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猫の社交場

ママ

作者: タチアオイ

 いつもの猫シリーズです。

 単体でも読んでいただけると思いますが、時系列で言うとタンポポ→ピン→ストライプ→ママとなります。

 連載に書きなおしたほうが良いかと悩むこの頃です…

 朝っぱらから上のバカ息子が「稼業を継ぐ」と言い出した。


 私は呆気にとられてぽろりと一言こぼす。

「別に稼業でも世襲制でもないよ」

 いや問題はそこじゃない。でも思ってなかったことを唐突に言われて他に言葉が出なかった。


「だけど俺が継いだら一番きれいにおさまるだろ。そりゃちょっとは揉めるかもしれないが、母さんは楽できるじゃないか」

「でもあんた…」


 まさかの発言に言葉が続かない。そりゃ息子が継いでくれるというのなら、私も肩の荷がおりて楽になる。引き継ぎも他の者にするよりは簡単だろう。言い分は最もなのだが…。


 この辺り一帯の世話をしていた夫が事件に巻き込まれて亡くなってから、そのまま私があとを継いでいた。

 というよりも、呑気な夫は鷹揚に構えているばかりで細々とした処まで気が利かない。大きな揉め事はきちんと夫が出て収めてくれたが、女子供の些細な困り事は、相談されてもふんふんと大きな身体を丸めて聞いているばかりで先に進まないのだ。

 見かねた私が口出しをし、段々とサポートするようになるのは必然で、夫が居なくなってからは自然と皆が私をボス扱いするようになっていた。


 幸いなことにそこそこ大きくなっていた二人の息子や夫につき回っていた男衆が手伝ってくれて何とか縄張りの維持ができている。

 私よりも強い奴はごろごろ居るが、力だけで決まる訳でも無いらしく、とりあえず皆納得してくれて何とかやっている状態だった。


 大柄な旦那にすっかり似てきたバカ息子の顔を眺める。綺麗なストライプ模様のがっちりとした身体に精悍な顔立ちをしていて、厳つい割には可愛い目付きをしてると思うのは身内贔屓だろうか。

 いつの間にかママから母さんと呼び方が変わり、夜、外へ出るようになって最近では女の尻ばかり追いかけていたのだが一体どうしたのだろう。


 私は大きく息を吐いて気を取りなおした。


「動機は?」

 聞いてみたが、息子は突如視線を彷徨わせ始めて、あーとかうーとかもごもごと口籠もっているばかりで要領を得ない。


「手伝ってくれてるのは感謝してるけど、あんたに対する苦情も多い。特に女性関係でね。あんたの行動を見るに信用ならない。きちんと私を納得させるだけの動機と行動をもっておいで」

 とりあえず言っておいた。


「俺は本気だから」

 と、なぜか赤くなった顔をこちらに向けて言い募るバカを追い払って外に出た。


 最近すっかり春めいてきて渡る風が気持ち良い。庭の花をぼんやりと眺めていた下の息子を誘って散歩に出ることにした。


「兄さんが稼業を継ぐって言い出したけど、あんた何か知ってる?」

 歩きながら下の息子に聞いてみると、うんざりとした声を上げた。

「仕事のことは何も言ってなかったけど、明け方帰って来るなり女神様女神様って煩いんだよ。寝てたのに叩き起こされて絡まれて、こっちはいい迷惑だよ」

 そう言って成長途中で間延びした身体を目一杯伸ばし、眠そうに欠伸をしていた。


 生まれたばかりの時は白っぽい体毛をタンポポの綿毛のようにふわふわさせていたから名前はタンポポ。大きくなって模様が濃くなって、タンポポのように白くはなくなった。もう可愛いという表現は似合わないだろうけど優しい子だ。


 上の息子は生まれた時から綺麗な縞模様だったからストライプ。安直な名付けだか、私なんて幼い頃、雨の日に側溝から助け出されたからレインと呼ばれているのだし、そんなもんなのだろう。他の子供達はいつの間にか居なくなったりパートナーを見つけて独立したりと、まぁ色々だ。


 うららかな日差しのなか歩きながらタンポポに尋ねた。

「女神様?」

「綺麗な女の子に会ったみたいだね」

「どこの子?」

「さあ?名前も教えて貰えなかったって嘆いてたよ」

 タンポポはくくっと笑って教えてくれた。


 ふうんと相槌を打っていて閃いた。

「何、結局女絡みなんだ」

 私は思わず吹き出してしまった。


 どうやらバカ息子は自分がボスになったら手下を使ってその女神様とやらを探し出すつもりなのだろう。動機が女の子というのがらしいというか何というか。


 ストライプの女性問題で方々から進言を受けていたものの、修羅場を演じたことは無いので注意するに留めていた。甘いとは自覚していたが、バカ息子と言いつつどこか信じてる部分が私の中にあるのだろう。


 いくら子供達が大きくなっても、私の中にはふわふわと柔らかで小さかった幼子の姿がいつまでも残っている。

 だから皆に認められる立派な大人になって欲しいし、うちの子達ならきっとそうなってくれると期待してしまう。

 とはいえ上が無能だと周囲の者達は悲惨だ。息子が上に立ちたいというのなら、親バカは引っ込めて、しっかりじっくり見極めねばならない。

 

 女で男を落とすことがあるなら、男を上げることもあるかもしれないが。

 さて。

 この女神様とやらが幸運の女神となれるかはストライプ次第だろう。


 きょとんとして私を見るタンポポに笑いながら説明すると、

「なるほど。兄さんってやっぱりバカだねー」

 と言って、タンポポもけらけら笑ったのだった。

 ママにとっては、我が子はいつまでも可愛いものなのです。親バカっぷりにお付き合いいただきありがとうございました。

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