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89話 親子の想い。

頭では抱え込めないほどの濃厚な1日。


麦と蛍の心と体には大きな疲れと傷が残っていた。


そして、謎も。


犬川にはまだまだ沢山のことを聞き出さなくてはならない。


それはこれから、自分の身を守る為にも。


しかしながら、麦は呑気に修復屋のカウンターでコーヒーを喉に通していた。


モクモクと湯気をたてながら、コーヒーはそのまろやかな香りを店に漂わせている。


「はぁ~……」


コーヒーをすすった麦は気の抜けた声をあげて、カウンター席からテレビを眺めていた。


テレビは今日も政治家の汚職やどこかの殺人事件を面白がって話している。


それほど世界は暇なのだ。


誰も影で行われていることには興味を示さず、祭りにしか興味を示さない。


そう、麦は自分達が助けてもらえない者だと理解しているのだ。


国に自分達が命を狙われていることを告げても意味はないだろう。


寝言を言うな、と追い返されるに違いない。


時計は8時30分をまわろうとしている。


蛍は今頃、学校へ行き席に腰を下ろしているのだろう。


そして、舞火に一部始終を追求されているのだろう。


この町に帰ってくればいつもの日常。


どんな秘密も謎も溶けてしまうほど温かい人がこの町に沢山いて、心が安らぐ。


麦にとってはそれだけで十分である。


この温もりを早く感じたくて、犬川のもとから去ったのだから。


麦が再び、ため息を溢してコーヒーをすすろうとした時、修復屋の扉が開いた。


お客さんが来るにはあまりにも早すぎる、そう思いつつ扉が開いた音を聞いた麦を腰を上げた。


「いらっしゃいま……」


「コムギ!帰って来ておったのか!」


麦のあいさつを遮るように店に現れた重春は大声を上げた。


額に光る汗と乱れる呼吸から重春が急いで修復屋へやって来たことがわかる。


それだけ、麦の帰還に重春は心を揺さぶられたということだ。


「あぁ…。昨日の夜には帰ってきてたよ」


「それなら、連絡をせんか」


「ごめん……。夜遅かったからさ……」


重春は遠慮気味の麦を見てため息を溢すと足早にカウンターへと入った。


テーブルに置いてある麦のコーヒーに手を伸ばすと重春はコーヒーをまた淹れ直した。


その行動は重春の最大限の優しさなのだろう。


コーヒーは湯気を立てて、冷めている様子はない。


それでも、重春は淹れたてのコーヒーを麦に味わってほしいと思っているからこそ、コーヒーを淹れ直した。


「ほれ、飲まんか」


「おやっさん…ありがとう」


感謝の気持ちを口にした麦は激しく湯気を立てるコーヒーをすすった。


温かいと表現力するにはあまりにも熱すぎるコーヒー。


それは舌が悲鳴をあげて、喉が火傷する程である。


しかし、それ以上に優しさが込められている。


すぐに重春が依頼について口にしないのも優しさだろう。


「ホタルちゃんはしっかりと家に送ったよ。今頃、学校へ行ってるはず」


「そうか。それはご苦労じゃったな」


重春の気持ちを麦は十分に理解している。


だからこそ、麦は病院で命を狙われたことや蛍の両親のことを口にすることを躊躇した。


言ってしまえば重春に負担をかけてしまうかも知れない、と麦は思っていたのだ。


だが、そんな思いは重春にとっては無駄である。


重春は麦と出会ってから今まで一緒に仕事をしてきたパートナーだが、同時に息子でもある。


重春にとって麦は自分の息子なのだ。


きっと、その気持ちには麦にもある。


重春を本気で自分の親だと思っている。


だからこそ、両者の思いは交わらないのだ。


互いが互いのことを大切にする為に縮まらない距離もあるから。


「依頼者……犬川さんって言う人で……。その人のお友達さんが入院していて……」


麦は言えることを口にしよう、と口を開いたがその話口調は下手くそで何が言いたいのかわからない。


それでも、重春は黙って麦に頷いて見せた。


「……その人を治して来たよ」


「そうか、わかった。それで…お前さんは大丈夫なのか?」


麦は口を閉ざしてしまった。


ここで、すぐに大丈夫、と口に出していれば何も問題はなかった。


わかっていたのに麦は何も言えなかった。


それは自分で自分の“期限”を理解していたからでそれを重春に伝えなければいけないと思っていたからだ。


しかし、まだ終わりたくない。


もう、続けられないことはわかっていても麦はこの場所にいたいという気持ちがあった。


永遠なんてものは存在しない。


もしも、今を永遠だと感じるのならばそれはそこが心地よいからだ。


そこに居たいと思っているからだ。


だが、だからこそ覚悟する必要がある。


そこを離れる覚悟を。


「おやっさん……オレ……」


麦が重い唇を動かした時、テーブルに置かれていた麦の携帯電話が激しくバイブレーションした。


その振動は会話を止めるのに十分な振動。


麦は動かした唇を噛み締めて、ゆっくりと携帯電話に目を向けた。


そこに表示されていたのは“知らない番号”だった…。

次回の更新は3月30日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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