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【コミカライズ】人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された  作者: 溝上 良
第4章 構ってちゃん天使編

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第64話 さみしいじゃないですか

 










「……は?」


 村長から聞こえた言葉は、確かに耳に届いている。

 しかし、言葉の意味を理解できなかった。


 アオイが首都へ?

 二度と戻ってくることがない?


 何を言っているのか、さっぱり分からない。


「どういう、ことですか?」

「……魔族との戦争が激化しているのは知っているだろう? 現在では、教皇国のみならず、他の人類国家も参戦している。だが、それでも魔族の猛攻に押され気味だ。それゆえに、救世主が必要となった」

「救世主?」

「それが、勇者だ。古来より、魔を払う人類の救世主として語り継がれてきた。それを、各国が復活させ、魔族への反撃のシンボルにするとのことだ」


 戦争があることも知っている。

 そして、勇者という存在も。


 しかし、どれもが自分たちからは遠く離れたことだと思っていた。

 戦争も常備兵や志願兵が参戦しており、徴兵されていない。


 農作物を多く接収されることはあっても、それくらいは許容範囲内だった。

 だが……。


「その勇者に、アオイが選ばれた」

「そんな……。彼女はずっと俺と一緒に暮らしてきた。村長も知っているはずです。戦いの知識すらないだろうし、体力もない。過酷な前線に出られるような子じゃない」


 訳が分からない。

 勇者は強い。


 農作業すらサボっているアオイが、どうして選ばれるのか?

 あまりにも弱いだろうし、彼女が戦場に出ても何ら役に立つことはないだろう。


「……神託があったようだ。天使からの神託。それに、アオイが選ばれてしまった」

「神託? 天使? そんなあやふやなことで、アオイを……?」


 愕然とする。

 ラモンの住む教皇国は、天使を信仰している。


 彼もまた、狂信的ではないにせよ、信仰することが常識のここに住んでいるため、お祈りなどはしていた。

 だが、一度も姿を見たことのない天使による言葉で、戦う力すら持たないアオイを勇者にさせられるということは、とてもじゃないが受け入れることはできなかった。


「……ワシたちには、どうすることもできん。逆らったところで、どうなる? 今は戦時中。わがままは許されん。抗えば、村民が殺されかねん。教皇国に、余裕はないからな。それに、救った後はどうなる? ずっとアオイを連れて逃げ惑うのか? 村民すべてにそれを強いるのは、あまりにも下策だ」

「…………」


 村長の悲痛な言葉を受けて、ラモンは何も言わずに踵を返す。

 その鋭い目から、彼が何をしようとしているのか察した村長は、強い声で制止する。


「お前が行ったところで、もはやどうにもならん! アオイは勇者として選ばれた。教皇国のため、人類のために戦う。お前がそれを拒絶しても、ただ無駄死にするだけだ。個人で国家は変えられん!!」

「だからって、何もしないでアオイを見捨てることなんて、できるはずないだろ! 彼女は望んで首都に向かったのか!?」

「そ、それは……」


 敬語を忘れたラモンの激情に、村長は言葉を詰まらせる。

 望んでアオイが首都に向かったのであれば、こんなにも心を痛めることはなかっただろう。


 国の強権によって、無理やり引っ立てられていった彼女。

 最後まで助けを求める目を無視し続けた村長は、ラモンの強い目から顔を背ける。


「だが、お前が一人で首都に向かったところで、何も変わらん。自身のために救世主をなくそうとするのは、非国民として殺されても不思議ではない」


 これは、村長が保身のために言っているわけではない。

 ラモンのことを心から思って言っていることだ。


 それが分かっているからこそ、彼も黙って聞く。


「ワシから言えることは、今ここで感情のままに動くのは止めろということだ。確実に悪い方向にいく。結局アオイも救えず、お前も死ぬだけだ」


 長い沈黙が続く。

 焦れた村長がさらに言葉を続けようとする直前、ラモンが口を開いた。


「……確かに、村長の言う通りです。俺は冷静じゃなかった。ありがとうございます」

「では、アオイのことは……」


 顔を輝かせる村長。

 しかし、ラモンは彼の望む言葉を続けない。


「いえ、俺は兵士になります」

「なに?」

「勇者は救世主。つまり、押されている前線に出されるはずだ。俺が兵士になって、最前線で戦い続けていれば、いつか必ずアオイと会える」


 さっそくとばかりに出て行こうとするラモン。

 衝撃的な言葉に目を見開いていた村長であったが、慌てて呼び止める。


「ま、待て! 魔王軍との戦争が激化しているんだぞ!? 最前線に出て、いつ来るか分からないアオイを待ち続けるつもりか? アオイと再会する前に、確実に死ぬぞ!」


 真にラモンのことを思いやるからこそ、村長は声を張り上げる。

 戦場は地獄だ。


 若いころに出兵したことのある彼だからこそ、それはよくわかっていた。

 若者は、戦場で英雄になろうと期待に胸を膨らませ、夢想する。


 だが、それは愚かな勘違いだ。

 戦場……すなわち最前線は、死と絶望が席巻する地獄である。


 戦闘訓練を受けたわけでもないラモンが最前線に出ても、初陣で命を落とす確率が最も高い。


「お前が選ぶべき選択は、アオイのことを忘れ、この村で幸せに生きていくことだ。お前は働き者で、優しい。いずれはこの村でも重要なポストに座り、嫁を貰って、人生を終える。それでいいではないか?」


 ここで誤った道に進まなければ、ラモンには明るい未来が待っている。

 献身的で働き者の彼は、村では人気者だ。


 周りからの信頼も厚いし、彼の嫁にという声も上がっている。

 彼が、アオイのことさえ忘れられたら。


 ラモンはこの村で安穏で幸福な人生を送ることができるだろう。


「確かに、それも幸せです。俺も、それに惹かれないと言えば嘘になります」

「だったら……!」


 喜色をたたえる村長。

 ラモンも、それが幸福な人生につながると理解している。


 ああ、その選択を選べば、自分はこれから先多くの笑顔を浮かべられることだろう。


「でも、それは俺がアオイと出会っていなかったらの話です。彼女と出会った。彼女と暮らした。彼女と過ごした。だから、俺はもう一度彼女と会って話がしたい。それだけなんです」


 その笑顔は、偽りのものだ。

 アオイを見捨てれば、彼女のことが一生心に残る。


 最期の時、どれほど多くの人に囲まれて幸福そうに見えても、必ず深い後悔をすることだろう。

 それが分かっているからこそ、ラモンは村長の提案を断る。


 村長宅を出る直前、彼は村長に向かって儚い笑みを向けた。


「だって、最後のお別れも言えないのは、さみしいじゃないですか」


 そうして、ラモンは村を出た。

 彼は大々的に募集のかけられていた兵士に応募し、志願兵となったのであった。


 そして、数年後、ラモンは最前線でアオイと再会することになる。




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