95話 集う鶴達。
一切の揺れも感じさせないエレベーターは麦にとって、嫌味でしかなかった。
最新の技術を屈して作られたことがわかる他、エレベーターの設置料金が修復屋よりも値段が張ると感じていたからだ。
揺れないエレベーターは通常ならば、心地が良いのだろう。
麦は鶴巻グループの嫌味とも捉えられるエレベーターに良い気持ちはしなかった。
ぐんぐんとエレベーターは上っていくが麦のモチベーションは上がらない。
エレベーターとは違い下がる一方である。
「はぁー……」
とても気を遣う様な麦のため息は鶴巻 大也には聞こえなかったがエレベーターガールである女性には聞こえていたようであった。
エレベーターガールは麦を一瞥するとそっと目を細めた。
それは麦の気持ちをくみ取った、ということなのか。
それとも、鶴巻を軽蔑する麦に敵意を向けたのか。
どちらにしろ、鶴巻 大也ほど周りを見ているということだけは理解できる。
エレベーターはジー、という音を立てて動きを止めた。
そのジー、という音は蚊の鳴くような音であり耳を澄ませなければわからないだろう。
加えて、エレベーターも停止する際は振動を乗車する者に悟らせなかった。
「到着致しました」
エレベーターガールは開く為のボタンを指で押さえながら、麦と鶴巻 大也に深く頭を下げた。
長い黒髪が少し乱れ、チラリと見えるうなじや胸元は魅力的である。
この場で飲酒行為を行っていれば心が傾くものがあったのかも知れない。
しかしながら、麦も鶴巻 大也も女性の魅力に溺れることはなかった。
2人の心にあるのは“依頼”のことだけである。
鶴巻 大也は大きな利益を心に宿し、麦は鶴巻との決別を胸に宿している。
「さぁ、行くぞ」
鶴巻 大也がそう口にしたのは麦にプレッシャーをかける為である。
麦の足が止まらぬ様に。
麦の気が変わらぬ様に必死なのだ。
これまでのやり取りから麦を金で動かせない、と理解した鶴巻 大也の心には焦りが生じていた。
今まで金で全てを解決してきた鶴巻にとって、麦は思い通りに動かない人形なのだ。
それ故に腹立たしく、扱いづらい。
平たく言えば、少し言葉を間違えれば麦が背を向けそうで鶴巻 大也は怯えているのだ。
「わかってるよ」
鶴巻 大也を安心させる一言を口にした麦は外から目をそらし、エレベーターから出て見せた。
その麦の姿を見た鶴巻 大也は安心したかの様に深いため息を溢すと長い廊下を歩き出した。
廊下には赤い絨毯が敷かれており、白い壁には絵が飾られている。
廊下に並ぶ絵はどれもこれも高級そうであり、どことなく購入者の心理を考えさせられる。
それは圧倒的な孤独であり、力に依存している。
集められている絵は全て暗く、女性や子供の姿が描かれている。
愛を求めたからこそ、それが絵という形に現れているのだろう。
「どうだ?このコレクションは?素晴らしいだろう?世界から集めた有名な絵ばかりだ」
「…オレは絵のことはわからない」
「絵のことはわからない?教えてもらったはずだが」
「そんな覚えはない」
「ふん…。そうか」
自慢気に絵を麦に見せた鶴巻 大也に愛想悪く麦は答えると止まった足を動かし始めた。
廊下を歩く2人の足音が響かないのは廊下に敷かれた赤い絨毯のせいなのだろう。
赤い絨毯はとても柔らかく、歩く時に生じる衝撃を軽減させている。
その為に足への負担は少なく、楽に歩くことができる。
しかし、麦の足はそれに対して喜びを感じてはいなかった。
この長い廊下の先に見える大きな扉。
扉は白く、所々に宝石が散りばめられている。
なんとも趣味が悪く、金持ちの戯れと言わんばかりの扉である。
「さぁ、ここだ。この扉の先にいる」
鶴巻 大也は扉に散りばめられた宝石を自慢するかの様に扉に手を置いた。
その扉は決して、眩しくはなかった。
それ以上に鶴巻 大也の瞳がギラギラと輝いていたからこそ、麦はそう感じたのだ。
鶴巻家の人間は皆、驚異的な野心を持っている。
それは遺伝的と言っても良いかも知れない。
麦がジッと扉を見つめている時、大きな扉は重そうにゆっくりと開いた。
「あ……。お兄様、来て下さったのね」
「あぁ、重要な人物を連れてきた」
扉を開けた女性の瞳は大きく、唇は厚い。
整った顔立ちから放たれる艶やかな髪は妖艶の魅力と言っても良いだろう。
だが、麦はその女性に冷たい視線をおくった。
「あら?久しぶりね。……不機嫌なのかしら?」
「いや、別に」
「なら私が鶴巻 栞菜ってわからないのかしら?」
「わかってるよ。忘れたくても忘れられない」
麦の発言に鶴巻 栞菜は笑みを浮かべると2人を部屋の中へと招き入れた。
部屋は大きく、巨大な窓から外を覗ける。
そして、何より広い部屋の中心に豪華なベッドが設置されていた。
「さぁ、あなたの力で“私達の父”を救ってちょうだい」
ベッドに横になるのは鶴巻グループの頭である…。
次回の更新は4月13日(土)です!
【登場人物】
花形 麦→修復屋ウィートの修復士。
半 重春→修復屋のオーナー。
水野 蛍→??
春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。
月並 零花→病気が完治。
嵐山 轟太→学校の問題児?
嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。
青野 温子→ゴミ屋敷の住人。
青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。
剣持 境矢→聖人?
謎の女?→浄化。
鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。
犬川→手紙の主。
水野 空→??
槍の男→麦の命を狙う者?




