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90話 揃うつま先。

麦の側でバイブレーションを起こす携帯電話をよそに蜜柑高校ではホームルームが行われていた。


「えーと……今日の連絡事項は……」


蜜柑高校1年1組の教室ではいつものように担任教師は点呼を取ると連絡事項を口にし始めた。


しかし、その連絡を聞いている生徒は誰もいない。


皆、机の下で携帯電話を操作したりあくびなんかをして誰も教師の話しに耳を傾けようとしない。


それに伴ってか担任教師も気だるそうに連絡事項を読み上げている。


その中で蛍もボーッと窓の外へ視線を向けていた。


その視線の先にはグラウンドと町並みが広がっているが、それに対して蛍は意味を感じてはいなかった。


父親と再開してから父親から連絡がない。


あれから、あまり日は経過していないがそれでも連絡がこないことにやきもきしてしまう。


「はぁー……」


蛍は深いため息を溢したがそれに対して反応を見せる者はいない。


それだけ、周りを見ていない生徒が多いのだ。


父親から連絡がこない、ということは未だに意識を取り戻していないと解釈することができる。


その為に自宅に帰った蛍は母親に父親のことを口にできなかった。


それは母親への配慮であり、事故防衛である。


「……ということだから。えーと…これで朝のホームルームを終わる」


頭を掻いてそのヘアースタイルをボサボサにして担任教師は教室から姿を消すと教室からため息が溢れた。


皆、ホームルームを面倒だと感じていた証である。


蛍はそんなため息に飲まれるように再び、ため息を溢そうと顎に手を置いた時、何者かが蛍の背中を叩いた。


「蛍!」


「舞火……」


それはとても懐かしい感触であり、安心する感触であった。


林檎が丘町にいた時間は蛍にとっては長く、苦痛でしかなかった。


それは自身の弱さを知ったからであり、無力さを知ったからだ。


僅か1日の滞在でここまで疲労するなど誰も予想しなかっただろう。


それを察してか今日の舞火は一段と笑みを輝かせていた。


いや、それは蛍の感じ方がいつもと違うからなのかも知れない。


日常において、命を狙われることはない。


命を狙われる、という非日常を味わったからこそ蛍の中で何かが変わったのだろう。


命は圧倒的な危機から逃れると辺りを輝かせる。


砂漠を迷う冒険者がオアシスにたどり着き、喉を潤すようなものである。


「疲れてるの?それに…その怪我はどうしたの?」


蛍にとっての喉を潤す水は舞火の笑顔に間違いない。


その為にこの町へ必死で帰って来た。


本当ならば、全てを舞火に話したい。


だが、蛍は唇を強く噛んだ。


麦もきっと、このことを重春には言わないだろう、ということが予想できたからだ。


身近にいる人に言えばその者も関係者になってしまう。


そうなれば、その人物達も抹殺の対象になるかも知れない。


蛍はグッと複雑に絡み合う想いを飲み込んで首を横に振った。


「なにも…。なにもないから大丈夫だよ。怪我はちょっと転んじゃって……」


「蛍が転ぶなんて珍しいね!あっ、そうだ!放課後に麦さんの所に行って治してもらおうよ」


「そう…そうだね……」


蛍はこの町へ帰ってくる最中、ずっとそれを考えていた。


バスや電車に乗ってる際、麦は弱った蛍を支え続けていたがその行動は麦らしくないと蛍は感じていた。


麦ならば怪我を治してくれるからである。


なにも怪我を治してくれなかった麦に不満を言っているのではなく、その行動は違和感でしかなかった。


麦はどれだけ、自分が傷だらけでも相手の傷を治すような男であることは今までの麦の行動から理解できる。


それなのになぜ、昨日は治してくれなかったのか。


蛍の中ではそれも疑問の1つであった。


考えられる可能性は麦がひどく疲労していたから、ということだけである。


だからこそだろうか。


蛍の胸の奥で何かがざわつくのは。


妙な不安が蛍の胸を締め付け、同時に訪れる焦燥感は蛍を立ち上がらせた。


「蛍!?急にどうしたの?」


「あっ…いや……ムギさんが心配になって……」


「麦さんが心配?」


「…うん」


いきなり立ち上がった蛍に舞火は驚いた様子であったが、蛍の不安げな表情を見て表情を引き締めた。


ジッと蛍を見つめる舞火の瞳は何かを語っている。


きっと、それは蛍とは似ているが違うものである。


しかしながら、その根底にあるものは同じである。


だから、自然と声が揃った。


「今から行こう」


同じことを同じタイミングで口に出したことに蛍と舞火は目を丸めて、笑った。


いつもと同じ光景であり、これが舞火なのだ。


蛍にそう思わせたのは舞火との相性なのかも知れない。


そして、それは人間的な部分である。


2人は顔を合わせると鞄を手に取った。


向かう先は言うまでもない。


教室にいる生徒達は朝のホームルームが終わって帰宅する蛍と舞火を見て首を傾げていたが2人には関係ない。


麦の元へ行く2人には…。

次回の更新は3月31日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?



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