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96話 鶴の頭。

鶴巻グループの頭である鶴巻(つるまき) 賢次(けんじ)は歴代最高の野心家である。


2代前、鶴巻 賢次の祖父にあたる人物が鶴巻家を大きく富へと近づけた。


しかし、鶴巻 賢次の活躍は底が知れなかった。


あらゆる、事業に手を掛けて全て成功させてきた。


これは紛れもない事実であり、鶴巻の大きな実績なのだ。


そんな鶴巻一の野心家もベッドの上である。


長年の事業政策に心と体に限界が来ていたのだ。


同時に複数の病気を発現させ、手術を繰り返す日々。


そして、再発を繰り返す。


それが何年も何年も続いて、鶴巻 賢次は1年前に意識をなくした。


俗に言う“植物状態”である。


鶴巻グループの富を屈指しても鶴巻の頭を目覚めさせることはできなかった。


唯一、できたことは命を繋ぎ止めることだけであった。


鶴巻 賢次の体に沢山の管を繋いで延命させることが精一杯なのだ。


「どうだ?治せそうか?」


ベッドで眠る鶴巻 賢次を痛々しい視線を向ける麦に大也は声を掛けた。


大也の期待溢れる視線は麦にプレッシャーを与え、責任を感じさせる。


麦は口を開いた大也を一瞥し、なにも言わずにベッドで眠る鶴巻 賢次に近づいた。


近づけば近づくほど、長年の間、どれだけの無理をしていたかが理解できた。


顔に深く刻まれたシワや(やつ)れた体。


細い腕が命を削って仕事をしていたことを麦に思い出させる。


それは麦にとっては嫌な記憶であり、背を向けたい過去。


「もしかして、治せないのかしら?」


ジッと鶴巻 大地を見つめる麦にゆっくり近づいてきた栞菜はコツコツとヒールを鳴らし、麦の肩に手をおいた。


肩に置かれた手から感じる“野心家の炎“は鶴巻家、特有のものなのだろう。


大也が初めて修復屋へ顔を見せた時も野心家の炎がその瞳の中でメラメラと燃えていた。


この2人ははなから自分達の父親を救おうとは思っていないのだ。


自身の利益を欲しているだけなのだ。


「私達は知ってるのよ。あなたが“修復屋”なる店で働いていることを。そして…あなたには特別な力がある」


「調べたのか?」


「えぇ」


麦は自分の力の使い方を理解している。


この力がなぜ、自分に現れたのかはわからない。


しかし、それでも誰かの笑顔の為に使えるのならば麦はそれを惜しまなかった。


だから、報酬にはこだわらなかった。


今、自分ができることをしたいと思っていたからだ。


だが、それも限界が来ようとしている。


修復屋で力を使う中で麦は自身の“代償”について薄々、気づいていた。


いや、薄々というよりはそれは確信的なものであった。


「あなたはその力で多くのものを治してきた。それは物や怪我、病気……。多岐にわたる。なら、目の前の父も治せるはずよ」


栞菜は麦に追い込みを掛けるように麦の耳元で口を開くが、麦の中では答えはすでに出ていた。


結論から言えば鶴巻 賢次を治すことは可能。


水野 空と同じように植物状態であることは確かだが水野のそれとは別のものである。


しかしながら、これが最後になることは確かである。


失うものはまだ少ないかも知れない。


それでも、今、麦が持っているものがあまりにも少ないのだ。


「なぁ、治せるなら早く、治してくれよ。この後に仕事が控えてるんだよ」


栞菜に加勢するように大也はゆっくり麦に近づくと麦の横に立った。


大也も栞菜も実に穏やかかつ、綺麗な言葉で麦に話し掛けてはいるが焦っていることが麦にはわかっていた。


部屋に入ってから大也と栞菜の口数が増えたこと、額に汗が滲んでいること。


その2点だけで焦っている、と決めつけるのはおかしいのかも知れない。


だが、麦にとってはそれだけで十分だった。


いかに、麦の機嫌をとるか。


麦に対して、大也と栞菜の心にあるのはそれだけであった。


オカルトだけとかスピリチュアルだとか、そういうものはどうでも良いのだ。


不思議な力であっても現代の医療技術を越えたものを麦が持っていることは確かなのだから。


麦の首を横に振らせてはならないのだ。


「どうしたのかしら?さっきから黙って……」


麦は心の中で葛藤を抱えていた。


治すことで大也と栞菜が笑顔になるのは良いことなのだろう。


誰かの力になれることは良いことなのだろう。


だが、麦の中で腑に落ちないのだ。


納得できないものが心に引っ掛かって鶴巻 賢次に手が伸びないのだ。


そして、聞いていない。


「1つ、聞いて良いかな?」


「なんだ?」


麦の声に素早く反応したのは大也であった。


それは大也が焦り、苛立っている証拠なのだろう。


「なんで…父親を治して欲しいんだ?」


それは単純な疑問であり、純粋な質問。


そんな疑問を投げ掛けた麦に大也は口をもとを緩めて、笑みを溢して見せた。


馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりの笑みに麦は目を細めて嫌な思いを顔に出した。


そして、大也は言うのだ。


「お前は“実の父親”を救いたいと思わんのか?」


麦は視線を落とした…。

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