第4話
その日は一日彼からはメールが来なかった。
次の日の朝メールが来て昨夜の状態がわかった。
彼は幻覚みたいな症状に苦しめられていたらしい。
身体のだるさはまだあるようだけど、背中の痛みは少なくなったそうだ。
「でもね、髪の毛は惨めなくらいに抜け落ちちゃってね。ここから出れたら坊主にしてもらいたいよ」
「坊主頭、私好きよ」
「ありがとう。それにしてもほんとに抗がん剤って劇薬なんだね。この病気って何かを代償にしないと退治することもできないんだな。いまいましいよ、ほんとに」
「大丈夫? もうメールはやめて寝たほうがいいんじゃない?」
「嫌だ。まだ紗耶と話してたい。あのね、一つお願いがあるんだ」
「何?」
「紗耶の画像送って」
「え?」
「現実では触れ合えない僕たちだけど、僕は君の画像を見ることで君とひとつになっていると思える気がするんだ」
「衛さん」
「僕は今とても幸せだ。君が僕をずっと忘れないよって言ってくれて。ずっと二人で永遠を一緒に歩いてくれるって」
私は会社に向かう車の中でラジオから流れるその歌を聴いたのだ。
最近とてもよく売れている歌手の歌で、その歌詞にその言葉は書かれていた。
これからずっと二人で永遠を歩いていこうと。
このたった一つの想いは変わらない、永遠にと。
この辛い思いもいつか笑える思い出にしようと。
誓い合った約束を忘れず、少しづつ願いを叶えていこうと。
忘れずに進めば想いは必ず叶うと。
歌っている歌手の声が彼の声に少し似ていたということもあり、彼に歌ってもらっている気持ちになった。
私は泣きながら運転していた。
会社についてからもしばらく仕事に取りかかれなくてちょっと困ったけれど。
「紗耶、ありがとう。僕は、ずっと君を好きだし、これからも変わらないから」
「私も。私もずっとあなたを愛するわ」
「ずっと見ててね。僕はこの病気と闘うよ。慰めの言葉はいらないから、紗耶は僕を見てて。ねえ、病気が治ったら手を繋いで歩きたいって言ったよね。どこか知らない土地で、海が見える場所がいいな。でもね、一番にすることは別のこと」
「なあに?」
「君を抱くこと」
「衛さん」
「罪悪感なんか忘れてしまうほど君を激しく愛してあげるよ。そのためにも僕は病気に打ち勝たなくちゃね」
私は彼の言葉に目を閉じた。
そうなればどんなに素晴らしいか。
一度だけ彼に抱かれたことがあったけれど、長い間こんな関係でいたのにたった一度だけだったんだ私たちって。
最初は彼は私の身体だけが目当てだったのかと思ったけれど、そうじゃなかった。
だから、こんなにも彼に惹かれ、そして離れられなくなった。
「紗耶」
「なあに?」
「僕は、死ぬまで君を愛する事を誓うよ」