プロローグ
「僕はね、本当に幸せ者なんだなあって思ったんだ」
ゲクトは静かに話し出した。
デビューしてから十年。
彼は全力疾走でここまでやってきた。
芸能活動十周年を迎えたある日、彼は自分がずっとパーソナリティをつとめてきたラヂヲ番組の冒頭で感動を露にして語った。
「この前、ある人からメールが来たんだ。十年前、僕が初めて出したラブソングコレクションの中の一曲である『たったひとつの愛』に、私たちは助けられました、救われましたっていう内容だったんだ」
彼の声は少し震えていた。
「長いメールだったよ。でもそんなこと感じさせないほど僕は感動した。僕の歌で誰かが頑張ってくれたんだ、しかも命に関わることで。それを知った時の僕の気持ち、みんなにわかるかな?」
彼は溜息をついた。
「メールの相手には了解を得てるよ。だからみんなにも聞いて欲しい。僕がどんなに喜んでるか。そして、これからも僕はファンの人たちの救いとなるように頑張っていこうと決心した。それをここでまた誓うよ。僕は本当に幸せ者だ。こんな……」
言葉に詰まるゲクトだったが、振り絞って言葉を続けた。
「こんな素敵なLove Letterをもらえるなんてね。僕は本当に幸せ者だよ」