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第2話 妖精

 










「んぁっ!?」


 バチッと目が覚める。

 ボーッとする頭を急速に再起動させながら、俺は倒れていた身体を起き上がらせる。


 ……草原である。

 こんな緑が生い茂る場所、ヘルヘイムにあったっけ?


 あったとしても、戦いの中で大地なんてボロボロになっていたから、土色一色だったと思うのだが……。


「えーと……?」


 不思議なことと言えば、俺の身体もだ。

 致命傷をいくつか受けていたはずなのだが、それが一切ない。


 衣服もボロボロになっていない。

 まるで、あの戦いに向かう前の姿のようだ。


 うーん……。


「……あの世って、こんな牧歌的な場所なんだな」


 もっと暗くて冷たい所だとばかり思っていた。

 天国よりも地獄に行くであろうと思っていたから、なおさらだ。


 いや、驚いた驚いた。


「何をバカなことを言っているんですの?」

「ん?」


 自己完結していると、そんな声が聞こえてきた。

 振り返れば、呆れたような顔をしている少女がいた。


 普段なら、これだけ近づかれていたら、足音などで察している。

 それができなかったということは、彼女が文字通り浮いていることに原因がある。


 そして、俺よりも小さく……それこそ、掌サイズの小さな女の子だった。

 魔王軍に与していたから……というよりも、彼女は人間にもとても人気と知名度がある種族。


「おお、妖精か」

「あぁっ!? 見つかってしまいましたわ!」


 声をかければ、なぜか頭を抱えてふわふわと飛び回る。

 見つかるも何も……。


「そりゃ、声をかけてこられたら見つかるだろうよ」

「あなたがあまりにも変なことを言うからですわ。まるで、死んだみたいなことを言うんですもの」


 その通りなんだが。

 ……とは、さすがに言えるような状況ではないようだ。


 言葉の節々からは、本当なら俺に話しかけてはいけなかったのだろう。

 だが、よっぽど興味深いことを口走っていたから、声をかけてしまった。


 妖精は好奇心が強いからな。


「……ということは、ここは死後の世界ではないのか?」

「当たり前ですわ。わたくしは死んだ覚えなんて微塵もありませんもの」

「ふーん……」


 何でもないような言葉を発しているが、絶賛混乱中である。

 あれだけの戦いをして、致命傷を負って、それが全部治っている状態で、死んでいない?


 まったくもって理解ができない。

 魔法で幻覚でもかけられていると思った方が自然である。


 とはいえ、すでに俺の周りに生きている人間なんていなかったし、今にも死にかけていた男に幻覚をかける意味も分からない。

 俺に強烈な恨みを抱いていて、死ぬ直前までいたぶってやろうと思われていたら話は別だが。


 まあ、それくらい人類から恨まれている自覚はあるのだが、あの戦場でそんな余裕のある奴は誰もいなかったと思うんだよなあ……。


「あぁっ! そういえば、見られたらダメだったんですわ!」


 再び、わたわたと慌て始める妖精。

 随分と元気なことだ。


 自分が悩んでいることが馬鹿らしく思えてくる。

 思わず苦笑いしながら、問いかける。


「どうして?」

「だって、わたくし妖精ですもの」

「……?」

「?」


 俺も妖精も、そろって首を傾げる。

 ……これ、見られたらいけない理由になっていないよな?


「妖精だから、何だ?」

「だって、わたくしたちって珍しいですもの。人間に見つかったら、すぐに捕まっちゃいますわ!」

「妖精って、珍しいか? 割とそこら中にいたと思うんだが……」


 もちろん、人類よりは少ないだろう。

 だが、それは妖精に限らず、すべての魔族にも当てはまることだ。


 いたずら好きで好奇心旺盛な妖精たちは、よく魔王軍にもちょっかいを出していたが……。


「いつの話をしていますの? 千年前なら同胞がたくさんいたと聞いていますけれど、今は人間に乱獲されてほとんどいませんわ」

「……千年?」


 プンプンと腰に手を当てて怒りを露わにする妖精。

 小さな体躯もあってとても可愛らしいのだが、それに反応する余裕のない衝撃的な言葉が飛び出してきた。


「ちょっと話を聞いてもいいか?」

「ええ。わたくしは優しいですから!」


 この妖精は少しバカっぽいのだが、俺の尋ねたことを丁寧に……そして、一言余計にいろいろと教えてくれた。

 まず、人類と魔族の間に勃発し、俺も参戦していた第四次人魔大戦のことである。


 どうやら、俺が最期に参加したあの戦いに負けて、その後人類にそのまま押し切られたらしい。

 まあ、どう考えても魔族に逆転の芽はなかったしな。


 それは特に驚くことではない。

 そして、今の世界は人類が支配しているとのこと。


 幸いにして、魔族が奴隷のように扱われているということはないようだ。

 基本的に、敗戦した側はめちゃくちゃにされても不思議ではない。


 奴隷のように扱われ、領土を分捕られ、当たり前のように迫害されることだってよくある話だ。

 しかし、魔族は弱い立場にあるとはいえ、そこまでひどく扱われてはいない様子。


 それはよかった。

 最後の最後に、暴れた甲斐があったというものだ。


 とはいえ、人類に対して弱い立場で、強くものを言えないのは事実。

 妖精も俺が生きていたころはそこら中にいてちょっかいをかけまくっていたが、人類が珍しいと乱獲するものだから、めっきり姿を隠している。


 隠しているというのがみそだ。

 相変わらず賢しい連中である。


「……そんなに変わっているのか」

「あなた、人間なのに随分と理知的ですわ。わたくしを捕まえようともしないし」


 ジト―ッと俺を見てくる妖精。

 彼女からすれば、俺は仲間を乱獲する憎き人間にしか見えないだろう。


 実際、人間だしな、俺。


「あー……まあ、ちょっと普通とは違うんだよ、俺」


 なにせ、人間のくせに魔王軍に与していた、人類の裏切り者だしな。

 普通の魔族より嫌われている自信がある。


 普通、そんなことしないもんな。

 命乞いとか見返り目当てて裏切る人間はいただろうが、それでも最高指揮官にまで上り詰める裏切り者は俺くらいなものである。


 本当、なんでかなあ……。


「さてと、話を聞かせてくれてありがとうな」

「あっ……もう行っちゃいますの?」


 歩き出すと、妖精がどこか寂しそうに顔を歪める。

 気のせいか。


 彼女からすれば、俺は憎き人間だし。


「ああ。ちょっと確かめたいこともあるしな」


 世界がどうなったのか、確かめる必要がある。

 普通ではありえない千年後の世界にやってきた可能性もあるのだ。


 確かめなければならない。


「じゃあな」

「……ええ」


 そうして、俺と妖精は別れるのであった。




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新作です! よければ見てください!


その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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