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65話 古傷。

一体、誰が口を開ければ良いのだろうか。


店内にいる蛍、舞火、轟太、境矢の4人はいつもと違う麦を目にしてそれを感じていた。


店にやって来た男に対して向けられた麦の視線は怒りや憎しみという軽いものではない。


憎悪、という言葉で表現することが好ましいとほど麦の視線は鋭く尖っている。


「で、依頼はどうするんじゃ?恐らく、依頼の詳細は送ってくるじゃろうが……」


この場で麦に口を開けることができたのは重春だけであった。


それは蛍達にとってもありがたい行いであり、安心したと同時に4人は麦の顔色を伺った。


「……ごめん。ちょっと、外に出てくるよ」


麦の扉に向けられていた鋭い視線は重春を見ると柔らかく、丸くなりいつもの姿へと戻っていた。


だが、それが重春を不安にさせた。


それは麦の悪い癖であることを重春は知っているからである。


どんな苦痛にも麦は耐えれるだけの精神力と強さを持っている。


しかし、だからこそ、麦には傷が多いのだ。


そして、それは見えないからこそたちが悪い。


「そうか…。わかった、今日はこれで休むといい」


ここで麦に大丈夫か、と聞いても麦は笑みを溢しながら大丈夫、と答えることは重春にはわかっていた。


例え違う言葉を口にしても麦は笑みを溢して場を和ませる努力をするだろう。


それは決して、麦が気を遣える人間である、ということではない。


自己犠牲や我慢の心は決して、それではない。


わかっていた。


重春は十分に麦を理解しているからこそ、それ以上、麦に声を掛けなかったし、扉に手を掛ける麦を見ようとはしなかった。


その代わりに重春は目一杯、拳を握り締めた。


「さて、このスーツケースじゃが……」


麦が店から姿を消したと同時に重春は再び、口を開けるとテーブルに置かれたスーツケースに手を置いて見せた。


妙に威圧感と圧迫感を覚えるスーツケース。


そして、これをなぜ鶴巻が店に置いていったのか。


その理由を理解するのにはスーツケースを開けるのが手っ取り早いだろう。


「それよりも麦さんは……良いんですか!?」


今にもスーツケースを開けようとしている重春に舞火は声をあげた。


そんな舞火と蛍も轟太も同じ気持ちだったようで、舞火が口を開けると続けて声をあげた。


「そうですよ。明らかに様子がおかしかった……」


「あぁ、あんなアニキを見たことはねぇ。きっと、あの鶴巻っていう男に嫌なことをされたに決まってるぜ!」


口々に気持ちを吐き出す一同であったが、その中で境矢だけは口を閉ざして冷静だった。


境矢も麦を慕っていることに違いはないだろう。


それは麦が言葉にはできないことを教えてくれたからだ。


だからこそ、境矢は冷静でいることができた。


「お前さんも何か言いたそうじゃな」


口々に気持ちを爆発させる蛍、舞火、轟太の3人を置いて重春は冷やかな視線を境矢に向けた。


そんな重春の視線に誘導されるように3人もゆっくりと境矢のほうへ視線を向けた。


「そうですね……。花形さんになにがあったのかは知りません。しかし、これは僕達では手に負えないでしょう」


「なんだと!!」


思わず、息を飲んだ蛍と舞火とは違い轟太は大声をあげた。


「相手はあの“鶴巻グループ”ですよ。不良君だって鶴巻グループの大きさはわかっているはずだろ?」


世界に名を轟かせる企業であり、未だに成長が止まらない企業が鶴巻グループである。


当然、そんな企業を束ねる人物は野心家であり貪欲な男である。


そして、さっきやって来た男はその男の息子であることは口にしなくてもここにいる全員が理解していた。


「だからって…諦めるのか……」


感情に身を任せる轟太とは違い、境矢のほうが説得力があることは明白である。


感情だけではどうしてもどうにもならないことがあるのだ。


それが現実であることは皆、知っているが認めようとしない。


まさに、今の轟太がそうである。


「えぇ、ここは花形さんに任せたほうが良いでしょう」


「……てめぇ!!」


轟太は思わず境矢に向けて拳を構えたところで重春が仲介に入った。


「やめんか」


その一言と同時に距離を取られた轟太と境矢はお互いに睨みあって腑に落ちない表情を浮かべて、お互いに視線をそらした。


場の空気はますます、悪くなっていく。


いや、悪いという表現よりも重い、というほうが良いかも知れない。


「とりあえず、開けて見ますか?スーツケース……」


話題を麦からスーツケースに変えるように蛍はテーブルに置かれたスーツケースを指差した。


スーツケースに手を置いてた重春は言葉を口にすることなく、蛍に深く頷くとスーツケースを開いた。


誰もが予想していた通り、スーツケースの中には大量の札束が並んでいた。


いくら、入っているのだろうか。


そんな計算をするよりも5人はこの量の札束を店に黙って置いていく大胆な鶴巻の行動にゾッとした…。

次回の更新は1月8日(火)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

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