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第61話 つまらん連中

 










 ホーリーライトの施設から、俺たちは旅立っていた。

 アイリスから見送られ、また寄るよう何度も強く言いつけられている。


 もともと、あてのない旅をしている俺たち。

 彼女の言う通り、また顔を見せようと思う。


 ……ただ、ホーリーライトっていう集団が少し苦手なので、さっとアイリスと会って、さっと帰ろう。

 俺たちは、今野宿の真っ最中だ。


 少し道から外れた場所で、野営である。

 近くには川もあるので、水浴びなどもできるようになっている。


 乾いた木の枝などを集めて火をともし、近くにいた獲物を取って食べる。

 木々になっている果物なども添えれば、なかなか豪華なものだ。


 今のところ、誰からも苦情が出ていないので、ストレスもあまり溜まっていない。

 野営は結構危険だ。


 野盗や魔獣から襲われ、身ぐるみをはがされて殺されることもあるからだ。

 だが、俺たちにその心配はない。


 人類最悪の裏切り者に、戦闘に特化した特異なウンディーネ。

 実体を持つほどの幻影を駆使する魔族の姫に、マスコット枠の妖精。


 むしろ、俺たちを襲う輩の心配をしてしまうほどだ。

 パチパチと焚火に当たりながら、ボーッとする。


 夜空には満天の星が浮かんでいる。

 こういうの、好きだなあ。


 今までこんなのんびりと野外にいられたことがないから、余計に幸せを実感していた。


「ぐえー、疲れたのじゃあ。お前様、膝枕じゃ。膝枕を所望するぞ」


 そんな俺の膝上にグデーッと乗っかかってくる姫さん。

 おかっぱに切りそろえられた黒髪がくすぐったい。


 衣装も薄いため、柔らかな感触がかなり感じられる。

 かなり凹凸がはっきりした女性だから、こんなにも気軽に密着されると、正直気恥ずかしい。


 膝枕くらいならしてあげられるから、とりあえず胸を押し付けてくるのを止めてもらっていいですか?


「では、私の中へどうぞ。水なので柔らかいですよ」

「嫌じゃ。そのまま窒息死させる気じゃろう」


 そんな俺に助け舟、姫さんに死刑宣告をしたシルフィ。

 ポケットから飛び出した彼女は、普段の等身大の大きさになっている。


 水で構成された身体。

 サイドテールに結ばれた長い水色の髪が、俺の身体をくすぐる。


 ……シルフィも近くない?

 すぐ俺の隣に座るものだから、正直姫さんと同じだ。


 姫さんよりも大きな胸が時折当たって、ドギマギしてしまう。

 水だからだろうか、とてつもなくやわっこい。


「今、わたくしたちはどこに向かっているんですの?」


 ひらひらと宙を舞うナイアドが言う。

 妖精という小柄な種族なので、凹凸は言うまでもない。


 安心した。

 やっぱりマスコットである。


「そうだなぁ。割と知り合いとも会えたし……」

「まだ残っている知り合いに会いに行きますの?」

「あー……あんまりしたくないな、それ。もう後は基本的に俺の敵ばかりだし」

「どれだけ嫌われていたんですの……」


 人類と魔族両方からかな。

 基本的に世界のほとんどが敵だったと思う。


 だから、知り合いに会いに行ったら、襲われる可能性もあるんだよな。

 まさか、こんなにも好意的だった知り合いと連続で会えるとも思っていなかったから。


 順調すぎて、後々暇になりそう。

 まあ、俺は突然理由もわからず蘇った。


 だから、突然理由もなく死ぬことだってあるだろうし、動けるうちに会いたかった相手に会えたのは悪いことではないだろう。


「それだけじゃあるまい。あのいけ好かない連中からも、お前様は嫌われておったじゃろ」

「まあ、俺も嫌いだから別にいいよ」


 姫さんがからかうように見上げてくるので、俺は憮然とした表情になる。

 いけ好かない連中という言葉で、誰を指しているか分かってしまったからである。


「あなたがそこまではっきり言うのは珍しいですわね」

「自分でもそう思うよ。あいつらが嫌いで、許せなくて、魔王軍に入ったという理由もあるし」

「そうなんですの?」


 もちろん、アオイに近づくためというのが一番だ。

 人類軍にいればどうしようもなかったから、敵である魔王軍に入った方が手っ取り早く近づくことができると思った。


 それ以上に、人類軍を支配し、扇動し、操っていたあいつらが嫌で嫌で仕方なかったというのもあるのだ。


「妾が魔王軍にお前様を引き入れたのも、それを見たからじゃ」

「はへー。そのいけ好かない連中を嫌っているから、魔王軍に入れてあげたんですの?」

「もちろんじゃ。よっぽどの理由がなければ、魔王軍に人間を入れるか。バチバチ戦争をしているころじゃぞ。そんな時の人間なんて、スパイ以外に考えられるか。下手なことをされたら、いくら魔族の姫とはいえ、妾の首も危ういわ」


 スパイを引き入れた協力者と言われても不思議ではない。

 姫さんの立場は他の一般兵などと比べれは確固としたものではあったが、さすがに俺がスパイだった時は擁護しきれるものではない。


 外患誘致。

 縛り首にでもされていただろうな。


「そんなリスクを背負ってでも、この人の行く末を見てみたかったんじゃよ。そして、妾はいい選択をした。妾は間違っていなかったのじゃ」


 誇らしげに頷く姫さん。

 理由はどうであれ、俺からすれば姫さんは恩人だ。


 彼女がいなければ魔王軍に入ることもできず、アオイと再会することもできなかっただろうから。


「そうだなあ。俺がまた戻ってきた理由とかも知りたいな」


 知り合いに会いに行けないとなると、今度はそうなる。

 一番の謎だろう。


 俺は自分が蘇られるよう準備をしていたわけではない。

 自然発生的に生じる現象でもない。


 これが時々起きていたら、世界はパニックになっている。

 そう考えると、俺を意図的に蘇らせた奴がいるはずだ。


 なのに、いまだに接触はない。

 何が目的で俺を復活させたのか。


 それを知りたい。


「ああ、確かに死んだと思っていて生き返ったら、不思議で……ぴぃっ!? し、死んだって言ったのはわたくしが悪かったですわぁ!」

「何も言っていないですが」

「目が人殺しの目じゃぞ、おぬし」


 ここからじゃ見られないのだが、シルフィがナイアドを見ている目がやばいらしい。

 ……ちょっと見たいけど、やっぱり見たくない。


 怖い。


「しかし、死者蘇生はまさしく神の所業。神と呼ばれる者が存在するのかは知らんが、常人で行えることではない。しかも、ラモンの死体は見つかっておらんかった。それをいったい誰が……おい、妾を睨むな。死体というワードすらダメなのか」


 姫さんもシルフィ判定アウトだったらしい。

 あの姫さんが顔を青ざめさせているって、よっぽどだ。


「超常の存在がラモンを生き返らせたということですか?」

「超常の存在と言えば、あの連中じゃよな」

「……俺を蘇らせる理由がないだろ。あいつら、俺のことを殺したいくらい憎んでいただろうし」


 姫さんがからかうように俺を見てくるので、また憮然とした表情を浮かべてしまう。

 俺を蘇らせたのがあいつらだとしたら、とても不愉快だ。


 もともと、勝手に復活させられたことは好ましいことではないのだから、なおさらだ。

 しかし、あいつらは俺のことを利用したくもないほど嫌っている。


 俺に手を出すとは、なかなか思えないが……。


「さっきから言っているあの連中って、結局誰ですの? 超常の存在ということは、人間でも魔族でもないんですわよね? そんなの、この世界にいるんですの?」

「うむ。自分たちが絶対上位者だと、魔族を見下すいけ好かない連中がいるのじゃ。快楽主義で、自己中心主義。奴らを好きな魔族などおらんじゃろうなあ。愚かな人間だけじゃ、奴らをありがたがるのは」


 姫さんの言う通り、人間はあいつらをとてもありがたがる。

 神話や伝承に語られる存在そのものだからだろうか。


 俺からすると、まったく理解できないが。

 あいつらを強く信仰する教皇国も、最低だ。


「……なんですの、そのややこしそうな奴は」


 嫌そうな顔を浮かべるナイアドに、姫さんは口を開いた。


「天使。自分たちを天上の存在だと誇示する、つまらん連中じゃ」



第四章開始です!

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