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第26話 俺の勝ち

 










 その声が聞こえて、メトロの身体は震え出した。

 ありえない。ありえないのだ。


 自分の魔剣が、確かに直撃したはずだ。

 その威力は、人の脆弱な身体なんてたやすくバラバラになるほど。


 加えて、ミノタウロスの筋力である。

 死なないはずがないし、万が一生きていられたとしても、五体満足であるはずがなかった。


 そうだ、それが当然だ。

 だったら……。


「どうして、貴様は立っている……?」


 メトロの目に映るラモン。

 無傷ではない。


 血は流れているし、傷も負っている。

 ああ、確かに攻撃は通っている。


 だが、それだけだ。

 このまま十数回繰り返せば、ラモンを倒すことができるだろう。


 では、あの魔剣の攻撃を、何度も繰り返すことができるのか?

 メトロの耐久力は非常に高い。


 それでも、一日に数度力を解放するのがやっとだ。

 無理をすれば、まだ一度は魔剣を使うことができるだろう。


 だが、インターバルは必要だ。

 そして、それは数十分。


 戦いにおいて、あまりにも悠長だった。


「言っただろ? 火の攻撃は慣れているんだ。リフトとさんざん喧嘩をしたときに、何度も食らったからな」

「リフト……? まさか、貴様が言っているのは……」


 気になる名前だ。

 だが、それ以上に自分の攻撃を受けて、まだ存命の男が気になって仕方ない。


「いや、それよりも、どうして貴様はまだ生きている!?」


 身体の硬い魔族なら分かる。

 それでも、致命傷は負わせられるはずの自信があったが。


 だが、相手は人間だ。

 脆弱で、すぐに死んでしまうような、弱弱しい生物。


 そんな男が、どうして。

 ラモンはその問いかけを受け、短く答えた。


「……偶然だ」

「そんなわけ、あるはずないだろうが! そ、そうだ。人間程度ならば、確実に殺せる威力だった。ドラゴンでさえも、ただでは済まない威力だった! それなのに……!」

「偶然だ」

「かたくなですわ」


 呆れた目を向けるナイアドから、顔をそらすラモン。

 もちろん、種はある。


 だが、それをヘラヘラと公にするつもりは毛頭なかった。

 情報はとても大事だ。


 それを漏らすのは、ただただ自分の首を絞めることに他ならない。

 この場においてもそうだ。


 もしかしたら、誰か他の者が聞いているかもしれない。


「降参することをお勧めするぞ。殺す気はない」

「その上から目線が許せんのだ! 人間が、この俺を下に見るなぁ!」


 剣を向けられ、激高するメトロ。

 自分の最大の攻撃が効かなかった。


 そんな相手に、怒鳴るのは明らかにマズイ。

 だが、それを理解できていても、我慢ができなかった。


 人間風情に、人間程度に、まるで慈悲をかけられるような言動をされるのは。


「たとえ魔剣の力が使えずとも、ミノタウロスの力ならば、貴様なんて叩き潰してくれるわ!」


 猛然とラモンに突貫する。

 ミノタウロスという種族もあるだろうが、その速度はすさまじい。


 瞬く間にラモンの懐に入り込む。

 狙いは、首だ。


 爆炎が効かなくとも、物理的に首と身体が離れれば、確実に死ぬ。

 人間だからとかではなく、ほぼすべての生物の定めだ。


 宣言した通り、あの魔剣の力は使えない。

 インターバルが必要だからだ。


 だが、それがなくとも、魔剣は武器として優秀だ。

 切れ味も鋭く、重さもある。


 強靭なミノタウロスの筋力で振るわれたそれは、人間にとって大きな脅威である。


「ああ、お前の力が俺よりはるかに強いことは知っているよ。だから……」


 身体をかがめてその攻撃を避けたラモンは、剣を構える。

 それは、突きの姿勢だった。


「多少痛いが、我慢してくれよ」


 狙うのは、がら空きとなっている腹部だ。

 だが、避けられることも、そして腹部を狙われることも、メトロにとっては想定内のこと。


 むしろ、そうするように誘導したのだ。


「(俺の身体に、そのなまくらは通用せん! 俺の肉体に阻まれ、身動きが取れなくなった時が、貴様の最期だ!!)」


 自分の屈強な肉体に、ラモンの持つなまくらが通用しないことは、すでに経験済みである。

 もちろん、痛みは感じるしダメージも残るが、動きが完全に制約されるような致命傷にはなりえない。


 どうやら、人間はちょこまかと動きがすばしっこい。

 このままだと、チクチクと削られて鬱陶しいだけだ。


 相手の体力が切れるまで付き合ってやってもいいが、魔剣の力をどうにか無効にするような薄気味悪い人間と、長らく戦っていたくもない。

 だから、メトロは自分の腹を差し出した。


 そこにラモンが剣を突き入れれば、力を込めて抜けなくする。

 そして、その一瞬の隙をついて、ラモンを仕留める。


 先ほどの繰り返しのように感じるが、今回はしっかりと計画してからの行動だ。

 前のより、手間取って相手に逃げる隙を与えることは許さない。


 すでに、命を奪うギロチンとなる戦斧は、高く掲げてある。

 後は、ラモンの剣を絡め取り、動けなくさせるだけだ。


 剣の切っ先が、腹部にめり込む。

 直後に、全身に力を込めて……。


「ぎゃっ!?」


 ズドン! と爆発が起きた。

 いや、これは爆炎だ。


 メトロが今まで敵となった政府軍を潰してきた、自身の持つ魔剣の炎だった。


「が、ぁ……は……?」


 何が起きた?

 どうしてこうなった?


 その理解ができないまま、口から血を吐き出したメトロは、その巨体を地面に沈めるのであった。


「さすがミノタウロス。命を落とさない耐久性は、見事としか言いようがない。俺の仲間にもいたが、頼りになった奴だったよ。ただ、まあ……」


 ラモンはメトロを見下ろし、呟いた。


「今回の勝負は、俺の勝ちってことにしておいてくれ」




過去作『偽・聖剣物語』のコミカライズ最新話が公開されました。

良ければ下記からご覧ください!

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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


本作のコミカライズです!
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挿絵(By みてみん) 過去作のコミカライズです!
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挿絵(By みてみん)

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