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93話 不器用な鶴。

修復屋へ蛍達がやって来て舞火がお疲れ会を持ち掛けた頃、麦はゆらゆらと駅へと向かっていた。


その足取りはどこか重く、おぼつかない。


麦が駅へ向かう理由は1つであり、それは“鶴巻“である。


鶴巻からの呼び出しが麦を駅へ歩かせているのだ。


携帯電話から響いた鶴巻(つるまき) 大也(だいや)の声は麦の体から力を奪ったかのように麦を無気力にさせた。


本当ならば、この依頼は林檎が丘町に行ったついでに終えるはずであったがそれができなかった。


それは蛍のせいなのであろう。


蛍に鶴巻と会わせたくない、という麦の気持ちが自然と鶴巻から遠ざけた。


しかし、それは言い訳にしかならない。


本当は鶴巻と会いたくなかったのだ。


その言い訳を蛍に擦り付け、麦は逃げたのだ。


その付けが今、回ってきていた。


「う……」


麦は鼻から流れるドロドロとした血に足を止めた。


麦が足を止めた場所は人通りが多く、麦の後ろを歩く人は急に止まる麦に嫌な顔をした。


そんな人をよそに麦はフラフラと道の端に身を寄せた。


「鼻血……」


麦は自身の鼻を押さえて血の温かさを感じると共に体の気だるさに違和感を覚えた。


鶴巻 大也の呼び出しに心が病んだいる訳ではないことを理解したのだ。


これは“期限”なのだろう。


今、麦の心にあるものはなんなのだろうか。


恐怖や焦燥は麦の心にはなく、ただあったのは無限に広がる無心であった。


何かを考えること、何かを思うことすらできなくなっていたのだ。


辺りは白くなり、色が麦の瞳から失われそうになった時、麦の携帯電話がバイブレーションを起こした。


「はっ!……もしもし?」


スイッチを押されたかのように瞳を大きくして、意識を覚醒させた麦はポケットに手を伸ばした。


携帯電話から流れてくる声は鶴巻であった。


「おい、何をしている?約束の時間は過ぎているんだが」


「あぁ……。少し、体調が悪くて……」


「お前の体調はどうでもいい。早く、駅へ来い。早く治さないと“あれ”は間に合わない」


「……わかった」


通話が切れた時、麦は鶴巻の苛立ちを感じていた。


電話の終わり方や口調からそれが容易に理解できる。


その行為に麦は怒りを覚えていたが、麦が怒っていたのは違うところにある。


この間から“あれ”や“もの”と表現する鶴巻に心が障っていた。


しかしながら、麦にそれを指摘する資格はない。


だからこそ、麦は口を閉ざして駅へと歩き出した。


駅へ向かうほど人は増えて歩きづらくなっていく。


今の麦にとって、それは首を絞められているようであり、辛かった。


時折、道を歩く人に肩をぶつけながら麦は駅へと向かった。


肩をぶつけられた人々は麦に嫌な顔をするだけでフラフラと歩く麦に手を伸ばす者はいなかった。


この程度なのだ。


人は仇はしっかりと記憶し、それを執念深く追い続ける。


だが、恩はすぐに忘れてしまうのだ。


恩ほど人の心に残りにくいものはないのだろう。


きっと、道を歩く人の中には麦に助けられた人もいるのだろう。


それでも、麦に手を伸ばさないのはそういうこと。


「あれか……」


四苦八苦しながら駅へ到着した麦は駅に到着したと同時に鶴巻の居場所がわかった。


駅は人が多く、普通ならば鶴巻の居場所を瞬時に理解できないが麦にはわかった。


いや、麦以外にも鶴巻の存在に気づいている者は多いから。


「遅いぞ。早く乗れ」


駅に似つかわしくない黒く光るリムジンから顔を見せた鶴巻は舌打ちをして麦を呼んだ。


麦は嫌な顔をして鶴巻が乗っているリムジンへ近づいた。


「麦さま、ご苦労様です」


リムジンに近づいた麦を手厚く招き入れるようにスーツを来た長身の男がリムジンの扉を開けた。


麦は軽く頭を下げると慣れない様子でリムジンへ乗り込んだ。


リムジンに乗り込んだ麦を見た鶴巻は深いため息を溢すと運転手に声をあげた。


「早く、出せ」


「はい」


鶴巻の手足の様に動く彼らは鶴巻の使用人なのだろう。


これも、“鶴巻”という大企業の力を感じる瞬間であるが、麦をそれに憧れを微塵も感じなかった。


どちらかと言うと鶴巻を軽蔑している。


それは鶴巻の力でねじ伏せる、というやり方が気に食わないからだ。


その為、リムジンが走り出すと麦はすぐに外へ目を向けた。


そんな麦に鶴巻は眉を曲げた。


「おい、そんな不機嫌になるなよ」


「なってないよ」


「で……、治せるんだろうな?」


鶴巻から送られる視線のプレッシャーはとても重く、麦に疲労感を与える。


だが、それでも麦は視線を外へと走らせていた。


「大丈夫…。あと1回は……」


「そうか、なら良かった」


麦の発言は意味深であったが、鶴巻はそれに触れることはなかった。


麦に余裕がないように鶴巻にも余裕がなかったのだ。


追い詰められた2羽の鶴はその羽を必死に羽ばたかせている。


しかし、2羽とも空へは飛び立てない。


それは2羽の鶴が不器用だからだろう…。

次回の更新は4月9日(火)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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