口笛を吹くナイアド。

 いや、そもそも隠さなければならないものでもないのだから、彼女を責めるのはお門違いだろう。


 こんなクソみたいなゲームを押し付けてきたオフェリアが全部悪い。

 しかし、だとしたら、俺はシルフィと姫さんが知らないナイアドの秘密を彼女と話さなければならない。


 うーむ……とはいえ、俺たちは基本的にいつも一緒にいるから、隠そうとしても隠せないんだよな。

 俺が知っていることで、二人が知らなそうなこと……。


「じゃあ、ナイアドが胸を育てようとマッサージしていることも……」

「ぬあああああああああああああ!!」


 べたりと全身で顔面に張り付かれる。

 ……温かくて柔らかい。


 のだけど、息が……息が……っ!


「ほほう」

「それは知らなんだ」

「なんで言うんですのおおおおおおおお!?」


 ニヤニヤと笑うシルフィと姫さん。

 顔を真っ赤にして絶叫するナイアドを引っぺがす。


 ……俺ももちろんこういうことは言うべきではないと知っている。

 でも、あけすけに俺に全部話していたから、ナイアドはそういうことを気にしないと思っていたのだ。


 それに……。


「いや、だってそうしないと本物かどうかわからないし……」

「このクソ天使……! 必ず報いを受けさせてやりますわ……!」


 人殺しの目でオフェリアを睨みつけるナイアド。

 その時は、俺も手を貸そう。


 オフェリアはそんな目を向けられても平然とし、むしろここにいる誰よりも大きな胸部をゆさゆさと揺らす。


「僕、大きいからお前の気持ちが分からないです」

「私もです」

「妾もじゃ」

「ああああああああああああ!!」


 発狂するナイアド。

 ……うん、ここにいる人、全員大きいから。


 アイリスがいれば、ナイアドの味方になってくれていたのだろうが。

 シルフィも姫さんもオフェリアも、彼女からすると敵でしかないのだろう。


 そして、こういう時、男は黙っておくべきだ。

 何を言っても角が立つ。


「というか、お前は小さいのだから、別に胸を大きくする必要なんてないじゃろ?」

「周りがでっかいのばっかだから余計気にしたんですわよ!」

「でも、これくらいじゃ本物かどうかは分からないのでは?」


 シルフィが声をかけてくる。

 確かに、このままでは俺がナイアドの秘密を暴露しただけになる。


 ただ彼女を傷つけただけ。

 それでは意味がない。


「あー、そうだなあ。じゃあ、ナイアドがどういう風にマッサージをしているかを……」

「わたくしは本物ですわ。だから、もしそれ以上言うのであれば、舌をかみ切りますわよ……!」

「……本物だな」


 鬼の形相で睨みつけてくるナイアドに、俺は頷くことしかできなかった。




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