表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/130

71話 縮まる距離。

麦と蛍の住む町から西へ進む。


電車をいくつも乗り換え、バスを乗り換え、2人が林檎が丘町に到着したのは店を出てから3時間後の話であった。


駅は大きく綺麗であり、しっかりと点検と清掃が行われている様子にこの町がどんな町なのかがわかる。


そう、見る限り穏やか町。


しかし、この町にも数年前に戦慄が走るような事件が起こった。


“女子高生の首なし死体”が見つかったのだ。


亡くなった女子高生を見つけたのはその女子高生の友人だったが今、現在、その女子高生がどうなっているかはわからない。


そんな闇と痛みがうっすらと蔓延る町の空気を麦はスッと吸い込んだ。


「ここが林檎が丘町か……」


「長かったですね」


町に遠い視線を向ける麦の横で蛍は背伸びをして今までの旅路での疲れを体で表して見せた。


そんな蛍に気をかけてか麦は蛍をチラッと見ると駅の売店へと足を走らせた。


そして、口元から涎を滴ながら売店に売られている弁当を指差しながら選び始めた。


「ムギさん……?」


「あぁ、お腹が減ってると思ってさ。なに弁当がいい?」


「そうですね……」


口から涎を垂らす麦はその歳とは関係がなく、少年の様な笑みを浮かべている。


空腹である以上に林檎が丘町の名物が組み込まれた弁当に心を踊らせている様である。


しかし、そんな麦とは違い蛍の目には弁当ではなく、とあるパンが目に入っていた。


「私はこのジャックメロンパンが良いです」


「パン!?遠慮しなくても弁当代はオレが出すけど」


「いいえ、遠慮じゃなくて、気になるんですよ」


蛍の輝く瞳から蛍が遠慮している訳ではないことを知った麦は棚からジャックメロンパンと袋に書かれたパンを2つ手に取った。


「これを下さい」


レジに2つのパンを差し出してジャックメロンパンを購入すると購入したジャックメロンパンを1つ、蛍に手渡した。


「ありがとうございます。ムギさんも買ったんですね」


「あぁ、なんか美味しそうに見えてね」


笑みをぶつけた2人は売店から離れるとベンチを探して、駅を出てすぐ横にあったベンチに腰を下ろした。


暖かい風と空気が自然と麦と蛍の距離を縮めるようでベンチに腰を下ろした2人の肘は接触していた。


普段は修復屋いる為か、違う場所に来るとお互いに特別な想いが溢れる。


ただ、この町の雰囲気に飲まれて一時のものなのかも知れない。


それでも、蛍にとってはこの時間が至福の時であることに違いない。


「じゃ、ムギさん頂きます」


「うん。じゃ、オレも頂きます」


袋を同時に空けるとそこから溢れる甘い香りに麦と蛍は驚きを隠せなかった。


決して、甘ったるい香りでも刺激的な香りでもない。


心地が良い甘い香りが2人の嗅覚を刺激した。


そして、それは同時に2人の味覚をも刺激し、食欲を促進させた。


麦と蛍は生唾を飲み込むと目の前のジャックメロンパンにかぶりついた。


「うまい……」


「美味しい……」


口に入れた瞬間に広がる甘味と旨味。


それが2人に大きな衝撃を与え、震えた声を出させた。


麦と蛍はそれぞれに声を出すとそのまま、夢中になり圧倒間にジャックメロンパンを平らげた。


「ビックリした。こんなに美味しいなんて……」


パンが入っていた袋を握り締めながら麦は目を丸くしてジャックメロンパンを評価した。


その横で蛍はうんうん、と首を縦に振ることしかできない。


麦の口にした以上のことを表現できないのだ。


2人はしばらく、ベンチでジャックメロンパンの余韻に浸ると日差しの強さを感じで麦が立ち上がった。


その動きは出発の合図であり、麦が立ち上がるとすぐに蛍も立ち上がって見せた。


「行きますか?」


「うん。緊張してる?」


蛍の手は僅かに震えていた。


それは“水野 空”と対面することに関しての緊張なのだろう。


仮に“水野 空”が蛍の父親だったとして、その後に何が待ってるのだろうか。


手紙の“犬川”という人物が“水野 空“を救おうとしていることは麦には理解できているが、状況がいまいち飲み込めていないのが正直なところである。


どれだけ、危ない状態なのか。


それによっては麦の力を持ってしてもどうにもできない時がある。


そして、何より麦は自分の力に限りが近づいていることを悟り始めている。


「まぁ……そうですね。でも、父なら良いですね。色々と話を聞きたいし…お母さんも喜ぶと思いますし……」


母親のことを気にかけた蛍を目にした麦は安心した。


母親のことを口にしたのは蛍の優しさなのだろうが、それと同時に少しだけ心に余裕があるのだろう。


その僅かな余裕をオーバーする様な出会いがこの町にあることは間違いない。


だが、ここから後に退くことはできないのだ。


麦も蛍も、自身の運命に立ち向かい、それをしっかりと受け入れなければならない。


そう、それがどんな結果だったとしても…。

次回の更新は1月27日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ