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76話 断罪。

ベンチが粉々に破壊されたことに対して麦は驚きを隠せなかったが、恐怖は感じなかった。


それはベンチを破壊したものが何かわかっているからである。


「槍…なのか……?」


粉々になったベンチの破片の中心には黄金に輝く槍が地面にめり込むように刺さっている。


その槍から強大な殺意を麦は感じてそれ以上、槍に近づこうとはしなかった。


なぜ、槍が降ってきたのか。


麦は辺りを見渡すがここは病院である。


命を扱う現場でこんな不快な槍が置かれていると思えない麦は1歩、身を退いた。


原因は何かわからない。


テロでもイタズラでもここが危険な場所だと感じた麦はこの場を離れようと槍に背を向けた時、麦の足を静かな声が止めた。


「わざとはずしてやったのだ」


強がりのようで、言い訳しているようで実に子供のようなことを並べる声は決して、可愛いものではない。


麦は再び、槍のほうへ体を向けると地面にめり込んだ槍に手を掛ける長身の男の姿があった。


髪は青く、整った顔立ちから外国人であることは間違いないだろう。


観光客であることを麦は祈ったがそれは違う、とすぐに自分で否定した。


「放てば必ず的を射ぬく“ゲイ・アッサル”。それが外れたということは…私の気まぐれであることは明白だ」


麦に話しかけているのか、独り言を言っているのかはわからない。


しかしながら、目の前の男が麦を槍で狙っていたことは間違いないのだろう。


槍を地面から引き抜いて麦を見つめる男の目がそれを物語っている。


「さっきから、言っていることがわからないんですけど……」


麦は指で頬を掻いておどけて見せた。


ここで、男も同じようにおどけてくれることを麦は期待したが男の表情は変わらない。


強いて変わったと言うのならば殺意である。


警戒心と殺意を強めたことが針積めた空気から感じられる。


呼吸をするのも苦しく、まるで二酸化炭素だけを吸い込んでいるかのようである。


「その“力”は…どこで手に入れた?」


男は槍の先端を麦に向けながら麦に問いかけた。


しかし、それは問いかけというよりは脅迫のようであると麦は感じていた。


答えを間違えれば殺される恐怖。


いや、どんな答えを口にしても殺されるという恐怖が麦の額に汗を滲ませる。


「力……?なんのことだよ」


麦は“力』”という言葉を耳にした時、“修復能力”のことであると確信していたがすぐにそれを口にしなかった。


少しでも相手のことを知る必要があると思った為に話を引き伸ばそうとしたのだ。


加えて、ベンチが破壊されたことに気づいた人が集まることも期待していた。


「さっき、子どもの怪我を治していただろう?」


「あぁ、あれね。自分でもわからないんだよ、気がついたらって感じで……」


「そうか」


男は麦の答えに納得したように軽く頷くと槍を構えた。


命を狙われる意味も殺意を向けられる意味もわからない麦は恐怖のあまり身を構えたがすぐに冷静になった。


麦は決して、格闘技の達人ではない。


その為に相手の攻撃をうまく避けることはできないだろう。


だが、相手と自分のレベルが違うことは明確に理解している。


そして、相手の正体もぼんやりながらであるが理解できている部分もある。


「オレを殺そうとしているのか?」


「そうだ」


迷いのない答えにむしろ、清々しさ麦は感じていた。


だからこそ、もう1歩、踏み込んでやろうと思う気持ちになった。


「なんでだ?オレが何かしたのか?……“力”が影響しているのか?」


男は麦を見て呆れたかのように深いため息を溢すと槍を下ろした。


その姿は僅かながら麦に期待を膨らませるが、帰って来た答えは単純かつ残酷なものだった。


「今から死ぬ者に話す必要はないだろう」


背筋が凍り付くような思いである。


麦がそうして槍を持った男と対峙する数分前、蛍と犬川は病室の外から聞こえる大きな音に首を傾げていた。


「なんの音でしょう?」


「うーん……なにか壊れたかのような音だったけど」


病室から姿を消した麦も気になる蛍はベッドで眠る父親である水野 空を見つめて笑みを溢した。


別に言葉などいらないのだろう。


その笑みには空白の3年間を埋めるほどの想いがあるからだ。


「犬川さん、それじゃ私は帰ります」


蛍はあまりにもあっさりしていて犬川としては複雑な思いであったが嬉しくもあった。


立派に成長した蛍が誇らしくて犬川は仕方がなかった。


「そっか、わかった。また来るといいよ」


「はい、また来ます」


蛍は犬川に頭を下げると病室を出た。


特に何がわかった訳でもない。


結果から見れば何もわからなかっただろう。


しかし、蛍にとっては大きな1歩だった。


父親に出会えたことが蛍にとっては特別なことだったから。


蛍が不意に窓の外を見つめた時、破壊されたベンチの 近くで麦を見つけたが様子がおかしい。


「ムギさん……?」


麦のすぐ近くには槍を構えた男が立っている。


その瞬間、蛍の細胞は蛍を走らせた…。

次回の更新は2月16日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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