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第23話 通れた

 










「で、なんで襲ってきましたの?」


 腰に手を当て、ふんぞり返っているナイアド。

 そして、その前では襲い掛かってきた国境警備隊の魔族たちが、全員正座をして座っていた。


 ボロボロである。

 一方で、襲われた俺には、大してけがはない。


 ……口にするのは憚られるが、正直弱かったです。

 ちなみに、ボロボロな彼らだが、その足には重たそうな石が置かれてある。


 俺が置いたのではない。

 シルフィがどこからか持ってきたものである。


 拷問かな?


「えっとですね……。あ、石をどかしていいでしょうか? 何でもお話ししますので」

「ダメです」


 顔を真っ青にしながら震える魔族の懇願を、ナイアドがバッサリと切り捨てていた。

 あれだけ強い口調で襲い掛かってきたのに、もう敬語である。


 いや、その気になれば殺される立場だから、機嫌を窺うのは当然なのだろうけども。


「瞬殺でしたね」

「国境警備隊って、まさに敵対している人類と接する最前線を守っているわけだから、精鋭が集まっているとばかり思っていたんだけどな」


 これなら、ラブセラの方が強かった。

 しかし、人類が魔族を下に見ているように、魔族もまたそうである。


 人間より劣っていた、なんて言ってしまうと、彼らのメンタルがボロボロになりそうだ。

 しかし、境目というのは最前線だ。


 それなりに能力のある者で守らなければいけないと思うのだが……。

 そういった人材がすぐに命を落としていく戦時中なら分かる。


 もう能力と経験のある者がいないからと、それらが劣る新兵などが前線に出されることだってあった。

 しかし、今は戦争をしていないわけだから、これだけよわ……あまり強くない者を持ってくる理由がないと思うのだが……。


「なんでそんなに弱いんですの?」


 な、ナイアドがいったーーーー!!

 すっごく聞きづらいことを、まったく気にせずいったー!


 警備隊たちも、ここまではっきりと言われるとは思っていなかっただろう。

 普通にショックを受けた顔をしていた。


「いや、そうは言われてもですね……。実戦があるわけでもないし、そんな真剣に訓練をしているわけでもないし……。むしろ、あんたらみたいに強い奴がいることが驚きだよ」

「平和な時代の弊害かぁ……」


 俺は頷いて納得する。

 別に、もう魔王軍でもないのだから、俺がそんな彼らに対して何かを言う権利もないし。


 まあ、平和は悪いことではない。

 とくに、戦争をしていない今、むしろ鍛えて高みを目指そうとするのがおかしいのかもしれない。


 と言っても、真剣に訓練くらいはした方がいいんじゃない?

 君たち、公務員でしょ?


「しかし、どうして俺たちを襲ってきたんだ? 国家権力なら、なおさらダメだろ」


 俺は、どうしても聞きたかった。

 俺が襲い掛かられたのは、まだ理解できる。


 彼らの言う通り、人間だ。

 戦争こそしていなくとも、仮想敵種族であることには変わりないのだから。


 ……まあ、それでもいきなり命を奪おうとするのはどうかと思うけど。

 国際問題に発展しそうだし。


 だが、彼らは同じ魔族からも、財産を強奪しようとしていた。

 それは、とても大きな問題だろう。


 本来なら魔族を守らなければならない立場の彼らが、むしろ傷つけようとしているのだから。

 大体、軍人が好き勝手なことをしないように、一般人より厳しく取り締まられている。


 ごめん、だけで済む話でもないのだ。

 それなのに、目の前の男たちは、何の躊躇もなく剣を向けてきた。


 随分と慣れていた。

 おそらく、今回のことが初めてではないだろう。


 何度も繰り返し、やり方を学び、自信をつけたのだろう。

 そう、警備隊が盗賊のまねごとをすることに対して。


 国家権力が盗賊をするとか、世紀末なの?


「そうしないと、生きていけないからだよ」


 警備隊の男は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、吐き捨てるように答えた。


「今の魔族の国は、全然余裕がない。楽に生きているのは、上層部だけだ。俺たちみたいな公務員でも、給料は雀の涙ほどしかない。だから、こうしないと生きていけねえんだよ」


 ……マジか。

 国家の財政が恐ろしく悪いのであれば、末端兵士までしっかりとした庇護を受けられないというのは分かる。


 しかし、魔王軍がそうなっているとは……。

 彼らにも、彼らなりの考えがあったことは分かった。


 だからと言って、殺されかけたのはちょっと……。

 だが、これも敗戦したから……と思うと、じくっと胸が痛む。


 俺だけの責任でないことは分かっている。

 戦争を、一人の人間がどうこうしようなんて、おこがましいにもほどがある。


 だが、もっとうまくできたのではないかと、思わないこともないのだ。

 とくに、俺は【私欲】で戦争に参加したから、なおさらそう思う。


「言っておきますが」


 俺の顔を睨みつけたシルフィが言う。


「あなたのせいではないですよ、ラモン。何でもかんでも責任をしょい込むのは、図々しいです。戦争に負けたのは、魔族全体の問題です。誰が悪いとか、そんなことはありえないんです」

「……そうだな。悪い」


 厳しい言葉。

 だが、それは俺の心を軽くしてくれる言葉だった。


 俺一人の行いで、戦争の趨勢が変わることはない。

 それは、良くも悪くも、だ。


 その功罪をすべて自分のものにしようとするのは、彼女の言う通り、図々しい。


「心配している感じがもろ出ていますわ。クーデレですわ」

「…………」

「ノーコメントで殺しに来るのは止めてくださいまし!」


 またわちゃわちゃと遊び始める二人。

 いつも通りの彼女たちに笑みを浮かべつつ、警備隊の面々に目をやる。


 もう、ここにこれ以上いる理由はない。


「俺たちは先に進ませてもらう。いいな?」

「…………」


 きっと睨みつけてくる警備隊。

 そう簡単には進ませたくない。


 そんな思いがにじみ出ていた。


「ここに追加の石が……」

「どうぞお進みください!」


 通れた。











 ◆



「バカな!? そんな高い通行料、あるわけないだろ!!」

「これは決まりだ。その金が払えないのであれば、通すわけにはいかないな」


 国境警備隊という壁を越えてから、俺たちは一番近くにあった街に向かった。

 それほど大きくはない、小規模の街だ。


 しかし、外壁もしっかりと建てられており、入り口には門番が立っている。

 奴隷から解放された魔族たちは嬉々としてそこから街に入ろうとしていたのだが、門番に立ちふさがれて今の状況に至っていた。


 揉めているのは、通行料だ。


「通行料ってなんですの?」

「街を入るときや、道を通るときに、そこを管理している者に金を払って、入れてもらったり通してもらったりするんだ」

「……自由に移動できませんの? 不便ですわねぇ」


 確かに。

 ナイアドの言葉に、思わずうなずいてしまう。


 妖精である彼女は、行こうと思えばどこにでも行くことができるから、そう思うのだろう。

 通行料があるのは理解できる。


 つい先日まで奴隷になっていた彼らが、それほど多くのお金を持っていないことも。

 だが……。


「でも、これだけ高いのはおかしいですね。重要都市ならまだしも、ここはそんな場所でもないようですし」

「そ、そうだ! なんでこんなに高いんだよ!?」


 シルフィの言葉に追従する声が上がる。

 多くの人が集まる街が、高い通行料を取ることは理解できる。


 それほど高く設定していても需要があるし、大きな街ほど運営するために巨額のお金が必要になるからだ。

 しかし、辺境の街でそれほど人の出入りが激しいわけでもなく、規模もそんなに大きくないのに、大都市と同レベルの金銭を要求するのは、不自然だった。


 そんな声を受けて、門番はむしろこちらを怪訝そうに見る。


「お前らも今の状況を知っているだろ? 金がないんだよ。中央が全部吸い上げるから、この街みたいな辺境は援助は一切受けられない。むしろ、搾り取られている一方だ。それに……」


 警備隊の男が言っていたことだ。

 彼らも給料をしっかりと受けられていないと言っていたのだから、この街も同じなのだろう。


 それで、街を維持するために大きな額を要求している。

 さらに、門番は付け加えた。


「あいつらが暴れるせいで、他の街との連携も取れない」

「あいつら?」


 いったいどういう存在だろうか?

 人間……ではないよな?


「……本当に知らないのか? どこから来たんだ? 今のこの国なら、どこに行ってもあいつらの脅威はあるだろ」


 通行料でもめていたのだが、今度は出自でもめそうだ。

 奴隷から解放された彼らは大丈夫だろうが、俺は間違いなく引っかかる。


 冷や汗がタラリと垂れた。


「あいつらは……」


 門番が説明をしてくれようとした、その時だった。

 ズドン! と重たい音が響いた。


 空気が揺れるような振動もセットだ。

 少し離れた場所で、爆発のようなものがあったらしい。


 門番はすぐに他の仲間に連絡をとる。


「どうした!?」

「敵襲です! あいつらが……」


 駆け寄ってきた兵士が、汗を大量に流しながら言った。


「反政府軍の連中が、襲ってきました!」


 ……仲間割れもしてんの、今?




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