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72話 怪しい犬。

少しばかり緊張した足取りで麦と蛍は約束の林檎が丘病院へと向かう。


“犬川”が本当にその場所にいるのか。


そもそも、犬川とは手紙でしかやり取りをしていない。


その為に麦は犬川のことを何も知らない。


もちろん、顔も職業も。


ただ、知っているのは“水野 空”と友人関係にあるということだけだ。


その為に麦も林檎が丘病院へ向かう度に心臓の鼓動を早くさせられた。


「ムギさんは緊張する必要ないんじゃないんですか?」


道を歩く中、口数が少なくなった麦に蛍は声を掛けた。


それは蛍の優しさであり、麦をリラックスさせようと努めようとしているのだろう。


そんな蛍の行為の意味を察した麦はふと笑って見せた。


「いや…緊張っていうか……不安なのかも。だって、依頼者のことを何も知らないからさ」


自然と出た不安。


不思議なぐらいに自然と口から溢れた不安に蛍は笑みを溢した。


「確かに。でも、ムギさんなら大丈夫ですよ」


その蛍の言葉に根拠はないのだろう。


それは蛍の優しい笑みを見ればわかることだが、それでも不思議な説得力を麦は感じていた。


それは今まで誰かを助けて来た経験が麦にそう思わせているのだろうが、それを引き出したのは蛍である。


それだけ、蛍の大丈夫には想いがのせられている。


「大丈夫かぁ……そうだな。きっと、大丈夫だな。なんか、最近、色々と難しく考えすぎてた」


「そうですよ。ムギさんは気楽にやってもらわないと!」


それは褒め言葉なのかどうか、わからない蛍の発言に麦は首を傾げるしかなかった。


それでも、麦の心がリラックスしたことは間違いなく、それに伴って道を歩く麦の足取りは軽くなった。


駅から歩いて数十分ほどで林檎が丘病院へ到着した。


建物は立派であり、その美しい壁は病院とは思えないほどの神々しさを感じる。


だが、肝心なのは病院のたたずまいではない。


林檎が丘病院で待ち合わせをしている“犬川”と出会うことが大切なのだ。


病院の入口まで歩いてきた麦と蛍は辺りを見渡してみるが、それっぽい人物はいない。


誰もかれも足早に歩いて、忙しそうにしている。


「犬川さんはいないみたいですね」


「あぁ、そうみたいだね。そもそも顔もわからんないし……」


麦の確信をつく言葉に蛍は思わず、納得してしまい頷くどころか希望を失った。


父親と再開できるかも知れない、という期待を破壊された蛍の体からは自然と絶望のため息が溢れ落ちた。


手が震えるほど緊張していた蛍の姿を知っている麦は蛍のため息をついた姿を目にすると病院へと入った。


「ムギさん!?」


「名前はわかってるんだ。ナースセンターに聞いてみよう」


麦はナースセンターを指差して蛍に笑みを溢すと蛍の手を取った。


麦に引っ張られるがまま、歩く蛍。


本当は父親と会うことに抵抗を感じていた蛍にとって、麦に強く手を引かれることはあまりにも心強かった。


1人ではないよ、と麦は言って引っ張ってくれている様で蛍は込み上げる想いに言葉をなくした。


「すみません。……修復屋の花形さんですか?」


ナースセンターを目の前にして麦と蛍の足を止めたのは背の高い優男であった。


男に声を掛けられた麦と蛍は男に対して警戒も首を傾げるのともしなかった。


目の前の人物が誰なのか、わかっていたからである。


「はい、そうです。あなたが手紙をくれた犬川さん?」


声を掛けてきた男を真っ直ぐに見つめて麦は自身が修復屋であることと男の正体に探りを入れた。


男は麦が修復屋だとわかると安心した表情を浮かべて軽く頭を下げた。


「えぇ、僕が犬川です。今日は遠くからわざわざ、ありがとうございます」


「いいえ、問題ないですよ。それよりも水野さんの所に案内してください」


「はい……。そろよりも、こちらのお嬢さんは?」


犬川は麦に背中を向ける前に蛍を視界に入れて首を傾げた。


犬川に自己紹介を急かされた蛍は緊張した様で、背筋を伸ばした。


「こんにちは。私は水野 蛍と言います。この度はムギさんに無理を言って同行させてもらいました」


蛍の名を聞いた犬川はそれまで笑みを溢していたが、表情を一変させた。


額から流れ出る冷や汗やその犬川の表情から水野 空と蛍が関係していることは間違いない。


そう、感じとるのは容易なことであった。


「そうですか。来てしまったんだね……」


焦りを表情に出した後に犬川は切ない表情を浮かべて、麦と蛍に背を向けた。


これ以上、変化する表情を見られない為か隠したいことがあるからか、背を向けた犬川はそれほど追い詰められているように麦には見えた。


「行きましょう。友人のもとへご案内します」


決して、2人に目を合わせることなく声を出した犬川はゆっくりと歩みを始めた。


「行こう」


「はい……」


歩き出した犬川を真っ直ぐに見つめて、麦と蛍も歩みを始めた。


この先に待ち受けるものが何かはわかっている。


だからこそ、蛍は胸に手を置いて自身の不安を体で表現した…。

次回の更新は2月2日(土)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。


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