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98話 今の自分。

麦の皮肉が大也と栞菜のどこに響いたのかはわからない。


しかし、2人の視線から心に響いていないことは確実なのだろう。


きっと、大也と栞菜の2人には“心”という概念がない。


どんな行いも言葉も鶴巻の血を受け継ぐ者には響かないし、それらは無意味に等しいのだろう。


不意に見せる大也の紳士的な行動や栞菜の優しさは計算されたものである。


麦にとって、それは胸が熱くなり激しい吐き気を感じるものである。


「失敗作だって?あの頃のままのお前であるならば…そうかも知れないな」


大也は腕を組んで麦の皮肉に口を開いた。


組まれた腕から生える指は忙しなく上下を繰り返し、ブランド物のスーツにシワをつけている。


大也の心持ちは良くなく、苛立っている。


それも最高潮に。


麦が一刻も早く賢次を治すことを望んでおり、それは目先の富が関係している。


いや、思い通りに事が運ばないのが腹立たしいのかも知れない。


全てを力で掌握してきたからこそ、そのプライドに傷がついた気分に陥っているのかも知れない。


そんな大也に比べれば栞菜は実に賢く、計算高い。


「もしも、今も失敗作だと思っているのならばそれは違うわ。あなたは父親を治すことで証明できるのよ。あなたの存在を」


麦の肩に置かれた栞菜の手は冷静ではないが、栞菜は実に冷静に見える。


自身の焦りや怒りをうまくコントロールしている。


これは大也には真似ができない部分であると同時に大也よりも厄介なところである。


戦略的かつ巧妙なプレッシャーが麦に襲い掛かっているのだから。


麦の“暗い過去”に“存在の証明”という甘い餌をぶら下げて麦をコントロールしようとする様がそれを物語っている。


だが、麦にとってそれは何の意味も持たない。


「オレの存在を証明……?」


「そうよ、麦。あなたが父親を治すことで私とお兄様はもちろん、鶴巻に仕える全ての人間があなたを認めるわ。……父親であるこの男も」


栞菜は冷たい視線を麦からベッドで眠る賢次へと向けた。


いくつもの管を繋がれて延命させられている賢次を見ても、栞菜の視線は変わらない。


冷たく透き通り、先にある富を見据えている。


なかなか、感情的にならないからこそ、栞菜は麦にとってやりづらい相手なのだ。


「…今さら……今さら、鶴巻家に認めてもらいたい、と思わない。オレは……」


「修復屋を守れれば良い……かしら?」


この話し合いは始めから無意味で、麦が鶴巻家に力を貸すことは避けられない未来なのだ。


麦はどう足掻(あが)いても、賢次と再開していた。


それは修復屋が鶴巻に奪われることが確実だからである。


どんなに麦が鶴巻を拒絶しようが逃げようが、その大きな力は麦をどこまでも追い、大切なものを奪って行く。


「あなたが父親を治せば、その報酬を私達から受けとれるに加えて、あなたは鶴巻の英雄になれる。そして、あなたの店も守られる。どこに不満が?どこに迷う必要が?……躊躇う時間なんていらないでしょ?」


栞菜の言うことは全て事実であり、正論。


そして、脅迫でもある。


力を持つ者はさらに、大きな力を欲する為に自身の心を沼へとはめて行く。


その行為は時として非人道的な行いをさせる。


どんな酷いことも行える他、それを相手に強要することができる。


「……わかったよ。治すよ」


麦がそう言うと大也と栞菜は静かに笑みを溢し。


その笑みの意味は父親の回復を喜ぶものではないことは麦にはわかっていた。


だから、この力を使うことは嫌であった。


これで“期限”が終わるだろう力。


どちらにしろ、最後になるだろう修復屋としての仕事が鶴巻の為になることに関して麦は心地が良くなかった。


だが、逃げられない現実に妥協するしかないのだ。


自身の居場所を守る為に。


「感謝するぞ、麦。さぁ、頼むよ」


大也は偉そうに口ぶりで麦に視線を嬉しそうに向けた。


安心しているのだろう。


大きな“富”を得ることに対して。


麦は大也を見たが言葉を発することなく、首も動かすこともなく、静かに賢次の胸に手を当てた。


とても薄い胸板、そこから僅かに脈打つ心臓は弱々しい。


心臓が機械に生かされている証拠である。


「やるぞ……」


麦はそう一言、口から洩らすと手を神々しく光らせた。


「おぉ……」


「あら……」


大也も栞菜もその神々しい光に瞳を輝かせた。


どんな宝石よりも光り輝く、麦の手は希望の道を照らしているようで2人には眩しかったのかも知れない。


光が賢次の体を優しく包んで行く度に麦は激しい疲労を感じていたが、それと同時に思い出が蘇った。


それは思い出したと言うのには唐突であり、走馬灯と言うほうが正しいのだろう。


「く…くく……」


苦しく息が詰まる光の中で麦は走馬灯へと身を投じた。


それは麦にとって心温まる思い出ではない。


できることならば、避けたいものだ。


それでも、麦は蛍がそうした様に自身の過去に向き合いたかったのかも知れない…。

次回の更新は4月20日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

鶴巻 栞菜→鶴巻 大也の妹。

鶴巻 賢次→鶴巻グループの社長。

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