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67話 遠い距離。

河原で冷たい風に体を晒す麦は何を思っているのだろう。


その答えを探るように蛍はジリジリと河原で1人、孤独に立つ麦へと距離を詰めるがその足はぎこちない。


麦を視界に捕らえた瞬間、蛍の心の中で何かが弾けて一気に締め付けられた。


それは同時に蛍の動きを容易に止めて、動けなくした。


だが、今、蛍が足を動かせているのは紛れもなく蛍の意志である。


そして、それはただの意志ではなく強い意志である。


今のムギを助けられるのは自分しかいない、と強く自分を奮い立たせなければ動けないほどの硬直だったのだ。


蛍がジリジリと麦との距離を詰めていくが、距離を詰められている麦は蛍に気づいていないようでジッと遠い夕焼けを瞳に映している。


距離が近くなればなるほど蛍には麦の表情がはっきりと理解できて、心が痛くなった。


そして、心が激痛を抱えた頃、蛍は麦の後ろに立っていた。


手を伸ばせば簡単に触れることのできる距離。


しかし、視覚的な距離とは裏腹に心の距離はあまりにも遠い。


麦の背中を見て蛍は下唇を悔しそうに噛んだ。


「ホタルちゃん……?」


一切、麦は後ろを振り返る動作をすることなく蛍の名を麦は口にした。


そして、それは蛍に驚きと喜びを与えた。


だが、蛍は次の言葉が出てこなかった。


鶴巻の依頼のことを口にするべきなのか、それとも、鶴巻との関係を口にするべきなのか。


どちらにしろ地雷を踏むような行為に変わりはない。


「大丈夫。オレは…大丈夫だから先に店に戻ってて」


恐ろしいほどに穏やかな麦の口調に蛍の不安は加速した。


明らかに動揺していたのにも関わらず、どうしてそんな口調で言葉を繰り出せるのか。


麦は声を出すだけで振り返ろうとはしない。


あまりにも切なく、遠い距離に蛍は未だに声を出すことを躊躇っていた。


もしも、それを口に出したら麦を傷付けてしまうかも知れない。


そんな不安が蛍にはあったからだ。


「ムギさん……」


だが、それは違うと蛍は麦の名を口にして気がついた。


麦を傷付けてしまうかも知れないのは事実ではあるが、それとは別のところを蛍は気にしているのだ。


そう、それは嫌われることである。


蛍が麦と鶴巻のことを口にして自分が麦から拒絶されることが怖いのだ。


これから先、学校が終わり、修復屋に顔を出せないと思った時、蛍の心にはポッカリと穴が空く。


それは修復屋という場所が蛍にとって特別な場所であると同時に麦が特別な人だからなのだろう。


「ここは冷えるよ……」


麦の後ろから全く立ち去ろうとしない蛍に麦は優しい声を掛けた。


しかし、それは優しい声掛けではなく、早く消えてくれ、と頼まれているようで蛍にとってその声掛けは気分が悪いものであった。


その為、蛍はそれに押し負けて1歩、足を後ろへと退かせた。


だが、すぐに蛍はその足を元に戻した。


これ以上、足を後ろに退くと戻れなくなる。


それを蛍は知っていた。


それにここで麦を1人にしてしまえば一生の後悔をする、と蛍は感じていた。


だが、その瞬間に蛍は気づいた。


相手の壁をぶち破る勇気が必要であることを。


その行為をすれば相手は自身を拒絶するのかも知れない。


それでも、蛍には進む理由がある。


それでも、壁をぶち破る理由が蛍にはある。


「ムギさん…。私はムギさんの意志を尊重するべきだと思います……」


拒絶されるかも知れない恐怖に蛍はすっかりと収縮し、その声は小さく僅かに震えていた。


だが、ここまで来たら後戻りできない。


蛍は口を開いて一瞬、声を殺したがすぐに声をあげた。


「店に来た鶴巻さんが置いていったスーツケースの中には大量のお金が入っていました」


「そっか……」


その麦の一言は蛍に緊張感を与えた。


そして、次の言葉を蛍から奪い去り、再び、蛍の動きを止めた。


何か言わなければならい。


そんな焦りと恐怖が蛍の心で渦を巻くがそれがまた、蛍から冷静さを奪い去る。


「あの金はオレが返しておくよ」


緊張感を漂わせる空気を張りつめさせるように麦は穏やかに声を発したが、それは蛍にとって救いにならなかった。


焦りと緊張、不安が一気に蛍に襲い掛かり、蛍から次から次へと言葉を奪っていく。


「それは……それは……」


声が出ない蛍は必死に次の言葉を流しながら、言葉を繋ごうと声を出すがそれに麦は切り目を入れた。


「あの依頼は受けない」


麦の意志を尊重する構えの蛍としてはその答えに同意する姿勢ではあるものの、その理由を聞いていない。


それを聞かなければ壁をぶち破れない。


だから、蛍は麦と鶴巻のことを口にしたい。


解き明かしたい。


だが、それは無情にも麦によって破壊された。


「帰ろう……」


麦は夕日から目を背けると蛍と目を合わせることなく、冷たい風の中、行だした。


それはまるで蛍を拒絶しているようで蛍はその後に続くことができなかった…。

次回の更新は1月14日(月)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

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