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第24話 反政府軍

 










「俺たちは自分の家族を探してくる! 今までありがとうな!」

「本当に助かりました! ありがとうございました!」


 門番たちは、騒動が起きている方向に走って行ってしまった。

 多くの一般市民が逃げ始める中、ここまで一緒に来た彼らは、そう言って去って行った。


 ここに家族がいたのか。

 他の街まで歩かなくていいから、よかっただろう。


 と言っても、大きな問題が起きているようだから、のんびりしているわけにはいかないようだが。


「さて、どうするかな」


 俺は残ったシルフィとナイアドに問いかけてみる。

 すると、考える間もなく、すぐに返事が返ってきた。


「さっさととんずらしましょう。私たちがここにいても、いいことなんて一つもありません」

「危ないことからは遠ざかるのが正解ですわ」


 彼女たちの選択は、この場からの逃走だった。

 もちろん、怖気づいたというわけではない。


 ナイアドはともかく、シルフィはあの人魔大戦を生き延びた猛者だ。

 今、おそらく門番の言葉から察するに、反政府軍とやらが襲ってきているのだろうが、彼女ならどうとでも対処することが可能だろう。


 冷たいように見えるかもしれないが、俺も賛同していた。


「んー……そうするか」


 もし、これが人類に襲われて、一方的に魔族が虐殺されていたら。

 だったら、俺は介入していたかもしれない。


 あの戦争の結果、人類に抑圧され迫害を受けているのであれば、目の届く範囲は何とかしなければならないのが、当時戦って負けた指揮官の責任だと思うからだ。

 一方で、今回は魔族同士の争い。


 政府軍と反政府軍。

 正直、どちらが正しいのか分からない。


 どちらも正しくないのかもしれない。

 しかし、そんな内輪もめに介入するほど、俺もお人よしでも考えなしでもない。


 そもそも、死者が現代に影響を及ぼすことなど、あってはならないのだから。


「本来、あの魔族たちをここまで連れてきただけでも、充分な対応をしています。これ以上は、彼ら自身の問題でしょう。大人なのですから、おせっかいは必要ありません」


 奴隷たちを助けた。

 その場で彼らを捨てて旅をしていてもよかった。


 別に、誰に責められることもないだろう。

 ただ、それだと無責任だと感じたから、俺はここまで付き合ったわけだ。


 シルフィの言葉に、俺は納得する。

 そう、彼らは大人だから。


 だが、その論理で言うと、一つ問題が生じる。


「そうだな。……ところで、この子はどうする?」

「…………」


 いまだ俺の手を放そうとしない、子供である。

 悲鳴が飛び交って大勢の魔族が逃げているのだが、表情は変わらない。


 うーむ、強い。

 シルフィも子供を見下ろして、何とも言えない表情になる。


 彼女は、本来人に優しく、面倒見がいい。

 子供を、しかもこの騒乱の中、おいて行けとは口が裂けても言えないだろう。


「ここにお父さんとお母さんがいるかな?」

「いない」


 尋ねてみれば、じっと俺を見上げて子供が言った。

 そっか、いないか。


 まあ、どこの街にいるとか聞いていなかったし、たまたまやってきたこの街に家族がいた他の人たちが幸運なんだよな。

 ということで、俺はシルフィを見る。


「とりあえず、この子の両親を探しつつ旅をするって感じでもいいかな?」

「……相変わらずお人よしですね。まあ、ここで見捨てるのも夢見が悪くなりそうですし、構いませんよ」


 シルフィも薄い笑みを浮かべて頷いてくれた。

 よかった。子供を家族のところに届けたら、今度は彼女の行きたいところに付き合おう。


「そういうあなたが好きになったんですから」

「ただ、この妖精はここで始末しておきましょう」

「冗談! 冗談ですわ!!」


 ナイアドが必死に逃げ回り始める。

 学習能力が永遠のゼロかな?


 ともかく、俺たちの目的が再び定まったので、さっさとこの街を出よう。

 黒煙がいくつも立ち上り、悲鳴なども聞こえなくなってきたし。


「ぐああっ!?」


 そんなことを考えていたとたん、誰かが悲鳴を上げて吹き飛んできた。

 傷だらけになって地面に倒れているのは、俺たちを止めていた門番の男だった。


 ……面倒事の予感がするぞ!


「……なんだ? まだここに残っている一般人がいたのか」


 案の定だ。

 ぞろぞろと姿を現したのは、統一した服に身を包んだ魔族たち。


 警備隊の制服とも違うそれ。

 そして、政府に属する門番を倒していることから、彼らの立場は一目瞭然だ。


 反政府軍。

 今の魔族領で、何やら暴れているらしき連中だろう。


「あー……俺たちは特にそちらの邪魔をするつもりもないので、避難させてもらっていいですかね?」

「いいや、ダメだ。まず、その二人を置いていけ」


 バッサリと切り捨てられる。

 彼の目は、シルフィとナイアドを捉えている。


 ……またか。


「なんだか、わたくしたちって狙われすぎじゃありません? 美しすぎるというのも罪ですわね……」

「珍しいですからね」

「その通り。妖精とウンディーネは希少だ。その価値は高い。革命には、金が必要になる。そのための礎になってもらおう」


 小声でナイアドとシルフィが話していると、それを聞いた男が笑いかけてくる。

 ……なんだか、最近金の話ばかりだな。


 警備隊もそうだし、そこで倒れている門番もそうだった。

 そして、反政府軍も金と。


 気が滅入りそうだ。


「革命ってことは、反政府軍ってやつか?」

「ああ。この腐った政府を打ち倒し、真に魔族のための国家を作り上げる!」


 確認のために問いかければ、何とも勇ましいことを言ってくれる。

 理想は高いんだよな。


「……魔族のためなのに、魔族を売るのか?」

「正常な国家を作り出すための礎になれるんだぞ? 魔族なら、喜んで差し出すべきだろう」


 そして、このむちゃくちゃな理論。

 当たり前のように他人を犠牲にする理想が、尊いものだとはとてもじゃないが思えない。


 多数のために少数を切り捨てる。

 それが、正しいことなのは分かる。


 だけど、俺はそれが嫌で、人類を裏切って魔王軍に与し、戦争に参加したのだ。

 だから、俺にとってそのような考え方が、最も唾棄すべきものである。


「じゃあ、お前たちが最初にすべての財産をなげうつべきだろう。他人に強要するのだから、当然だよな? 私財なんて持っていないだろうな?」

「我らは実際に革命を起こしている。その道なりはとても険しい。ただ他人がもたらした結果を、口を開けて待っているだけの貴様らとは違う」


 よどみなく答えてくるが、俺の問いかけに苛立ちを覚えているのは明らかだった。

 声音にも怒りが混じっている。


 俺もこの男のような考え方が嫌いだから、言葉に険がにじむ。


「なんだ。偉そうなことを言っておいて、自分たちには甘いらしい。だとしたら、お前たちに対する支持も高くないだろうな。自分に甘く、他人に厳しい組織が、求心力を持っているはずもない」

「ペラペラと減らず口を……!」


 ギリッと歯を食いしばる音が聞こえた。

 男の目には、殺意が満ち溢れている。


 話を聞いていた他の反政府軍の連中もそうだ。

 今にも俺を殺してやろうとしている。


 俺は、彼らを殺してやろうとは思わない。

 だけれども、降りかかる火の粉は払うまでだ。


「そもそも、貴様は人間だな? どうして魔族領に貴様のような下等種族がいるのかは知らないが……どちらにせよ、人類は敵だ。そのふざけた口が二度と開かないように、殺してやろう」

「二度も殺されたくないな。精一杯抵抗させてもらおう」


 そう言って笑うと、反政府軍の連中は一斉に襲い掛かってきた。




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