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第35話 愛剣

 










「おらぁっ!!」


 拳を突き出すリフト。

 距離があるため、その拳がラモンにめり込むことはない。


 ただ、空間に向かって正拳突きをしただけのように見える。

 もちろん、そんなはずもない。


 腕からほとばしる業火が、火球となってラモンに襲い掛かった。


「っと……!」


 とっさに横っ飛びしてそれを避ける。

 後ろにあった硬質の城壁は、簡単に破壊される。


 それを見れば、冷や汗が一筋垂れるのも仕方ないだろう。


「(やっぱり、一撃でも貰ったら終わりだな)」


 相変わらずの強力な攻撃に、苦笑いする。

 本当の危機になると、なんだか笑えてくる。


 昔も、様々な激戦に投入された時に、よく笑っていた。

 ……そういうところもあって、【赤鬼】と畏怖されることになったのだが。


「なんだ!? なんの騒ぎ……ぎゃっ!?」

「い、イフリートが暴れているぞ! ここに近づくな! 殺されるぞおお!」


 もちろん、ここは魔王城だ。

 こんなところで城が壊れるほどの激しい戦闘が繰り広げられていれば、様々な場所から警備兵が集まってくる。


 だが、そんな増援を、リフトは意図せずして焼き尽くす。

 殺そうなんて明確な敵意を向けることはない。


 今のリフトの目に映っているのは、ラモンただ一人。

 そして、彼に対する攻撃の余波で、それだけで警備兵たちは命を落としていくのだ。


「(気の毒だが……練度の低下も著しいな)」


 戦時と平時。

 もちろん、比べるまでもないかもしれないが、まったく兵士の力が違った。


 まあ、それを嘆くような立場でもない。

 今は、リフトに集中しなければ。


「ああ、そうだよ! そんな雑魚によそ見なんてしてねえで、ちゃんと俺を見ろぉ!」


 苛立ちも含め、リフトは強く地面を踏みつける。

 まるで、地震のように建物が揺れる。


「ッ!」


 次の瞬間、ラモンの立つ地面から火柱が上がる。

 分厚いそれは、たやすく彼の身体を飲み込んだ。


「あっつ……!」


 火柱の中から飛び出してくるラモン。

 その身体はところどころ煙が上がり、人体に大きなダメージを与えていることを伝えてきていた。


 ただ息を吸うだけでも器官を焼き尽くす場所から、とっさに飛び出た。


「よお。そんな無防備で、大丈夫か?」

「くっ……!?」


 それゆえに、待ち構えていたリフトに対し、対応が遅れる。

 硬く両手を絡め、そしてそれを打ち下ろす。


 ラモンは剣を構えて防ぐ体勢を取るが……。


「がはっ!?」


 硬いリフトの拳により、たやすく打ち砕かれた。

 キラキラと舞う金属片は、あまりにも儚い。


 殴られた勢いのまま、ラモンは地面に叩きつけられた。


「そんななまくらじゃあ、俺の身体に傷一つつけられねえ。いくら卓越した技量があろうと、それを十全に発揮できる道具が必要だ。俺みてえに、身体が頑丈じゃなければな。まともな武器を手にするべきだったな、ラモンよぉ」

「結構……気に入っているんだ、これ」


 砕け散った剣を見て、すぐに捨てる。

 幸い、倒れている警備兵が剣を持っていたため、それを使うことができる。


 だが……。


「(これじゃあ、あまりまともに打ち合えないな)」


 さすがに魔王城を警備しているだけあって、装備は妖精狩りのそれよりは整っている。

 だが、やはりあまり実戦は想定していなかったのだろう。


 剣としての能力よりも、華美さが重視されているようで、頑丈な武器とはいいがたい。

 ラモンがどうやって攻めようかと悩んでいると……。


「――――――もう、結構ですか、イフリート」


 冷たい声が響いた。

 その声音には、ナイアドも震え上がるほど。


 シルフィだ。


「久々にその嫌な顔を見せたと思えば、いきなり襲い掛かってくるとは頭がおかしいんですか? 昔から、あなたはバカでしたが、何も変わっていませんね」

「ウンディーネ、黙ってろよ。お前の出る幕はねえ。そもそも、お前に俺は興味がねえんだよ」

「私も興味はありませんよ。ただ、うるさい羽虫がいるなら、潰したくなるだけです」


 にらみ合うシルフィとリフト。

 もともとは、ラモンの下についていた同僚である。


 だが、彼らは致命的に仲が悪かった。

 種族的な所も大きいだろう。


 ウンディーネとイフリート。

 水と炎の魔族だから、相性が良くない。


 くわえて、性格である。

 ラモンを純粋に慕うシルフィに、敬意を持ちつつも戦うことを望むリフト。


 そりが合わないのも当然だった。

 まさに、一触即発。


 そこに割って入ったのは、唯一許されるラモンだった。


「……いや、シルフィ。ここは俺に任せてくれないか。……って言っても、ボコボコにされていたら、説得力はないんだけど」

「ラモン。ですが……」

「ああ、そうだよな。これは、俺とお前の戦いだ。邪魔者なんかに、譲ってやるものかよ」


 しぶしぶといった様子で引き下がるシルフィ。

 しかし、ラモンが動けなくなったりすれば、すぐさま介入してリフトに襲い掛かるだろう。


 それは、この場にいる誰もが想像できた。


「(しかし、どうしたものか……)」


 技量だけではどうしようもない。

 強力な武器が必要だ。


 だが、そんな都合のいい武器がその辺りに落ちているわけもなく……。


「ぐおおおおおお! お前様ぁ、お前様ぁ!」

「……ん?」


 真剣に悩んでいるときに、レナーテのどこか気の抜ける悲鳴が聞こえてきた。

 切羽詰まっているが、悲壮感は薄い。


 警備兵の増援が彼女を捕らえたわけでもなさそうだ。

 ラモンが振り向くと……。


「ちょっともう妾じゃ抑えきれんから、後はよろしくぅ!」

「え? ま、まさか……」


 レナーテのすぐそばの空間に、とてつもなく大きな亀裂が入っていた。

 その亀裂の奥は、闇。


 どす黒い瘴気があふれ出ている。

 ただでさえ異常な光景に、この場にいるすべての者が硬直する。


 しかし、既視感のあるラモンは、誰よりも冷や汗を垂らしていて……。


「ひ、ひさしぶ……」


 次の瞬間、亀裂から爆発的な加速で飛び出してきた剣。

 それは、引きつった笑みを浮かべているラモンに一直線に飛んでいき……彼の股下の地面に突き刺さるのであった。


「な、何ですの、あれは? 何もないところから、剣が……!?」

「あれは、昔にラモンがずっと使っていた愛剣じゃ」


 レナーテは顔色を青くしながら、ナイアドに教えてやる。


「その名も、ダーインスレイヴ。呪われた魔剣じゃ」




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
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