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86話 生まれた意味。

麦は境矢ととても親しい中ではない。


それでも、麦は境矢のことを頼りにしている所がある。


それは“女”との戦闘の際に境矢に命を救われたことが影響している。


あの時、麦1人だけではその場を乗り越えることはできなかっただろう。


かと言って、境矢1人でもあの場を乗り越えかれていたとは限らない。


仮に乗り越えられていたとしてもそれは最悪の結果になっていたかも知れない。


「……聖者(せいじゃ)?」


そう口にした麦の頭の中には境矢の顔が浮かんでいたが、それに加えて境矢が手にしていた剣も顔を見せていた。


“女”に致命傷を与えたあの剣は病院にいた男が持っていた槍と似たようなものを麦は感じていた。


ドロドロとした殺意と冷たい心。


あの雰囲気を口にするのはとても難しく、心がそれを拒否しているのが麦にはわかった。


それほどまでに麦の心に障るものなのだ。


「えぇ。聖者です。……もっと、わかりやすく言うなら”エクソシスト”です」


「エクソシスト!?……悪魔払いの?」


エクソシスト。


その言葉を知るものは多くても、その実態を知るものは少ない。


よく、テレビ番組でエクソシストが悪魔に取りつかれた者の背中を叩いている様子を目にしていた麦もその1人だ。


いつも胡散臭い、と疑いの目でテレビに視線を向けていたが今、犬川の口から放たれた“エクソシスト”という言葉に鳥肌を立てていた。


エクソシストの存在を知ったから鳥肌を立てた、と言えばそれは嘘ではないが肝心なのは命を狙われたことだ。


「そうです。払うものは悪魔だけではないですが……そのエクソシストと考えてくれて問題ありません」


犬川のその言葉は虚言ではないのだろう。


犬川の様子は真剣そのものであり、ジッと麦を見つめている。


だからこそ、麦は訳がわからなくなった。


エクソシストはこの世に存在し悪魔を払う者達。


だが、その認識が正しいとするならばどこに“悪魔”がいたのだろうか。


「じゃ……あの時、どこに悪魔がいたんですか?」


命を狙われたのは麦と蛍である。


その為にこの麦の聞き方は好ましくないだろう。


実に否定的で遠回ししている聞き方なのだから。


実際、麦の中では認めたくないものがあった。


だから、自然とそういう聞き方をしてしまった。


そんな麦の気持ちを察してか、犬川は少し口を閉ざした。


犬川にも話せることと話せないことはある。


それは麦の心のことを心配しているから、という訳ではなく元同業者としてなのか。


犬川の険しい表情と沈黙が麦に沢山のことを考えさせる。


だから、不安が募る。


「…あの時、あの場に“悪魔”は存在していないですよ」


麦はその言葉に少し気を緩めたがそれでは命を狙われた意味がわからない。


なんとも腑に落ちない答えに麦は眉を曲げた。


麦の曲がった眉を見た犬川は今度は間髪入れず、素早く口を開いた。


「悪魔はいなかった。でも……“禁忌の子”はいたんですよ」


「“禁忌の子”?」


具体的な言葉が顔を見せたが、麦はそれが自分を表す言葉ではないと確信することができた。


それはなぜかはわからない。


人にはない特殊能力を持っているのにも関わらず、麦の頭には蛍の姿があった。


不意に訪れる胸の痛みは麦に何かを訴えているのだろう。


そして、それは麦の日常を返るかも知れないという恐怖を与えてる。


「悪魔がこの世界に存在する場合、人間に依存する必要があるんです。ま、ここは悪魔の階級にもよるんですが」


犬川は淡々と悪魔についての説明を始めた。


だが、そんなことは麦にとってどうでも良かった。


“悪魔”という存在がこの世に存在していたことはよりもこの胸の痛みをどうにかして欲しかった。


犬川ならこの痛みを消すことができるのだ。


なにも関係ないんですよ。


その言葉を犬川が口にするだけで良かった。


麦にとってはそれだけで楽になることができる。


「しかし、人間の中でも厄介者がいる。それは悪魔にとって都合の悪い人間です。その為に悪魔達は自分達にとって都合の良い人間を作ることを考えたんです」


「……都合の良い人間?」


妙に心に突き刺さるその言葉は麦を確信へと導く。


麦にとっては蛍が何者でも“ホタル”であり、なにも変わらない。


しかし、蛍自身はどう思うのだろうか。


繊細な心に傷を付けることは殺人と何ら変わらない。


麦に頷いた犬川は息を思い切り、吸い込むと口を開いた。


犬川にとっても心を酷使するものなのだろう。


「はい、自分達の遺伝子を人間に植え付けて仲間にするんです。そして……蛍ちゃんは……作られた人間です……」


この世に生まれた命は等しく祝われる権利がある。


それだけ、命の誕生は素晴らしく神秘的なのだ。


だが、祝われない人間もいることを忘れてはいけない。


個人が認めても、世界はその存在を認めないのだ。


麦は犬川から視線を離すと下唇を噛んだ。


生まれてくる必要がない人間などいない。


麦はその一言を心の中に埋めた…。

次回の更新は3月21日(木)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→??

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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