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75話 人の幸せ。

水野 空の様子を見る限り容態は安全なラインまでに回復したのだろう。


それは僅かに微笑む水野 空を見ればよくわかる。


あとは目覚めるのを待つだけだろうが、問題はなぜ目覚めなかったのかである。


それはあまりにも簡単な疑問であり、答えはすぐにでる。


麦に限界がきていたからである。


麦は全力で水野 空に力を注いだ。


だが、麦が考えている以上に水野 空の状態は悪かった。


そして、麦は大きな代償を払ったがそれでも目覚める状態までもっていくことができなかったのである。


それでも、麦が水野 空を救ったことに変わりはない。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


病室に蛍と犬川を置いて病院の廊下を歩く麦は手すりで体を支えながらゆっくりと歩みを続ける。


しかし、今にも倒れそうな体を支えるのには力以上に精神力が必要であり、あまりの疲労に麦の心は折れかけていた。


それでも、麦の心がなかなか折れないのは蛍の為である。


ここで倒れて、病院に厄介になってしまえばきっと蛍は気を悪くする。


それを思うと麦は倒れることができなかった。


満身創痍の状態で麦がたどり着いた場所は病院にある小さな庭だった。


綺麗な花が咲き乱れ、花の甘い香りが自然と麦を動かすように庭に設置されているベンチに麦は腰を下ろした。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


なかなか整わない呼吸を落ち着かせようと麦はベンチに深く腰を掛けて目を瞑った。


そうして、麦が休む場所を見つけた頃、病室では緊張が空気を支配していた。


緊張に支配された空間を切ったのは犬川だった。


「なにか聞きたいことはあるかい?」


犬川のその台詞は麦の思いを汲み取るものなのだろう。


犬川にだって蛍に対して言えないことがあるが、麦のプロフェッショナルの姿を目にした影響なのか、犬川は蛍に聞かれたことを全て話そうとしていた。


水野 空に起こったこと、蛍の出生、麦の力のこと。


しかし、蛍の口から溢れたのはある意味、犬川の期待を裏切るものであった。


「父は……お父さんは私のことをどう思っているんでしょう?」


あまりにも予想外の言葉に犬川は驚きを隠せなかった。


なぜ、こんなことを聞くのか、という疑問よりも寂しさを犬川は感じた。


水野 空が意識不明になったのは今から3年前である。


その時、蛍は中学生。


子どもから大人へと成長していく中で父親の行方がわからないことは蛍にとっては辛かったのだろう。


そして、父親を慕っていたからこそ、蛍は一番に父親がどう思っていたのか知りたかったのだろう。


「犬川さん…わかりませんか……?」


驚いて声を出さない犬川に追い討ちをかけるように蛍は犬川を見つめた。


犬川は目をそらすことなく、蛍と視線をぶつけるとスッと息を飲み込んで口を開いた。


「確かに。僕には君のお父さんの全てはわからない…。でも、君を大切にしていることはよく知ってる。彼が君をその腕に抱いた時、大切そうに強く君を抱き締めていたのを僕は知っているから」


「そうですか……」


「今まで連絡をしなかったのも君のためなんだよ」


「私の為なら連絡をしてほしかった……」


人の幸せは誰かが決めることではない。


それは人によって幸せが違うからである。


だからこそ、犬川は言葉の選択を誤ったと感じて後悔した。


この父親がいなかった時間、蛍は辛かったのだ。


犬川は蛍の寂しさや辛さを簡単に切り捨てた自分に苛立ち、下唇を強く噛んだ。


病室でも庭でも流れている時間は同じであるが、その場所にいる人達はそれを感じていないだろう。


蛍は自身の想いを噛み締め、犬川は自身に怒りを覚えている。


そして、麦はベンチで眠っている。


そんな麦の目を覚まさせたのは子どもの泣き声であった。


「なんだ……?」


麦の座るベンチから少し離れた所で幼い男の子が転び、膝から血を流れていた。


麦はベンチから重い体を持ち上げるとゆっくりと男の子に向かい、声を掛けた。


「大丈夫か?」


「ううう……痛いよ……」


瞳に涙を貯めながら痛がる男の子に麦は笑みを溢すと麦は膝を曲げて男の子の膝に手をかざした。


麦の手から放たれる金色の光。


それは優しく男の子の膝を包み込み、あっという間に怪我を治してしまった。


「気を付けろよ」


「うん、ありがとう」


怪我が治ったことを不思議がる様子を見せずに男の子は嬉しそうに笑顔を見せると走って姿を消していった。


麦の中の容量は確実に減っている。


「大丈夫……まだいける」


麦は自身の手を見つめて、自分に言い聞かせるようにそう呟くとベンチへと向かった。


フラフラと揺れる肩は実に頼りなく、不安にさせる。


麦がベンチの前までやっとの思いでたどり着いた時、麦の目の前でベンチは粉々に吹き飛んだ。


あまりの衝撃に麦は吹き飛ばされると地面に叩き付けられた。


麦はゆっくりと立ち上がると粉々になったベンチに目を向けた……。

次回の更新は2月11日(月)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

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