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80話 生きる為に。

男は麦の頼みに対して表情を変えない。


一体、何を考えているのか。


それが微塵も感じられない麦は額に汗を滲ませて、男を見つめることしかできなかった。


次に男が口にする言葉で麦と蛍の生死が決まると言っても良いだろう。


なぜならば、麦達は圧倒的な劣勢にいるからだ。


しかし、そんな劣勢にいても蛍が黙っていなかった。


「ムギさん!!何を考えてるんですか!私は…私は……あなたを守りたい!!」


あまりにも素直な心の叫びが蛍を熱くさせる。


蛍の中にあるのは使命感ではなく、ただ単純に麦を守りたい、という純粋な犠牲の心である。


そんな蛍の気持ちは麦も充分に理解している。


だからこそ、麦は蛍に強い視線をおくった。


「ありがとう。でも、オレもホタルちゃんを守りたいと思ってるんだよ」


麦は今まで多くの人の為にその力を発揮してきた。


そして、それは優しさとは違うのだ。


“犠牲の心”である。


相手を救いたい、という思いは麦にも確かにあるが麦の心を支配しているのは自分よりも、という相手を優先する思いである。


だから、麦に守りたい、と言われても蛍は嬉しく感じなかった。


純粋な犠牲願望は蛍にとっては胸が痛く、それが麦を守りたいという気持ちに繋がる。


「いつも、ムギさんは私を助けてくれた……。知ってますよ、ムギさんがどれだけ自分を犠牲にしてるかを。だから!私は…私は……」


胸に溢れる想いは涙となって形になった。


この絶望的な状況が蛍の心を揺さぶった、ということではなく麦という1人の男が蛍の心を揺さぶっているのだ。


今まで好意だとか尊敬だとかよりも遥かに次元が高い、想いはどこにも行けずに消化することはできなかった。


だが、この場面で蛍の複雑な感情は消化されたのだ。


そして、そのタイミングは最悪でありこの生死を分ける状況下では良く働くことはないだろう。


「ホタルちゃん……」


しかし、麦が蛍の名を口にできるほどに男は油断をしていた。


いや、油断というよりは麦と蛍を見守っていると表現したほうが良いだろう。


男は地面に刺さる槍を取りに行く隙があるのにも関わらず、ジッと見ている。


それは不思議な光景であり、今まで2人の命を狙っていた男がする行動とは考えられない。


それでも、これは現実なのだ。


「ムギさん…一緒に……店に帰ろう……」


父親に会う、という好意は蛍にとってどれほど緊張を強いられたものだったか。


また、それに加えて麦への想いは行き場を探して蛍の心の中で激しく渦巻いていた。


やっと、糸が切れて蛍は素直になれたのだ。


麦はソッと力を失って自身にもたれ掛かる蛍の肩に手を置いた。


一瞬、麦は力を使おうと考えたが力を屈指しても蛍に力が戻らないことを察すると蛍を体で優しく支えた。


「あぁ…そうだね。一緒に店に帰ろう」


舞火や轟太、境矢、そして重春がいる修復屋が麦の頭の中に浮かび上がった。


それは麦にとっての居場所であり、心安らぐ場所。


だからこそ、麦も蛍と同じように強くあの町に帰りたいと思った。


犠牲の心ではなく、一緒に生きていく覚悟を麦はしたのだ。


「やっぱり、さっきのはなしだ。オレはホタルちゃんと一緒にオレたちの町に帰る!」


「そうか」


麦の力強い叫びとは反対に冷たい返事をした男は地面に突き刺さる念を送るように手をかざした。


すると、槍はひとりでに動きだし男の手のひらに吸い付くように飛んでいった。


「残念だ。本当に……」


男は槍を手にして槍の先を麦と蛍のほうへ向けると残念そうな顔を見せた。


なにが残念なのか、なにがそんな顔を作らせているのか。


麦は純粋にその言葉と男の心に疑問を抱いたが、そんな余裕を持っている場合ではない。


この危機的な状況を乗り越える術はないのだから。


どんなに強い覚悟を持っても叶えられない願いはある。


それが現実なのだ。


「もう、駄目なのか?どうしてもオレたちを殺すのか?」


「“禁忌の存在”だから仕方がないだろう」


「“禁忌の存在”!?」


麦はその聞き慣れない言葉に首を傾げて見せたが男はそれ以上、麦と会話をすることはしなかった。


そして、それは死刑執行の合図でもある。


男は力強く槍を握り締めると地面を力強く蹴った。


槍を投げることなく、向かってくる男は確実に殺りにきている、と麦には理解できた。


同時に麦と拳を作った。


槍と拳では相性は悪いのは誰でもわかるだろうが、それでも麦は諦めなかった。


生きる為に。


「うおぉぉぉ!!」


麦の雄叫びと共に男はそのスピードを加速させて、貫くことを明確化させた。


しかし、息もできないほどの命のやり取りは呆気なく中断させられた。


槍は宙を舞い、麦の拳は分厚い手に握られ動かなくなっていた。


「あなた…犬川さん!?」


麦の驚きの声と共に犬川は麦に笑みを浮かべて見せた。


「大丈夫ですか?お怪我は?」


麦は安堵すると同時に深い疑問に呑み込まれた…。

次回の更新は3月2日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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