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87話 秘密の責任。

胸がドキドキして落ち着かない。


まるで、全身の血液が逆流しているようで体が叫び声をあげているようである。


いや、叫び声をあげているのは心なのかも知れない。


麦は心の中で蛍を思い浮かべると自身と重ねて見せた。


生まれることを歓迎されなかった。


それは麦も同じなのだ。


決して、喜んでくれる人はいなかった。


だからだろう。


麦の胸が捩れて、痛いのは。


「…大丈夫ですか?」


ボーッとする麦を心配した犬川は麦の肩を優しく叩いた。


犬川の肩を叩く手から放たれる衝撃は麦の意識をこの場へと戻させた。


「えぇ…。大丈夫です」


犬川にも迷いがあったことは確かなのだろう。


犬川の表情はどこか後悔しているようで、切ない。


どれほどの葛藤があったのだろうか。


優しい人間ほど相手のことを考えて自爆する。


だから、そのような人間に人生相談はしてはいけないのだ。


共倒れしてしまうから。


まさに、犬川がそれにあたる。


今、自身で蛍のことを口にした犬川は麦と蛍の心を思って傷付いているのだろう。


「少し…ビックリしただけです」


だから、麦は目を丸くしておどけて見せた。


自分は平気だ、と犬川に伝える為に。


しかしながら、蛍が悪魔達にとって“都合の良い人間”だったことよりも麦の中では蛍にこれを伝えるかどうかを悩んだ。


今日、ようやく父親に会ったばかりなのだ。


それにも関わらず、追い討ちをかけるようなことは麦には口にできない。


「このことは蛍ちゃんには……」


「…オレに任せてもらえませんか?」


犬川にその責任を任せてはいけない。


麦は純粋にそう思ったからこそ、蛍の秘密を犬川から授かったがそれだけではない。


心の片隅にあるものは蛍に笑顔でいてほしい、というものであった。


時間が解決してくれる、とは思っていない。


しかし、時間で何かを薄めたいとは思っているのは確かである。


「わかりました。蛍ちゃんのことは花形さんにお任せします」


犬川は麦の目を見つめて、深く頷いた。


きっと、犬川は自分では解決できないとわかっているのだろう。


病院で麦と蛍の命を助けたのは確かに犬川ではあるが、蛍の心までは何とかできない。


それを理解しているからこそ、麦に全てを託したのだ。


「あと……1つだけ…お聞きしたいことがあるんですが……」


麦はこれ以上、蛍について踏み込んではいけないと思っていた。


勝手に人の出生の秘密を探るのは良い趣味とは思っていなかったから。


だが、どうしても麦は口を閉ざすことができなかった。


なぜなら、蛍の父親である水野 空を目撃しているのだから。


「はい、なんでしょう?」


犬川は麦から一切、目を背けることはなかった。


ここまで来たのだ。


きっと、犬川も逃げられないことを理解している。


麦は犬川と同じように視線を強くして口を開いた。


「オレは病院で水野 空さんと会いました。あの人はホタルちゃんの父親だと知っています。なら……お母さんは……?」


今まで蛍から母親のことを聞いたことはない。


だから、麦が蛍の母親について犬川に尋ねることは必然的であり、気になって当たり前なのだろう。


「蛍ちゃんの母親は…人間ですよ」


それは犬川が気を遣ってついた嘘なのか、それとも真実なのか麦には判断できなかった。


目の動きや、息遣い、表情に変化がないからこそ麦には判断ができなかったのだ。


麦が生唾を飲み込んで再び、口を開こうとした時、犬川はそれを遮るように声を発した。


「水野 空もその奥さんも人間なんですよ」


「じゃ、さっきの話は?それでは辻褄が……」


麦の追求は続く。


ここまで来たら、全てを知りたいと思っていたが同時に麦は自分のことを嫌いになっていた。


なんて、デリカシーのない男なのだろうか。


心の中で麦は自身にそう言って(ののし)っていた。


「えぇ、この理屈ではおかしいことになりますね」


犬川と蛍の出生について語り合ってから初めて、犬川は麦から視線を離した。


麦の追求と好奇心の強さを想定してなかった訳ではない。


しかし、犬川が蛍について全てを話すには勇気がいるのだろう。


蛍に傷を付けるかも知れない、という思い以上に犬川には口を開けない辛い過去があるから。


大切な友人との懐かしく楽しい思い出と別れの記憶。


それらが、犬川の心を揺さぶっているのだ。


「…やっぱり、いいです」


麦は犬川に手をかざして笑みを溢した。


犬川の心を察した。


追求をやめた理由の1つにそれは含まれているが、これ以上、犬川を追い詰めることが麦にはできなかったのだ。


犬川は沢山の秘密を所持している。


これからのキーパーソンになることは確かであるが、その前に麦にとっては依頼者であり命の恩人でもある。


そして、何より蛍とあの町に早くから帰りたいという思いもあった。


あの騒がしい店に暗い過去なんて似合わない。


皆を笑顔にする為に麦の力はあるのだから…。

次回の更新は3月23日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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