第33話 過去の清算
「……まさか、本物だったとはなあ。あいつらから報告を聞いた時はまさかと思ったが、こうして直接見て間違うことなんてありえねえ」
リフトは俺を見て、歓喜の表情を浮かべていた。
自分のことを思ってそんな表情をしてもらえたのであれば、俺も嬉しくなってしまいそうなものだが……。
この男は、そんな単純な男でもないのだ。
思わず苦笑いを浮かべる。
「元気そうで何よりだ。……元気すぎる気もするが」
「当たり前だろ? お前ともう一度会えたんだ。元気にならねえはずがねえ」
硬い魔王城の城壁を容易く破壊する力。
昔もそうだったが、リフトの破壊力はすさまじい。
第四次人魔大戦の際には、人類側から畏怖と恐怖を向けられていた、最強の戦士だ。
その力は、微塵も衰えていないらしい。
「は、反政府軍のイフリート……。そんな大物が、どうして……!」
「こ、これは好機だ! 我々を苦しめる張本人がここにいる。捕まえて、殺せ! 長い争いに終止符を打て!」
生き残った警備兵が、リフトを囲もうとする。
だが、それは悪手だ。
「うるせえよ」
一言。
そう言って腕を振るっただけで、業火が猛威を振るう。
リフトを囲んでいた兵士たちは、跡形もなく燃やし尽くされる。
彼らの取るべき手段は、一心不乱に逃げ出すことだった。
リフトは背中を撃つような真似はしない。
ただただつまらないからという理由だが、生き残りたければそうするべきだった。
今となっては、もう遅いが。
「きゃっ!?」
飛ぶ火の粉に、ナイアドが悲鳴を上げる。
シルフィなら何の問題もないが、ナイアドと子供……そして、弱っている姫さんには危険だ。
持っていたなまくらを振るい、吹き飛ばす。
「こっちには子供もいるんだ。もうちょっと考えてくれよ」
「こんな危険な場所にガキなんて連れてきてんじゃねえよ」
「…………」
ぐうの音も出ない。
でも、俺には信頼できる人が少ないんだから、仕方ないじゃないか!
一番俺の近くが安全だと思ったんだ。
「よし、これで邪魔者は消した。まあ、これからわいて出てくるだろうが、しばらくは大丈夫だろ。それに……」
周りを見渡したリフトは、姫さんに目を向ける。
「よぉ。さっそくラモンに助けられたようだな、お姫さん」
「おぬしが遅いからのう」
「それは悪かったな。俺も色々頑張ったんだけど……やっぱり、トップってクソだわ」
やれやれと首を横に振るリフト。
今の話を聞いて、ナイアドが反応する。
「あなた、この人を助けるために反政府軍をしていたんですの?」
「まあな」
意外そうにするナイアドであるが、彼の性格を知っている俺からすると、納得できる。
というか、誰かのため以外に、リフトが反政府軍なんてところにいる理由が分からない。
自分のためだったら、もっと直情的に行動するのが彼だからだ。
それにしても……。
「……でも、お前が反政府軍のトップってどうなんだ?」
「テメエの後釜に無理やり座らされたんだよ! 立場もあるから簡単に動けねえし、最悪だわ!」
後釜ってなに?
もしかして、ラモン派とかいうのじゃないだろうな?
……いや、大丈夫か。
反政府軍は人間の俺も嫌いって姫さんが言っていたし。
うん、俺は関係ない。
「でも、ここにはあなた一人で来ているみたいじゃないですか」
「おいおい、ウンディーネ。当たり前だろ? こいつが生きている可能性があるってんなら、そんな立場なんか捨てて駆けつけるさ。そして、本物のラモンと会えた。俺の判断は間違ってなかった」
つまり、俺がいると思ったから、今まで自重していた単独行動に移ったということか。
かなり立場的に危ういことになるとしても、俺を優先したということ。
……怖い。
「でも、よかったですわね! かなり騒ぎにはなっていますけど、今のうちに逃げれば万々歳ですわ!」
「こいつがそんな簡単な奴だったら、話はすぐに収まるんだけどなあ……」
「ああ、そんなはずはねえよな」
ナイアドの言葉に苦笑いすれば、リフトも頷く。
そうだ。
この男が、純粋に俺を助けに来るはずなんてないのだ。
むしろ、自分が認めた男ならば、それくらい自力で何とかしてみろという考えの方が合っている。
そんなリフトが俺の前に、立場も捨ててやってきた。
ということは……。
「なあ、ラモン。俺がお前の下についた理由、覚えているか?」
「ああ、もちろん」
俺が強かったから。
一度、俺とリフトは戦っている。
それこそ、負ければどちらかが死ぬ。
そんな命の取り合いをしたことがある。
結果として、俺たちは死んでいないが、勝ったのは俺だった。
だから、リフトは俺の下についたのだ。
いつでも俺と、再戦できるように。
「お前がいなくなって、俺は一度独り立ちしたんだ。だったら、あの時の約束はチャラ。それが普通だよな?」
「俺はお前と違って、別に戦うのが好きじゃない。余計な争いは避けたいんだけどな」
「余計? 余計なわけがあるか! 最高に尊くて、重要な争いだ!」
リフトの感情に合わせて、炎が燃え盛る。
「テメエが死んだと思った時から、もう二度とテメエに追いつけねえと思っていた。だが、こうしてまた戦える。あの時は、乱戦の中でテメエの最期を見ることができなかった。テメエを殺した奴も分からなかった」
もちろん、俺は俺を殺した相手のことを知っているのだが、黙っておこう。
すでに、【彼女】もこの世界には存在していないのだから。
しかし、そのことは放っておいても、俺とリフトが戦うことは避けられないらしい。
「だから、ちゃんと付き合えよ、ラモン。過去の清算だぜ」
「……まあ、ここで逃げてもしつこく追いかけてきそうだしな。付き合うよ、リフト」
過去作のコミカライズ最新話が投稿されていますので、ぜひ下記からご覧ください!




