どうせ、先生と呼ばれているあなたも、この質問には答えられないんでしょ?(威圧)
主人公「小田さゆり」は、かなりひねくれています(笑)
私は人間が嫌いだ。そして人生も嫌いだ。
信じる事も、期待することにも意味はない。
私に親はいない。私を生んで、捨てたのだ。
人間なんて、そんなもんだ。
人生なんて、そんなもんだ。
私を育ててくれた、里親も、私は愛せなかった。
2人は、私に愛を与えてくれた。
”いい子”を演じている、私に。
私は、私として生きたかった。
私は、私として生きれないから、死にたかった。
私の担任の、木村先生。
”先生”なんて呼ばれて、教える立場に立ってる大人。私はそれが嫌いだった。
どうせ、人生において、大事なことなんて教えてくれないんだ。
上手な生き方なんて、分かっちゃいない。
幸せになる方法なんて、分かっちゃいない。
「先生、私、人を好きになれないけど、どうしたらいい?」
私は、”どうせ、先生と呼ばれているあなたも、この質問には答えられないんでしょ”ということを証明するため、意地悪な質問をした。
答えたとしても、「いつか、好きになれる日がくるよ」なんていう、まったく根拠のない、その場しのぎの回答だろう。私はそう思っていた。
案の定、先生は、「ええ、いきなり、そういうことを聞かれてもなあ……。」と困っていた。
「それは、僕には、わからないなあ。」
木村先生は語尾を伸ばしながら言い、頭をポリポリとかいていた。
「答えれないの? それでも先生?」
私は、先生に嫌なことを言う。生徒の質問に答えられない先生を追い詰めようと思った。
大人全員を責めることができない代わりに、木村先生を責める。
木村先生は突然笑った。
「あはは!」
木村先生が苦笑いをしたり、めんどくさそうな顔をすると思っていた私は、無邪気に笑う木村先生の反応にあっけにとられる。
「小田くん。嫌なことを言ってくるねえ。人を困らせるのが趣味かい? 良い趣味してるねえ。小田くんは、自分が嫌いだろう?」
私は、逆に嫌な質問をされたことにむっとする。
「おや、いま、怒ったでしょ。その質問は、小田くんにとって嫌な質問だったのかな? 小田くんは僕に嫌な質問をわざとしてきたようだけど、自分がやられるのは嫌なんだね。」
まるで、お子様だね、と言われているような気がした。私は対抗するように言葉を返す。
「別に嫌じゃない。私は私の事が嫌い。それがどうかした?」
内心怒っていたが、なるべく冷静を装いつつ言った。けれど、隠しきれてはいなかった。
「小田くん。今、内心ものすごく怒ってるでしょ。顔に出てるよ、ほら。」
木村先生が笑うので、余計に怒りがこみあげてくる。私が、木村先生を困らせるはずが、いつのまにか、木村先生が主導権を握っていた。私はそれが気に入らなかった。
「小田くんは、自分のことが嫌いなんだね。じゃあ、他人じゃなくて、自分を好きになればいいじゃないか。それも”人”だろう?」
私をバカにしているのか、と思ったが、木村先生はまじめな顔をしていた。
「それ、私の質問に本気で答えてないよ。誤魔化すつもり? 本気で答えなよ!」
「でも小田くんは、”人”を好きになれないけどどうしたらいいか、を聞いてきたじゃないか。僕はちゃんとその質問の通りに答えた。まさか、小田くんは、自分に都合が悪くなったら、質問内容を変える気かい?」
私は、自分の予想外の回答をし、挑発してくる先生にムカついていた。
「じゃあ、自分で自分を好きになるには、どうしたらいいの?」
私は別の嫌な質問で返す。
「それは、自分のことなんだから、自分でどうにだってできるだろう?」
木村先生はそう答えた。
「自分で自分をコントロールできない人の方が多いでしょ。世の中なんて。タバコやお酒、ギャンブルをやめたくてもやめられない人だっているんだよ。お金を手に入れるためならなんだってする人もいるし。人間なんてそんなもんなの!」
私はもう怒りを隠さず、怒った口調で言う。
「あはは! たしかにねえ、人間は、弱い生き物だねえ。脆くて儚い。自分のことさえ、どうにもできない……かあ。小田くんの言う通りだよ。それなら、僕は小田くんの質問に答えられない。僕の負けだよ。」
私は木村先生の反応に驚いた。今まで、大人に対して嫌な質問をすることは何度かあったけど、適当な答えで誤魔化し、そのくせ威張る人ばかりだった。
けれど、木村先生は違った。私の嫌な質問にも、嫌な顔一つせずに答える。当たり障りのない答えでもない。
彼は”教師としての立場”から私に言うのでなく、”人”として、私の質問に回答している。そんな気がした。
「私の嫌な質問に、適当に答えないんだね。他の大人たちは、自分が良く思われる回答とかばっかりするのに。上っ面なのに。木村先生は、めんどくさいなーとかおもったりしないの? してるでしょ?」
「だって、大事な生徒からの質問だからねえ。僕が、答えられるなら、答える。それが教師だからねえ。でも、間違ったことは教えちゃいけない。当たり前だよね?」
「……木村先生は、変わってるね。私と同じくらい。」
木村先生はまた笑う。
「それ、誉め言葉かい? 嫌味かい? まあ、どっちでもいいよ。僕は誉め言葉として受け取っておくから。」
「今回は、まあ、質問に答えられなくてもいいや。でも、また、嫌な質問しにいくから。どうせまた、答えられないんだろうけど。あはは!」
私は笑いながら、木村先生にイヤミを言う。
「待ってるよ。」
木村先生は私のイヤミをさらっと受け流し、笑顔で返事する。
次の嫌な質問を考えなきゃ。先生が、答えられないような、めんどくさい質問。それを質問した時、なんていうかな?
私は、ウキウキしていた。
この物語を読んでいただき、誠にありがとうございます。
3/20 続編を投稿いたしました。
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(シリーズからもご覧いただけます。)
この物語は別小説「傍観者」に登場する筆者のお気に入り人物「小田さゆり」が、もし普通の高校にいたら、という題材で書いた物語です。(「傍観者」本編とはまったく関係ありません。)