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【コミカライズ】人類裏切ったら幼なじみの勇者にぶっ殺された  作者: 溝上 良
第2章 姫と魔剣編

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第36話 俺じゃない

 










「ひょぇぇ……」


 何とも情けない声が、ラモンの口から飛び出してくる。

 しかし、それも仕方ないだろう。


 自身の局部すれすれに、殺意マシマシの剣が突き刺さったのだから。

 少しでもずれていれば、バッサリである。


 普通に腕や腹部を切られるよりも恐ろしい。

 男にしか分からないだろうが、だからこそリフトも顔を凍り付かせていた。


「……お、怒ってる?」


 剣にそう問いかけるラモン。

 傍から見れば、滑稽としか言いようがない。


 無機物に話しかけているなんて、まともとはいいがたい。

 しかし、ダーインスレイヴは魔剣である。


 通常の武器ではないのだ。


「ひょええ……」


 ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!!


 とてつもなく音を立て始めるダーインスレイヴ。

 自立して動いている。


 そして、かなりお怒りであることも、ラモンにはしっかりと伝わってきていた。


「悪い、置いていってしまって」


 柄を握って真摯に謝れば、多少落ち着く。

 それでも、ガチャガチャは止まらないが。


 勝手に死ぬな。勝手に置いていくな。許可なんてしていない。誰が死んでいいと言った。私以外の剣を使ったのは許せない。二度と使うな。私だけを使えばいい。私以上に優れた剣は存在しない。すべての武器の頂点に立つのが私。だから他はいらない。ラモンにとって必要なのは私だけ。勝手に置いていくな。ずっと一緒。


 ダーインスレイヴは意思のある魔剣だ。

 しかし、話すことはできない。


 声帯がないのだから当然だ。

 だが、彼女の伝えたいこと、言いたいことは、しっかりとラモンまで届いていた。


 ……というより、届いていなかったら本当に刺されかねない。

 誰かにラモンを殺される、ラモンに置いて行かれると知れば、せめて自分がラモンを殺すという考え方に至るのがダーインスレイヴだ。


「また、俺と戦ってくれるか?」


 ガチャン! とひときわ強い音が鳴る。

 むしろ、私以外の剣と戦うことを許さない。


 そう強い意志が伝わってきて、ラモンは冷や汗を垂らしながら笑みを浮かべる。


「ということだ。待たせたな、リフト」

「ああ、気にするなよ。……邪魔したら、殺されそうだし」


 リフトも知っている。

 ダーインスレイヴが、かなり嫉妬深くやばい剣であることを。


 たとえ男であろうが、彼女とラモンの逢瀬を邪魔するのであれば、たたり殺されるのである。


「これで、ようやく対等な立場になれたってわけだ。今度こそ叩きのめし、お前を超える!」

「そう簡単にいくかな、リフト。俺と彼女は、強いぞ」


 炎を溢れ出させるリフト。

 それに応え、ダーインスレイヴを構えるラモン。


 まさに、強者と強者の間合い。

 何も起きていないはずなのに、その間にはすさまじい殺気の応酬がある。


 傍から見ているだけのナイアドたちも、ごくりとのどを鳴らすほど。

 ……そう、本来であれば、ここから激しい戦闘が繰り広げられることになっていた。


 イフリートと最強の戦術指揮官であるラモン。

 この二人の戦いは苛烈を極め、一進一退の攻防を繰り広げ、見る者を魅了する素晴らしいものになっただろう。


 そう、ダーインスレイヴさえいなければ。

 一言で言おう。


 彼女は、張り切ったのである。

 久しぶりの、自分を扱える男との共闘。


 もう二度と自分から離させないために、自分の有用性を改めて叩き込まなければならない。

 さらに、ラモンに使ってもらえるという嬉しさ。


 彼女を扱うことができる者は、彼以外に存在しなかった。

 武器とは、使われてなんぼである。


 使われない武器に存在価値はない。

 つまり、生物と違って明確に命というものがあるわけではないが、ダーインスレイヴはまさに死にかけていたのである。


 そんな状態から、息を吹き返させてもらえた。

 当然、高揚する。


 もともと、ダーインスレイヴは呪われた魔剣だった。

 周りにいる者の命をすべて抜き取る。


 それは、自身の使い手も例外ではない。

 使用者は必ず死ぬ。


 そのようなうわさが広まれば、誰も使おうとはしなくなった。

 千年、もしくは千年を超えていたかもしれない。


 そんな自分を扱おうとしてくれたのが、ラモンだった。

 彼は力を求めていた。


 だから、力を貸した。

 武器として、使い手の力になれるよう。


 その強大な力に飲まれ、命を吸い取られる。

 それがいつもの流れだったのに、ラモンはそうはならなかった。


 彼は自分を尊重し、丁重に武器として扱ってくれたのである。

 ダーインスレイヴがラモンに懐くのも当然のことだった。


 それなのに、彼は自分を置いてどこかに行ってしまった。

 許せるだろうか?


 次に同じことが起きた時、自分はまた待ち続けなければいけないのか?

 ……いや、そんなことはありえない。


 絶対に、だ。

 そんなことから、ダーインスレイヴが張り切った結果……。


「じ、地震ですの!?」


 ナイアドが驚く。

 ガタガタと地面が揺れ、リフトの攻撃によって崩壊寸前だった城壁が、次々に崩れ落ちていく。


 突然の自然災害に、飛んでいるナイアドですらも驚愕するが、シルフィが首を横に振って否定する。


「自然現象のそれじゃないですよ。これは、あの剣がやらかしていることです」

「たった一振りの剣が、地震を引き起こせますの!?」


 唖然とする。

 人や魔族ですらない、生命を持たない無機物。


 それが、自然災害を引き起こすことができるのか?

 そんな強大な力を、たった一振りの剣が……。


 しかし、それをもレナーテが否定する。


「それもまた少し違うのう。あれは、地震を起こす能力なんて持っておらん。また別の力を使っておるのじゃ」

「別の力?」

「そう、吸収じゃ」

「きゅ、吸収?」


 首を傾げる。

 それほど強い力には聞こえないが……。


「あれは、力を吸い取る魔剣じゃ。使用者や周囲の者の生命力や魔力といったものを吸い取り、強大な力を振るうことができる。非常に扱いづらいものじゃよ」

「じゃ、じゃあ、これって……」


 ゴクリとのどを鳴らす。

 力を吸い取る魔剣。


 つまり、今あの剣は大地……すなわち、世界そのものから力を吸収しているということか?


「うむ。大地が生命力を吸い取られる悲鳴を上げておるんじゃ」

「数年は植物一つ育たない死の大地に枯れ果てるでしょうね」

「とんでもないことをしていますわよ!?」


 口を大きく開けるナイアド。

 そう、そうである。


 ダーインスレイヴは、張り切っているのである!

 その吸収した力を、変換して顕現させる。


 爆発的に膨れ上がる黒い魔力。

 それは、ラモンを包み込むように抱きしめる。


 なお、ラモン以外が触れようとすれば、一気に牙をむく模様。

 ダーインスレイヴは独占欲が強いからこそ、自分の身持ちも硬いのである。


 そんな天高くまで伸びる黒い瘴気を見上げて、リフトは頬をひくつかせる。

 これほどの力、かつて自分が負けた時以上のそれじゃないか。


「……おいおい、こんなのってありかよ……。お前の力、どれだけなんだ……」

「俺じゃない。ダーインスレイヴだ」


 そして、ラモンも冷や汗を流しながら答える。

 次の瞬間、張り切りに張り切ったダーインスレイヴの一撃が、炸裂したのであった。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


本作のコミカライズです!
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挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
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挿絵(By みてみん)

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