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79話 死相。

男と向かい合ったのは良いが麦には戦う力はない。


蛍のように並外れた身体能力がある訳ではないし、目の前の男のように何かしらの武器を持っている訳ではない。


そう、根拠のない覚悟なのだ。


蛍を守る、と言った麦には蛍を守ることができる根拠などない。


それでも、麦の中にかたい覚悟があることは確かなのだ。


「ムギさん……」


蛍は自分の前に立った麦の広い背中を見て瞳を輝かせた。


いつも目にしている麦の背中とは違う、何とも言えない輝きと頼もしさが蛍の瞳を自然と輝かせた。


そして、それは絶大なる安心に繋がっている。


何も状況は変わっていない。


男は不適な笑みを浮かべて余裕を見せて2人に劣勢の風を吹かせる。


それでも、恐怖で蛍の体が震えないのは麦がいるからだ。


「大丈夫。あとはオレに任せて」


麦はソッとそう呟くと足元に転がっている手のひらサイズの石を手に持った。


その行為が意味することは容易に予想することができた。


蛍はもちろんのこと、男も麦の次の行動を理解すると呆れてため息をついた。


「そんなものでは私は殺せないぞ」


男の口にすることは最もであり、蛍は額に汗を滲ませたが麦の石を強く握る手を見て希望を見出だした。


蛍、自身も石を投げて男を倒せるとは思ってはいない。


しかし、麦が石を投げるだけだとは思えなかった。


普段、麦は呑気かつおどけた様子だが頭の回転は早く、あらゆる手段でこれまで困難を乗り越えてきた。


蛍はそんな麦を見てきている。


だからこそ、麦に期待してしまうのだ。


「殺せないか…別に殺す気ないんよ」


「なに…?」


「はじめからあんたを殺す気なんてないよ。いきなり、槍を投げられたことは驚いたけど、命を奪おうとは思わない」


それはあまりにも甘い考えなのであろう。


それはまるで、肉食動物に牙を向けられた草食動物が何も抵抗を見せないようなものである。


だが、麦の目は諦めだとか潔く、という印象を受けない。


むしろ、生き残ろうと激しく抵抗している目をしているのだ。


だからこそ、男は不思議で仕方がなかった。


「不思議だな。命を奪おうとは思わない、と言っておきながら殺る気しか感じないんだが」


「あぁ、あんたを殺る気はない。けど、ホタルちゃんと一緒に町に帰る気はある!!」


それは単純な願望であり、純粋な願いである。


そして、それが今を乗り越える原動力になっている。


それが麦に強く石を握らせているのだ。


「だから、全力で……」


麦は自身の力でその身を金色の光で包み込むと投擲する構えをとった。


「投げる!!」


麦の腕から真っ直ぐに投げられた石。


そのスピードは一般人が投げられるスピードではない。


まるで、ゴリラが投擲したようなスピードである。


突然のスピードに反応が遅れた男は避けることは諦めて身を守る体勢を取った。


修復能力で自身の筋力を活性化さえ、放たれた石は見事に男に命中すると男を後退りさせた。


それは隙である。


「ホタルちゃん、走るぞ!」


男が怯んだ姿に口を開けている蛍の手を取った麦は全力で走った。


これが最後のチャンスであることを麦は理解している。


そして、それは反対に絶対的なピンチでもある。


ここで逃げられなければ終わり、というピンチ。


蛍の手を引く麦は後ろを振り返らなかった。


振り返る余裕がなかったことも関係しているが、振り替えれば足を止めてしまうと思ったから。


あの男の恐怖によって。


「ムギさん……」


「大丈夫!全力で走ればきっと、あいつから逃げられる」


蛍の声は少し震えていた。


それは不安を麦に感じさせると同時に蛍が不安を感じていることを理解した。


だからこそ、麦は希望のある言葉を口にした。


そうしなければ、足が止まってしまいそうになるからだ。


麦に石をぶつけられた男はよろめきながら、走る麦と蛍を眺めて眉間にシワを寄せた。


「あの野郎……」


今まで冷静に言葉を口にしていた男だったがその表情と口調から怒りを感じていることは明らかである。


そして、大きく空気を吸い込んだ。


まるで、吸い込んだ空気を推進力にしているかの様に男は大ジャンプを繰り出した。


あまりにも早く、不公平な跳躍力。


それは容易に麦と蛍を追い越し、再び、2人の目の前へと男は立ちつくした。


「そんな…この人は人間じゃないの……?」


「いや、君と違って私は人だ」


男の目は恐ろしいほど綺麗であり、吸い込まれそうになる。


だが、その引力の先には“死”しか待っていないのだろう。


その時、麦には確かに見えた。


“死相”が。


だから、麦の次に取る行動は諦めであり、精一杯の抵抗であった。


「…頼む。ホタルちゃんだけでも見逃してくれないか?オレはここで死んでも良いから……」


「ムギさん!!」


これは最終手段である。


戦う力がないのならば自身の命で大切なものを守るしかないのだ。


麦はそれをよく知っている…。

次回の更新は2月24日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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