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92話 すれ違い。

蛍と舞火と轟太は真っ直ぐに修復屋へと向かった。


町には蛍達と同じような学生はいない。


皆、額に汗を浮かべて早足に歩いている。


そんな中で町を優雅に歩く3人は感じたこともない優越感を感じていた。


それは今なら学校で皆、勉強をしているのだ、という単純な感情が働いている。


加えて普段、学校にいる時間に町で歩いているのは新鮮で仕方がなかった。


修復屋に到着したらきっと、麦も驚くだろう。


麦の驚いた顔を想像した蛍はクスッと笑って見せた。


「蛍?どうしたの?」


「えっ!?」


心の中で笑みを溢したはずが、表に出ていたと察した蛍は恥ずかしさと驚きで顔を赤くさせ、言葉を濁らせた。


顔を赤くさせる蛍の行動は舞火にはわからず、首を傾げることしかできなかったがそこに麦が絡んでいることは確かなのだろう。


だから、あえて追求することはなかった。


これは舞火なりの気遣いなのだ。


「ううん。なんでもない。早く麦さんの所へ行こう」


「うん」


舞火の大人の対応に感謝をしつつも、体に帯びた熱をなかなか発散できない蛍は顔をしかめて歩いた。


蛍の中で今まで疑惑になっていた感情が確信へと変わろうとしている。


いや、その気持ちは前から確信的であっただろう。


それでも、それに気づかないふりをしていたのは舞火のことを思っていたからである。


複雑に絡み合った糸はほどければスッキリするもので蛍はある決断をここでした。


「おーい!早くしろ!」


数メートル先を歩く轟太は蛍と舞火の足の遅さに苛立ち、大声をあげて手を振っている。


「わかってますよ!」


そんな轟太に怒りを返すように舞火は蛍の手を握って歩き出した。


舞火に引かれる手は実に頼もしく、勇気が湧いてくる。


舞火、という人の素直さが手から伝わってくるように。


蛍がとある決断をするのに大きな覚悟を振り絞ろうとしたが、その準備よりも先に3人は修復屋へと到着した。


修復屋の中から誰の声もしない。


きっと、お客さんが来ていないのだろう。


今ならば気を遣うことなく中へ入れると思った轟太は修復屋の扉を勢いよく開けて見せた。


「こんちは~。アニキはいますか?」


轟太が開けた扉の先のカウンター席にはコーヒーを飲む重春の姿があった。


重春は新聞を片手に難しい顔をしていたが、蛍達を視界に入れると表情を緩めた。


「おぅ、なんじゃ、学校はどうしたんじゃ?」


重春の当然の理由に3人は口を閉ざした。


3人が修復屋へ訪れた時間は早く、制服な為にうまい言い訳を誰も思い付かなかった。


しばらくの沈黙の間、重春の鋭い視線を受け続けた3人は生唾を飲み込んだ。


下手な言い訳でも口を閉ざすよりはマシだ、と思った蛍は口を開ける為に顔をあげた。


「……コムギは仕事に行っとる」


蛍の言い訳の声を消し去るように重春は麦の行き先を伝えるとコーヒーを喉に通した。


その重春の様子は落ち着かないようで、不安そうである。


そして、それは麦に向いているのだろう。


「麦さんは…いつ帰ってきますか?」


「うーん……」


舞火の問い掛けに対して重春は唸り声をあげた。


その声は3人に不安を覚えさせる。


もう、麦は帰ってこないのではないか。


そんな不安が3人の胸の中で渦巻き、“鶴巻”の名前が浮かび上がった。


“鶴巻”を敵に回すことは恐ろしい、といういつかの鏡矢の言葉がゾッとさせる。


3人が不安を募らせる中、重春は口を開いた。


「今日の夜には帰ってくるんじゃないかの」


重春も確信的なことは言えなかったが、蛍達の不安げな顔を見てそう言うしかなかった。


麦から詳しいことを重春も聞いていないのだ。


それでも、今日の夜には帰ってくると言ったのは重春の願望なのかも知れない。


そうであってほしい親心が重春にそう言わせたのかも知れない。


「良かったぜ……」


「ほんと…良かった」


重春の答えは舞火と轟太に安心を与えたが蛍の心だけは晴れなかった。


林檎が丘のこともある。


自身の父のことでなにか責任を感じているのならば、それは違うと麦に今すぐにでも伝えたかったがそれはできない。


蛍はこのもどかしい気持ちをグッと噛み締めた。


蛍のその気持ちは表に現れており、強く拳を握る姿が舞火の瞳に映っていた。


そして、何を思ったのか舞火は明るい声を張り上げた。


「よし!じゃ、今日の夜はここでお疲れ会をしましょう!」


「お疲れ会?」


「うん、蛍もしたいでしょ?」


その会をなぜこのタイミングでするのか。


色々と舞火に対してツッコミを入れたくなる部分はあるが、これは舞火の粋な計らいなのだろう。


明るく、気を遣う彼女だからこそできることなのだろう。


轟太も重春も最初は首を傾げていたが、舞火を見て笑みを溢した。


その中で蛍も当然のように笑みを溢していた。


理由なんてものはいらないのだ。


そこに気持ちがあれば…。

次回の更新は4月7日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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