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第19話 すっごい頼りないですわ

 










 王国の大貴族たちが死んだはずの男に対して警戒を強めていた時より、再びさかのぼる。

 ラモンたち一行は、魔族支配領域へと向かっていた。


 と言っても、一日歩いただけで着くような距離ではないので、野宿をしながらということになる。

 姿を隠せない魔族も多いため、人間の宿を借りるわけにはいかない。


 日が落ちれば、焚火を囲って身体を休める。

 食事はナイアドが見つけた果物や、ラモンが仕留めた大きな魔物を焼いたものだ。


 それらを見ながらシルフィは、何かを食べなければ生きていけない種族は大変だな、と水を身体に吸収しながら考えていた。

 ウンディーネである彼女は、食事から栄養をとる必要はない。


 時折水分を身体に取り込むだけで、ずっと生きていける。

 だから、一人で湖に長年暮らし続けることができていたのだ。


 焚火は二つ準備された。

 一つはラモンやシルフィたち。


 もう一つは、救出された魔族たちで囲んでいる。

 助けてもらい、引率してもらってはいるものの、やはり自分たちを過酷な状況に追い込んだ人間に、あまり近づきたくないのだろう。


 なんて恩知らずな連中だ、とシルフィは思う。

 だが、当の本人であるラモンが何も言わないのであれば、自分も何も言えないのだ。


 ふうっとため息をつく。

 ……と、ナイアドがこちらを信じられないものを見る目で見つめてきていた。


 なんだぁ、テメェ……。


「…………何をしていますの?」

「は? 何がですか?」


 唖然としてこちらを見てくるナイアド。

 主語がない。


 何をしているの……と言われても、ただ水分を補給しているだけだ。

 まさか、勝手に水を飲むな、とでも言いたいのだろうか?


 だとしたら、この生意気妖精を溺死させることも考えなければならない。


「いや、その……言わないと分からないんですの?」

「そもそも、言葉を交わさなければ意思疎通なんてできません。言葉というものは、そのために発達してきたのです。それを放棄するということは、言葉を開発する以前の時代にさかのぼるということ。おさるさんです」

「めちゃくちゃ言葉で殴られましたわ……」


 ちょっと満足。

 この妖精、自分よりも先にラモンと出会っていたこともあって、どうにも気に食わないのだ。


 直接暴力をふるう、なんて愚かなことはしない。

 だが、言葉で殴りつけるのくらいはいいだろう。


「じゃあ、言いますわよ?」

「どうぞ?」


 再び確認するので、頷いてやる。

 すると、ナイアドはじっとシルフィを見つめて言った。


「どうしてそんなに頬ずりしていますの……?」


 現在の状況。

 焚火を囲っているラモン。


 その膝の上には二人いた。

 一人は、彼が助けた魔族の子供だ。


 子供は他の魔族たちがいる焚火ではなく、ラモンの傍を選んだ。

 きゅっと服を握って離さない。


 一方で、シルフィもまた適度な大きさになって、彼の膝の上にいた。

 コクコクと水を飲みながら、頬をラモンの胸板にこすりつけていた。


 時折、後ろを振り返ってギュッと抱きしめてみる。

 満足すれば、また身体をゴロゴロとしてこすりつける。


「…………?」

「え。何言ってんだ、みたいな顔を向けられても……。むしろ、わたくしがそんな顔をしたいのですけれど?」

「…………はっ」

「なんでバカにされましたの!?」


 騒ぎ立てるナイアドに、シルフィは鼻で笑う。

 おかしな質問をしてくるからだ。


 目を離せば、ラモンがまたおかしな行動をするかもしれない。

 だから、こうして身体を物理的に近づけて、監視をしているのだ。


 これは、自分の使命である。

 他の仲間たちも、こうすることを望んでいることだろう。


 今は出会えない、すでに亡くなった者もいる。

 彼ら彼女らのために、自分はラモンに密着しているのである。


 決して自分がしたいからしているわけではない。


「あなたは何も言わないんですの!?」

「ああ」


 ナイアドの矛先はラモンに向いているが、彼は重々しく頷く。

 ほら、彼も嫌がっていない。


「どうして!? 水のプニプニした身体が気持ちいいんですの!?」


 そう言われて、自分の身体を見下ろしてみる。

 ……確かに、起伏には富んでいる。


 自分でもそう思うくらい、胸部は大きく膨らんでいるし、腹はきゅっと締まっている。

 水が主成分ということもあって、触り心地はプニプニだ。


 とても柔らかく、心地いい。

 そんな身体が、ラモンに密着している。


 彼も心地よく思っているのだろうか?

 だとしたら、嬉し……別にどう思うこともないが。


 うん、ない。

 ないったらない。


「俺は、逆らわない」

「尻に敷かれまくっていますわ……。過去、どんな関係でしたの……」


 ……なんだか思っていたような答えではないが、いいとしよう。

 ラモンが拒絶しないことが大事なのだ。


 そう思っていると……。


「…………」

「…………」


 じっと子供が見つめてくる。

 きゅっとラモンの服を握りしめ、シルフィを見上げてくる。


 ……別に、隔意はない。

 ナイアドと違って、自分よりも先に会ったとか、そういうこともないし。


 そもそも、相手は子供である。

 何も対抗意識なんてない。


「幼女とにらみ合うなんて……。なんて大人げない……」


 ナイアドが何か言っているが、無視である。

 じっと子供を見ると、子供も見返してくる。


 ふっ、なかなかやるな。


「子供、弁えなさい。この人は私が面倒を見てあげないとダメなんです。それに、未来あるあなたにこの男の傍は少し危険すぎます」

「自分でないとついていけないというプライドの誇示。子供に対して本当に大人げないですわ!」


 ナイアドの言葉は相も変わらず無視である。

 訳の分からないことを言う彼女が悪い。


 しかし、子供にラモンの傍は刺激が強すぎる。

 すくすくと成長することができなくなってしまう。


 だから、これは子供のことを思っての言動だ。

 今はラモンから遠ざけようとする自分を恨むこともあるかもしれないが、大きくなってから分かるようになる。


 シルフィは子供がどのような反応をするのかと、じっと見る。

 すると、子供は小さな手を伸ばし、ラモンとシルフィを指さして口を開いた。


「……ふーふ」

「…………ッ!!」


 ピシャァン! と落雷が落ちた……ような気がした。

 それほど、シルフィには大きな衝撃を与えた。


 ふーふ。ふうふ。夫婦。

 ……ほほう。


「ふっ、仕方ありませんね。今日だけは譲りましょう」

「ちょろいですわ」


 やれやれ、仕方ない。

 半分程度ならば、ラモンを共有してやってもいいだろう。


 自分の本来の姿よりも小さくなりつつ、シルフィは頬ずりを再開する。

 そんな彼女を見ていた子供は……。


「……ふっ」

「こ、この子、もしかして……! お、恐ろしい子ですわ……」


 誰にも見えないように、カモを掌の上で転がしてやった感じで笑う子供。

 小さいからこそ、ナイアドだけが見ることができ、彼女はただ戦慄していた。


「…………」

「すっごい頼りないですわ、あなた」


 ずっと黙りっぱなしだったラモンを、ジト目で睨むナイアドであった。




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