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オスッ、俺邪竜!  作者: シール
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目覚めたばっかなのに忙しい。


 突然封印が解けて目が覚めてしまった俺。

 封じられ続けることを受け入れていた自分としてはこの状況を受け入れられず、戸惑いを隠せない。

 俺自身はまだ檻の中だし、人間アルガの意識がそのままなので暴れることもなく別段危険があるわけではない、ないんだが…。

 どうすっかな、この状況。

 とりあえず頭を整理してみよう。

 時間の経過具合はわからないが、突如謎の衝撃が走ったことで目覚めて俺は動けるようになってしまった。

 光の檻は健在だが、石化は完全に消えたようで頭のてっぺんから尻尾の先までしっかり動いた。

 ちょっと心配になって檻に触ってみると、最初のように火花が散って弾き返された。うん、弱ってるわけではないんだな。

 籠の鳥ならぬ籠の邪竜………くだらないこと言ってないで真面目に考えろ俺!

 だがまぁ、目覚めたものはしょうがないんだよな。しかも俺悪くないし。

 なんの偶然かは知らんが、目が覚めちゃったのはしょうがない。起きてよう。

 猫が丸まる要領で丸くなって休む体勢になる。

 おい邪竜だろ、暴れないのかよ!とか言うなかれ。

 もともと俺は面倒くさがりで、何もしなくていいという言葉には喜んで頷く性格をしているのだ。そんなやつに暴れるなんて面倒くさいこと望まないでくれ。

 せっかく寝ているだけでいいという仕事(?)なのだし、わざわざ檻を壊して外に行く理由がない。

 よし、もういっちょ寝るか。起きててもやることないし、二度寝は得意だ。俺は目を閉じる。

 ………………しかし不思議だな、なんで石化が解けたんだろうか。

 檻は未だしっかりと機能を保ってるし、さっき見たところ檻の周りは壁で、俺がいるのは建物の中という感じだった。

 きっと俺が眠ってから周りにバリケードか何か造ったんだろうが、なら余計に誰も出入りなんてしないはずだろうし、できないよな。

 そもそもここは禁忌の森だぞ、限られた者しか入ることを許されない場所だ。よっぽどのやつ以外誰も入ってこようとは思わないだろ。

 つまり人の関与の可能性は低いわけで、となると自然と解けたことになる、のか?

 それだけ時間が経過して、効力が切れた?

 とすると今は当時から何百年と経っていることになるな、仲間たちもぽっくり逝ってるか。いやあ、俺だけ長生きして悪いなぁみんな。

 ……じゃなくて!

 うーん、これどうなんだろうなあ。俺が起きたのはあいつらの想定内なのか外なのか………。

 べつに暴れてやろうってわけじゃないけど、自分の力が周りにとって害になることはわかってるし、皆の呪いをもらった時に元の邪竜より大きい力を持っちゃったからなあ。下手に何か行動するとここから出るはめになりそうで怖いな。やっぱり寝てるに越したことないよなあ。

 はぁ、なんだって起きちゃったんだろ俺。

 ブッファー、とでかいため息がでて、周りの埃を舞い上げてしまった。煙い。

 ああ、そうだ、邪竜になったら図体デカいせいでいろんな動作が大げさになって面倒になったんだった。忘れてた。

 吸った空気に埃が混ざったか鼻がムズムズしてきた、くしゃみでそう。


『は…、は……ばっくしょい!!!』


 おおう、思ったより盛大にでた。何百年ぶりのくしゃみ、おっさんくさいな。

 狭い建物内の大音量に俺の声が反響してビリビリ振動が返ってくる。誰かいたらびっくりして気絶してたかもな。

 すごいな邪竜って。くしゃみでこれならなにしても相手に攻撃扱いになりそうだ。

 自分の身体にそんなしょうもない感想を浮かべる。正直どうでもいいからすぐ興味は失せた。それより誰かハンカチ持ってない? あ、一人だった。うう、ハンカチ………。

 しょうがないから手で拭って事なきを得る。いい歳(?)して鼻水垂らしてる邪竜とか恰好つかないしな。

 ひと心地ついたところで、どこからかドサッという何かの落下音が聞こえた。

 くしゃみのせいで荷物でも崩れたか?

 いや、そもそもここに荷物なんてものは無い。あるのはせいぜい周囲を照らしている松明くらい。

 …………周囲を照らしてる?

 見回して、音以上に気になる違和感を見つけた。

 なんで松明が燃えてるんだ?

 ここは禁忌の森の中で、人の出入りなんてあるわけなくて――――ないよな?――――建物の中だから施錠とかだってされてるはずだ。

 なのに、なぜ松明が周囲をてらしていて、俺以外の場所から物音が生まれるんだ?

 考えられる答えは………誰かが、いる!

 まさかと思いつつ、俺はさっきより入念に周りを観察した。

 檻の格子が邪魔ではあるけど壁のほうまでちゃんと見えるから、少しずつ首を動かして音の原因を探した。

 そして、見つけた。

 壁近くに等間隔に並んだ柱のひとつ、その下に。

 小さな人間が倒れていた。

 気絶してるのかまったく動く気配がない、そして大人かと思いきや子供のようだった。

 なんで子供がここにいるんだよ! 親どんな教育してやがる!?

 どうやって入ってきたのか知らんが、ひょっとして今まで隠れてたのかな。

 あのくらいの子供なら秘密基地とか言って人気のない所に来るくらいやるだろうからなあ、大人に見つからないようにしてたのかもな。

 大人の前に俺にみつかっちゃったなあ、ちびっ子。

 でもなんでそれで気絶して…………あ、俺のくしゃみ!?

 さっきので気を失ったのか、ひょっとしなくても。そうだよな、他の原因なんか思いつかないし!

 うわー、やっちまった! 悪いなちびっ子、ほんとごめん。伝わらないだろうけどマジで悪かった。

 まさかマジでくしゃみで気絶させられるとは。これからは気を付けよう。

 ええと、それで……どうしようかな、あの子供。

 まさか俺が原因なのにあのままにはできないし、でもここから出れないし。

 うう~ん、子供が目覚めるまで待つしかないか。







「ん…………」


 しばらく待ってると子供から声があがった。

 意識が浮上してきたらしい、そのまま様子を見続ける。


「う……」


 お、ちょっとづつ動き始めたな。よしよし、意識を失っただけで他は何ともなさそうだ、よかったよかった。

 親の知らない場所で子供が死んでしまったなんて嫌に決まってるからな、無事で何よりだ。


「あれ、……僕、さっき、なにが…………」


 突然気を失ったせいで状況をわかってないらしい、よたよた起き上がりながら周りを見回している。

 まあ、くしゃみと知らなければただの大音量の音だもんな。周りを見てなかったとしたら音の爆弾くらったのと同じだ。ほんと申し訳ない。

 不思議そうにしている子供はぼうっとした様子から、徐々に沈んだ面持ちになってため息を吐き出した。

 立ち上がったから帰るのかと思いきや、柱にもたれてだるそうに天井を見つめた後、また座って膝に顔を埋めた。

 おい、出ていかねえのかよ。今さっき怖い目に遭っただろ、帰れよ。

 たぶんこっちの変化に気づいてないからだろう、私室で一人閉じこもってますみたいな雰囲気漂わせているあの子供。

 ぱっと見10代前半といったところか、全体的に細いな。

 見た目とあの雰囲気からして、周りに溶け込めてないからここに逃げてるのかもな。俺が子供のころもいたよああいうの。いつの時代も子供のいじめは絶えないものだ。

 でもなぁ、落ち込むなら別の場所にしてほしかったなあ。

 俺起きちゃったし、けっこう危ないと思うし、沈んだ子供の様子見せられるの辛いんだよ。このなにもしてやれない状態察してよ。


「……っ…………グス…………っく……」


 あああ、とうとう泣き出した。もうどうしたらいいんだよ。

 子供の泣くところなんか見たくないよ、無邪気に遊んで笑ってりゃいいのに。

 ああもう、放っておけない。

 意を決して俺は話しかけることにした。


『……なんで泣いてる』


「え………!?」


『なんで泣いてるんだ?』


 子供はびっくりした様子で顔を上げて、周りをみている。誰もいないはずなのに話かけられたらそうなるよな。

 やがて子供の視線はゆっくりと俺に向き、信じられないという顔になっていく。


『オス!』


 俺は尻尾を上げて振ってみせる。


「う………うわあああああああ!!??」


 一瞬の硬直の後、子供は悲鳴をあげて壁際まで遠ざかっていった。

 どうせなら出入り口まで行って逃げればいいのにとか思いながらその様子を眺める。

 子供はひいひい言いながら勝手に騒いで泣いていた。

 う~ん、もっと泣かせてしまったな。泣き虫だなこいつ。

 てか、俺を見て泣くってことは邪竜のことは知っててここに入ってたんだよな、なら入ってくんなよ。

 まあ、ずっと石だったやつがいきなり動いたらビビるか。しかも話しかけたし。

 混乱してしまったのかずっとびいびい泣いてる子供が泣き止むまで俺は待つことにした。多少落ち着いてもらわないと会話もできないからな。

 そうして数十分程度経過して、ようやく子供は泣き止んだ。

 いつまでもなにもしない俺を不思議に思ったのか、だんだんにじり寄ってきた。子供らしく好奇心に負けたっぽい。


「う、動いてる、の?」


『おう、なんなら会話できるぞ』


 何でもないふうに返事してやるとまたビクッとなった。


『なんか知らんが起きちまった。そしたら子供が泣いてるから気になって話しかけた』


「あ、ご、ごめんなさい…………」


『いやいいけど。泣き止んだし。だからもう帰れ、危ないからもうここには来るなよ、俺これでも邪竜でおっかないんだから』


 なんか昔こんな台詞聞いたな、夜に墓場に肝試し行った時の墓守のおっちゃんが浮かぶ。

 帰るように促すと、子供はぽかんとした顔になった。

 なんだ、なんか変なこと言ったか俺? 普通のこと言っただけだよな。


「え……あの…………」


『気を付けて帰れよ、じゃあな』


 これで帰ってくれるだろう。

 俺は背を向けるように体勢を変えて目を閉じた。

 しばらくすると足音がして、パタン、と扉の閉まる音がした。ちゃんと帰ったようだ。よしよし、それでいい。

 これで一安心、あとは黙って寝てればいいだろ。

 ほんじゃ寝ますかね。 グゥ………。


 

 しばらく寝て、自然と目が覚めた。

 景色はさっきと変わりない。うん、変わりないんだよ。松明燃えてるからまた長い眠りについたとかなさそうだ、ガックリ。


『はあ………どうしたもんかな』


「あ、起きた?」


『え……?』


 独り言に入ってきた声に、まさかという気持ちが湧く。

 目を向けた方に、あの泣き虫がいた。

 しかも今は恐る恐るだけど期待を込めた眼差しを俺に向けて。


『…なんでいるんだよ…………………』


 俺は疲れた声音で呟いたのだった。

 まだ居た、子供。

 なぜ逃げるなり騒ぐなりしないんだこいつ? あ、さっき騒いではいたか。

 いや、でもならなんで一度外出て戻ってきたんだよ、そのまま逃げろよ。

 子供の思考がわからん………。

 聞きたいことが盛りだくさんだというのに、この子供の存在が主張され過ぎてて思考がまとまらない。まじでこいつなんなの。

 俺が悶々と悩んでいるのに、その張本人はどういう肝してんだか檻を挟んだ向こうで果物?をかじって食事を始めやがった。さっきまで気絶して泣いてたくせにっ。

 こいつの意図がさっぱりわからん。お前なんなの?


「へ? 僕?」


 おっと、口に出ていたらしい。子供がキョトンとこっちをむいて返してきた。

 食事するくらい元気なら会話も平気かそりゃ、なら話してみることにしよう。


『そーだよ、さっき逃げろって言ったのになんで戻ってきてんだよ。外行ったくせに』


「あれは……食べ物取りに………」


『はあ?』


 食べ物取りに行っただけで逃げる気がなかっただと?

 いやいやいやいや、おかしいだろそれ。ここ食事にふさわしい場所じゃないからな!?なんで好き好んでこんなところにいようとするんだ。食堂行けよ、あるか知らんけど。


『親が心配してるんじゃないのか? 時間はわからんが帰ったらどうだ』


 建物の中で、松明がないと明るくならないような場所だから外の時間がわからない。人が動く朝昼ならいいが、夜だったら子供が一人でいるには危ない。親だって見つからなかったら不安になるだろうに。

 そう思って言ったのに、子供は動きを止めて俯いた。

 やっぱり寂しくなったか?


「………心配、されてないよ」


 か細く発された言葉は俺の想像とは正反対の答えをだした。

 心配されてないって……それに沈んだ雰囲気………。そこから察するに、あまり嬉しい状況じゃなさそうなのは見当がついた。


『親に好かれてないのか?』


 ストレートに尋ねれば、こくんと頷いた。まじか。

 だからってここ来られてもなあ。


『こんなとこ逃げ場所にしないでくれよ』


「っ、な、なんで逃げてきたって………」


 え、そりゃわかるだろ。そんな落ち込んだ雰囲気でうずくまってる様子見れば。


『お前の態度で丸わかりだ。てかよく(邪竜)がいる場所を逃げ場に選んだもんだ、逆にすげえよ』


「だ、だって、人が来ないし。相手も、怖がるかと………」


 相手? 親のことかな。甘い考えしてんなあ。


『時間がかかっても来るんじゃないか、探してるなら』


 邪竜が封印されてるところに無闇に来る奴はそりゃいないだろうな。普通は。でもただの石造だと思ってたらこの子みたいに来るんじゃね?

 けっこう考えてここにいたらしいが、やはり子供の浅知恵だな。


「き、きちゃうの!? どうしよう………」


『いや、謝るなりして帰れよ』


 お前と親のどっちが悪いのか知らんが、ちゃんと話合えって。怯えている子供を見る限りなんか怒られるようなことしたっぽいが、親だって謝ればちゃんと許すと思うぞ。

 というようなことを説明してやったのに、子供はまったく反応を返さない。

 というか………かなり青ざめている。

 怒られるのを怖がってるとか、そういう雰囲気じゃないな。子供だってのに死が迫っているような緊迫感さえ漂わせていた。

 え、そんな怖い親なの?邪竜より?


「帰ったら………殺される………」


『はあ?』


 どういう親子喧嘩だよ!

 ここまで怯えるような怒り方するのか親!?

 それとも虐待的なやつか?

 王侯貴族じゃあるまいし、子供が殺されそうになる状況とかさっぱり見当つかないんだが!?

 だが子供の表情はその言葉を信じさせるくらいに青ざめている。本当なのかも? いやいや……う~ん。

 どっちにしてもこいつにとってはいいことなさそうだな。

 てかなんで復活して戸惑ってる俺がコイツの親子関係を心配しなきゃいけないんだよ!

 なんだかなぁと思いつつ、説得して帰らせることにする。


『あのなあ、お前……』


 バンッ。

 諭そうとした俺の言葉をかき消して、いきなり出入口のドアが蹴破られナイフを片手にした中年程度の男が入ってきた。

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