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第百九話 介護用品

作者: 山中幸盛

 山中幸盛の九十二歳の母親が、平成から令和にかけて入退院を三度繰り返した。

 一度目の入院は三月十一日からの十九日間で、常用している血圧の薬等をかかりつけの医院にもらいに行くと、貧血がひどいから総合病院で診てもらいなさいと紹介状を書いてくれた。その足で出向いたら長時間待たされたあげくが即入院で、その後、血液内科から膠原病内科に移って下された病名は全身性エリテマトーデスだった。

 二度目の入院は四月三日からの三十八日間で、その日の朝、姿を見せないので見に行ったら、夜中に体が動かず起きられなくてお漏らししたと言うので救急車を呼んでそのまま入院した。うっ血性心不全とのことだった。

 この二度の退院の際は、家のベッドで寝てもなんとか自力で体を起こし、家の中のトイレや食卓前の椅子まではなんとか伝え歩きできる状態だった。だから病院のソーシャルワーカーが蟹江町の包括支援センターに連絡してくれ、老人デイサービスセンターや居宅介護支援事務所の係員とも面識をもち、介護器具メーカーが訪問してきて家の玄関と浴室内の手すりを取り付けたい箇所に印の紙テープを貼った。

 ところが、三度目の入院は五月二十日からの四十八日間で、その日の朝、起きて来ないので見に行ったら苦しそうに喘いでいたので救急車を呼んでそのまま入院した。肺に水が溜まり、肝臓と腎臓も極度に弱っているとのことだった。ちなみに六月十三日時点でのγ-GTPの値は317だった(基準値は10―47)。

 幸盛は病室で母に言った。

「今度退院するときは、家は無理だな」

「そうだなー」

 と当人もようやく観念したので施設を探すことにする。その旨を病院側に告げると、九十二歳の老人がまだ青息吐息の状態なのに退院できることを前提に、ソーシャルワーカーがテキパキと事を進めていく。むろん、家に手すりを設置する工事の予定はキャンセルした。


 幸盛は若い頃から「老人ホームは金がかかる」との固定観念があったのだが、ソーシャルワーカーに聞いたり自分で調べたりするうちに、介護保険制度が始まったおかげで様々な施設が雨後の筍のように乱立し、意外に低額で入れる施設があることが分かった。母は遺族年金を結構もらっているので、月々の年金で足りる施設がありそうなのだ。

 その結果、家の近所に二年ほど前にできたトイレ付き個室が五十七部屋ある『サービス付き高齢者向け住宅』に決めた。家賃は月に六万円で食費が五万円。管理費が一万五千円でコンシェルジュサービス費が二万五千円だから基本料金は十五万円だが、他にオプションで洗濯代四千円、寝具リース費二千五百円、ベッドレンタル費二千五百円、個室の電気代が最低限必要となる。(むろん、これだけで済むはずもない)

 母は要介護3と認定され、紙オムツをしていて、自力でベッドから起き上がれなくなったし、立てなくなった。だから服を着替えたり、食堂に行くために車椅子に移る際も、人の手を借りねばならなくなった。

 そのための常勤スタッフとして、介護職員が四名、看護師が一名、コンシェルジュが二名いるから、その中の誰かが服を着替えさせ、オムツを交換し、週に二回入浴させ、使用済みのオムツやゴミ箱のゴミを片付けてくれることになる。

 日常生活用品と介護用品は幸盛がホームセンターやドラッグストアに行って買い揃えた。全てを施設に任せることもできたのだが、請求される『実費』が割高になるだろうし、何よりも、全部を施設に任せてしまったら、母の顔を見に行く回数が減ること必至だからだ。

 顔を見に行く度に、床用クイックルワイパーで部屋の床をなでていくとホコリや抜け毛が結構付着する。洗面台が汚れていたらスポンジに洗剤を含ませてこする。トイレの便器は子や孫が使うだけで当人は使用しないから時々やればよい。

 それにつけても悩ましいのは介護用品だ。男の幸盛とは勝手が違うし、紙オムツや尿漏れパッドやトレーニングパンツなどは、病院にいた時に使用していたものをそっくり持ち込んだのだが、それらと使い捨ての手袋が切れかけてきたので至急補充して欲しい、と、施設から電話が入った。オムツ交換してくれるスタッフによっても好みが違うだろうになあ、とぼやきながらも指示に従うしかない。

 幸盛はさっそく施設に出向き、クローゼットに並べてある介護用品の種類やメーカーやサイズをメモして近所のドラッグストアまで買いに行った。しかし、何とまあ種類が多いこと。同じものが見当たらないので、それに近いサイズや吸収能力が同程度のものを買い求めるしかない。①背漏れ・横漏れ防ぐテープ式の尿とりパッド、昼用と夜用。②下着爽快・超うす型パンツ、などなどを、適当に多めに買ってクローゼットに運び込んだのだが、翌日、施設から電話があった。

「サイズが違うので、見本を用意しておきますので見に来て下さい。生理用品が紛れ込んでいましたよ」

 幸盛は頭を抱え込んだ。確かドラッグストアのレジは若い女の子だったよなあ、と冷や汗がだらり。さてさて、どなたに進呈致そうか。



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