読み切りショートショート 「あるグルメレポーターとバーガー店」
東京都を一人ぶらりと男は今日も腹を空かせている。
彼は、今日も美味い店を求めてさすらうグルメライターだ。
「さて、今日の取材は……」
彼の目に留まったのは、赤レンガを基調としたバーガーショップだった。
「よし、今日はここにするか!」
彼は勢いよく駆け出し、その扉を開ける。
「いらっしゃいませ!」
その中では、開拓時代を思わせる雰囲気を醸し出し、気さくな店員たちが温かく出迎えた。
「取材で来たんだ。 何かおすすめはあるかい?」
彼はカウンター席に座り、目の前のバーテンダーに訊ねた。
「おすすめは、ノンアルコール系で言えばハワイアン・ココナッツミルクティーと、バーガーはワイルドジャンキー・開拓時代風です」
バーテンダーが朗らかな笑顔で答える。
「じゃぁ、その2つをお願いしよう」
彼はおすすめの2つを注文した。
「かしこまりました! オーダー入ります!!」
バーテンダーが厨房に一声入れると、自分はカクテルの制作に入った。
希釈用のココナッツミルクに薫り高いブラックティーをシェイカーに入れてシェイクして混ぜる。
そのパフォーマンスを彼は撮影する。
「やはり、取材して何年ですか?」
バーテンダーがカクテルを仕上げて彼に渡しながら訪ねた。
そのカクテルはブラックティーの香りがほのかに漂い、ハイビスカスの花が乗った華やかな一杯だった。
「この道12年はやってるよ。 何件もめぐっているからね」
彼はそう言いながらストローで一口飲む。
ココナッツの甘みとブラックティーのすっきりした苦みが実に爽やかだった。
すぐさまメモを取る。
こうでもしなければ、彼のポリシーである『美味いものは飾らない言葉ですぐに書け』という言葉に反してしまうからだ。
「このカクテル、ノンアルコール系とは言え、味がしっかりしてるな」
「ありがとうございます! ハワイ産ココナッツミルクと自家製ブラックティーを合わせてますから」
バーテンダーは照れ臭く笑った。
そこへ、
「お待たせしました。 『ワイルドジャンキー・開拓時代風』です」
ギャルソンさんが頼んだバーガーを持ってきた。
お皿に乗っているのは、いかにもステーキかと見間違えるほどのビーフパティが挟まれた豪快なバーガーだった。
添えてあるフレンチフライとピクルスは、口直しにもってこいだ。
「これは、肩ロースを手切りしたのか?」
彼は気付いた。
「流石です。 このバーガーに使うパティだけ肩ロースを手切りし、つなぎを一切使わないで作るから、ステーキを挟んだバーガーとか評判もいいです」
ギャルソンさんがその質問に答えた。
「では、いただきます」
彼は、一口バーガーを頬張る。
肉の噛みごたえと、溢れる肉汁が口の中に広がる。
「これは、なかなか肉の味がしっかりしている。 ソースがうるさすぎず、肉の味を引き立たせている」
彼は正確にレポートする。
流石はこの道12年と言ったところか、舌が肥えているのが伺える。
「肉の味を生かすため、肉事態の味付けはシンプルに、ソースはその味を引き立たせるために特製オニオンソースで引き立たせています」
バーテンダーがそのレポートに答える。
「それに、フレンチフライとピクルスが口直しに丁度いい味付けと浸かり具合だな」
彼は、ピクルスをポリポリ食べながら壁を見渡す。
そこにはサインやら落書きやらがびっしり書かれていた。
よほどここのバーガーが愛されているのがよくわかる。
「ご馳走様。 美味しかったよ」
彼は勘定を済ませると、店を後にした。
「ありがとうございました!」
店員に温かく見送られ、彼は思った。
(今度妻と一緒にプライベートで来るか)
それ程美味しかったことが、伺えた。
個性的なバーガーはいいですね。
このお話は、僕が実際に食べに行ったことをモデルにしています。